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会議2

 会議を終えたダリウスは、マーブとジェームスと技術班の一人を呼び出していた。


 ジェームスは、隣に座る女性を一瞥した。フェリシア、という名前の技術班のガワ担当の一人という事は聞いていたが、合うのは初めてだった。高身長だと思っていたが、かなり高いハイヒールを履きつつ、姿勢も良いのでそう見えるだけだった。


「忙しいところ、すまんな」


「いえ、大丈夫です」凛としてフェリシアが言った。


「C、D班の行う二つの作戦が成功しても失敗しても、黒羊内にいる二重スパイの捕捉と拘束は必須になる。そこで、その作戦をどのように行うかを現場レベルで考えておきたい」


 妙に軽い雰囲気であった。ジェームスは少し不思議に思いながらも、フェリシアが発言するのを待つ。


「主任の考えだと、二重スパイはガワを装着していると?」


「そうだ」


「だから私なんですね」フェリシアが整えられた眉を吊り上げ、微笑む。


「スパイのことは分かりませんけど、どんなに高性能であってもガワを攻略する方法はあるはずです」


「簡単ではないだろうが」マーブが肩をすくめる。それをぱっちりとした青い瞳でフェリシアが睨む。


「私は、ガワを攻略するには中の人間を攻撃するのが良いと考えています」フェリシアが自信ありげに言い、ジェームスに目配せし、


「それを感知するのはスパイや、蟲の仕事でしょ」


 ジェームスは愛想笑いをしてみたが、自分でもひきつっているのが分かる。女の子は苦手だ。特にこういうタイプは。


「ガワと内部のつながりを説明してくれ」


 フェリシアが立ち上がり、ホワイトボードに書き示していく。


「まず、ガワには二種類あると言えます。まず、誰でも装着でき、ある程度の服を着ていても装着できる簡易タイプ。これは皆さんも装着したことがあると思いますし、偽装にはよく使われます」


 フェリシアは読みやすく、はっきりとした字を素早く書いていく。


「問題は、装着時の不快感や疲労によって装着時間が短くなること、動きが鈍くなること、ガワの外見が巨漢に限定されることです。正直、このガワなら、暴くのは簡単です。疑いのある人物をある程度絞り込めれば、何かしらの攻撃で正体を晒します」


「確かにその種のガワは疲労してくると歩行などに変調をきたしたり、痛覚との関連も調整していないと微妙だしな。何より、高度な訓練を積んでいても、完璧にガワを動かせる時間には限界がある」マーブが補足を加える。


 フェリシアはやるじゃない、というように微笑む。


「その通りです。このガワは着ぐるみのようなものですから、対象さえ絞れれば暴くのは難しくない。しかし、問題は次のタイプです」


 一瞬、部屋の空気が固くなる。


「体の一部を改造、または長期間の装着を前提とした裸の状態での装着を行うタイプのガワ。これは見抜くのが非常に難しい」


 ジェームスは微かに姿勢を正す。自分の領分だからだ。


「この種のガワは高度に調整、オーダーメイドされ、痛覚などのフィードバックもあり、かつ何か月~何年の訓練により、完璧にその状態で生きることに慣れている状態を作り出している。かつ、体系もばらばらであり、様々な偽装機能が搭載されていることも多い」


「蟲でも難しいか?」ダリウスがジェームスに振る。


「ええ、生身の人間であると認識していたケースもありますし、今回、我々が会議への侵入に使うのもそのレベルですから、CIAの物となると相当であると考えます」


「どうするかな」ダリウスは体をのけぞらせた。


「やはり、ヒューマンエラーを瞬時に起こさせることですね」フェリシアが言う。


「ガワと証明できるエラーを一瞬でも良いので出させる……だとすると、痛覚か、知覚に関することになるのかな」ダリウスが言う。


「考えられるのはそれですかね」


 ダリウスは考え込み、「三日後、同じ時間に会議を開く。それまでに攻撃方法を一つ考えてきてくれ、ぼんやりで良い。掘り下げもそこで行おう。それでは」






 深夜十二時、やっと作戦の準備の準備が終わり、ダリウスは寮へ戻った。


 自室には本棚と机、ベッドしかない。


 一刻も早く寝たいところだが、ガワのテストをしたのと、神経が高ぶっていたので、ココアを入れることにした。


 細かく量を計算し、ココアパウダーをコップに入れ、少量のお湯を垂らす。パウダーをゆっくりと丁寧に練る。呼吸を整え、集中する。徐々にゲル状になっていく。


 元々ココアは好きだったが安眠効果があると知り、さらに飲むようになった。


 いまだに夢を見て飛び起きることがある。悲鳴を上げることはなくなったが、枕に置いてある拳銃を取るのは治らない。脂汗にまみれ、壁に背を向け、拳銃を構えていることに気づいた時、深い失望感を覚える。そして、引き金を引かなかったから良いじゃないか、と自分を慰める。


 祈るようにココアパウダーを練る。


 高性能のガワを装着すると、どうしてもその身体感覚が外した後も残ってしまう。痛覚がないため、それこそ身体でガワの触れる範囲、力加減、動かし方を覚えなくてはならない。


 ガワから戻るためにも、微妙な力加減が必要なことをする。それがダリウスにとってはココアを入れることだった。確かにガワを外してすぐの歩行や体操、アプリを使ったテスト等で大体は元の身体に戻っている気はする。しかし、微妙な感覚だけはまだどこか別なところにある気がするのだ。


 自分に戻っているかどうかを考えながらココアパウダーを練る。スプーンを折らないように、コップを傷つけないように、自分の手を傷めないように。


 そうやって徐々にガワの感覚を体から抜いていく。


 刃物を研ぐようにして、作ったココアにホットミルクを入れ、飲む。


 いつもと変わらない味に安堵する。眠気と疲労が感じられ始めた。


 ココアを飲み干し、コルトレーンをかけながら、寝る支度を始める。


 熟睡できそうな気がして、微笑み、ベッドに入った。

読んでいただき、ありがとうございます。

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