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会議1

 D班の蟲の整備、検査を行うジェームスは、電子的な音で覚醒する。爆発した長髪を掻きながら大きくあくびをする。


 暗闇が人工的な光で照らされ、ジェームスは目を細めた。朝の8時なので、外は明るいはずだが、この施設には窓がない。


 白く微かに光沢のある壁に囲まれた部屋を見まわす。ここは黒羊が使っている寮だ。オフィスから数分のところにあり、重要度の高い作戦を行う際にはここでの寝泊まりが必須となる。


 惰性でジェームスは固形の携帯食料を食べる。味気なさに泣きたくなったが、ダリウスやマーブの朝食を思うとまだ人間味を感じた。二人の食事と言えば、色々な物をぶち込んだオートミールやカレーを数秒~数分で流し込む、それだけ。


 着替え、寮を出る。とは言っても、寮とオフィスは長い廊下でつながっており、蟲の侵入は完全に防がれている。


 ジェームスは無駄に長い廊下を歩く。その中で、何個も監視カメラがあり、床も特殊なものになっており、ジェームス本人であることが確認される。


 廊下の分岐点には外へ出るルートがあるが、そこから入る際は、ロッカールームでパッキングされた服に着替える必要がある。


 ジェームスが廊下を進むと、防弾ジョッキに突撃銃を装備した兵士二人と、その奥の事務室で防弾ガラスの向こうで同じく武装した事務員がいる。


「おはよう、ジェームス」兵士が朗らかに言う。


「ああ、おはよう」ジェームスは改札を抜け、オフィスに通じるドアを開ける。


 やたら堅牢でシンプルな作りのドアだが、何かの意味があるのだろうと思う。


 日ごろの運動不足を解消するべく階段を上り、オフィスに行く。


「おはようございます」


 オフィスには、ダリウスとマーブがいた。ダリウスは黒いアイマスクを付けて、新聞を読んでいた。アイマスクは蒸気を出したり、層を重ねたりできるらしく、かつ付けていても見えるようにできる設計らしい。


「うっす」マーブが顔に疲労を浮かべ、腕を持ち上げる。夜勤のシフトなのだ。


「今日は、C班との会議ですね」自分のパソコンを起動させ、言う。


「ああ、メンバーが集まったら会議室へ行くぞ」


 そういってすぐ最後のメンバーが来たので、三人は隣の会議室へ向かった。


 今回、CIAの目的を探るべくC、D班による調査が命令された。二つの班がそれぞれ案を考え、会議で発表する。


 会議室にはすでにC班の主任と副主任が集まっていた。主任、副主任という名称はあくまでもどのような組織かを判別しにくいようにしているだけで、深い意味はない。


 青い洒落たスーツをきた痩躯の男はC班の主任であるミラーだ。彫の深い細面に洒落た眼鏡をしている。


 課長補佐が時計を見て、「それで、CIAの外部協力者をどのような方法で把握するか、だが」


「すいません、よろしいですか」ミラーが細長い手を挙げる。


「どうした?」課長補佐が睨む。


「仮にC、D班の作戦によって、CIAの協力者が捕捉できた場合ですが……取引も我々で進めて良いのでしょうか?」


 ジェームスは、C班の主任をちらりと見た。ミラーは、自分たちで協力者を見つけ出した場合、CIAと黒羊間で行われる取引も自分たちで行って良いのか、と聞いているわけだ。


「ああ、もちろんだ。それで考えてもらった案を各班に挙げてもらおう。まずD班から」


 ダリウスは立ち上がり、資料を見ながら話し始める。


「長期にわたる調査になりますが、カウンセラーに対し蟲を配置し、その生体データを収集した上で攻撃を行い、判断するのが良いと思います」


 ジェームスは、D班が今回行う作戦の内容を思い出していた。


 まずカウンセラーの職場、生活空間に蟲を配置。生体データを集め、攻撃されると弱い時間、タイミング(深夜や朝などの比較的思考や判断が鈍る時間帯や、家事や雑事、趣味をする際に素が出やすいような)や嘘のつき方を記録する。そのうえで、CIAのスパイである証拠を引き出させるためのテストを仕掛けるという物だ。一例として、カウンセラーがネットを見ている時に、架空の学術記事を表示する。


 ジェームスもニセ学術記事は読んでいた。内容は、常時監視状態を続けられたヒトの脳部位の活性化や一部器官の肥大化、鋭敏化による行動変化について論じている。冷静に読めば類似研究の結果など参照するまでもなく仮説の域を出ないと分かる。しかし、それを最も気が抜けている状態の時に常時監視状態の人間(CIAのスパイは、CIAによる常時監視を受けている)が読むと、正常な判断を下せなくなり、何度も読み返したり、それに影響を受けた行動をとってしまう。


 この作戦は、人間なら誰しもが持っている自分のことになると客観的に判断できなくなる思考時の誤りを利用している。


 判断基準として、どのくらい記事を読み込んだかと、読んでいるときの生体データの分析により、カウンセラーがCIAに関わっているかどうかを判断する。


 ダリウスもその内容を説明していた。使用する蟲の数などがホワイトボードに記入されていく。


 C班の主任であるミラーが細長い手を挙げ、「外部協力者だと判断する材料を用意したとして、それを確認するための作戦を何回も行う必要がある」


「そうですね」


「非常に時間がかかる上に、カウンセラーの生体データを完全に把握していないと、ミスも発生する。第一、そこまで生体データを取得できる蟲の設置場所にはCIAの監視があるだろう。蟲だって移動させなきゃだし、配置も一定時間に変えないとダメだ」眼鏡を光らせ、ミラーが言う。


 マーブがホワイトボードに問題点を書き出していく。


 ダリウスは少し考え、「我々のテストで、配置の変更もできるかもしれません」


 ミラーが、C班の副主任であるアルバートに、何か耳打ちした。アルバートは頷く。


「私はガワを使うべきだと思うがね」ミラーが言う。


 ダリウスは顎に手をやり、課長補佐と目配せした。


「ミラーの考えを聞かせてもらおう。ダリウス、一旦座ってくれ」


「その定例会議に参加する幹部の一人にガワでなり替わる。これも準備時間は長くなりますが、確実に情報を収集できる」


「勘づかれる可能性もあります」ダリウスが言う。


「ガワの調整に一カ月あれば、完璧な物ができます」ミラーは、課長補佐を見て、言った。


 今一つ納得のいかないダリウスを見て、ミラーは、「確かにD班の意見はありだとは思う。堅実だし、危険は少ない。我々の攻撃だとばれるのも時間がかかる。しかし、時間と労力はけた違いだ」


「そうだな」ダリウスは渋々頷いた。


「では、我々はC班の作戦の裏で準備だけ進めるというのはどうでしょう」


「いいだろう」課長補佐は頷いた。


「報告書の提出は、C班の作戦が実行段階、もしくは実行中に出しても構いませんか?」ダリウスが言う。


 作戦報告書は、課長補佐を通じ、黒羊を知る幹部にも渡される。そこで承認をえないと作戦は実行できない。


 課長補佐が一瞬、怪訝な顔をし、「いいだろう。ミラー、今の作戦、詳細を詰めるぞ」


 ミラーは頷き、立ち上がった。

 読んでいただき、ありがとうございます。

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