王手
幹部による承認が下り、D班の作戦は実行されることとなった。
蟲を配置し、二週間、地味なテストが繰り返された。徐々にスパイ容疑者が絞られていき、ついに5人のカウンセラーが容疑者として挙げられた。
ジェームスは、攻撃でスパイ疑惑が上がる5人を見て、震えた。
5人の男女は定例会議で言っていた5人ではなかった。だが、定例会議で捕捉されていた5人が偶然にもスパイ疑惑がかからないように行動したり、運よくテストを避けたりした。
つまり<定例会議リスト>の5人がCIAの協力者であることが確定した。これにより、CIAが欲しがる外部協力者の特徴を完全に手に入れたことになる(特別プログラムの関係者に限るが)。また、<定例会議>を動かし、CIAを制御することもできると証明されたわけだ。
ダリウスが満足そうに眼を閉じ、マーブと目配せし、うなずく。
「終わったな」
主任の声に、全員が安堵の声を上げた。
ダリウスは結果を伝えに課長補佐室に向かった。
その間に、ジェームスはマーブと握手をした。
しみじみとした達成感に包まれ、色々なことを考えた。
しかし、帰ってきたダリウスは浮かない顔をしていた。
国防総省に情報を渡し、作戦を終了しろ。そう告げられたと知った時、ジェームスでさえ、怒りで体が震えた。これからの調査は国防総省が行う。B、D班は待機。
ダリウスはぐったりとして、椅子に座りこんだ。
マーブは納得がいかない様子だったが、ボスの様子を見て、黙っていた。ただ、一人、喫煙所で無表情で煙草を吸っていた。
ジェームスは作業を行いながら、こぶしを握り、震えた。
「そういう事か……」あまりの怒りに声が出てしまう。
C、D班の行う作戦は最初から国防総省への貢ぎ物だったのだ。多分、国防総省は、黒羊が知る前からCIAの動きを補足し、調査していた。そして、ある程度、CIAの目的は把握できたのだろうが、それに何らかの疑念を抱いたのだろう。そんな時にCIAからSOH社への仕事の依頼が来た。これは利用するしかない、と依頼を受けるように幹部に言い、自分達とは別の方法で同じ対象を調査させ、同じ結果が出るか確かめさせたのだ。
僕たちは、国防総省の作戦で得られた情報の裏を取ると同時に、補助を行っていただけじゃないか。これでは、SOH社は自分を自分で守ることさえできないじゃないか。
ダリウスは椅子に座り、目をつむり、ずっと何か考えていた。しかし、マーブが帰ってくると、二人は目配せした。
ダリウスは頭を下げ、ため息をつき、「すまない、みんな……作戦は中止だ」
マーブは頭をたれ、震えた。
「なんてな」ダリウスは言い、白い歯を見せ、笑い始めた。マーブもつられ、狂ったように二人で笑い始める。
ジェームスとサムは顔を見合わせ、愕然とした。
ダリウスは笑うのをやめ、「いやいや、ここまで予想通りとはな」
「国防総省の強引な介入。そんなものは初めから分かってましたからね」マーブが続く。
「そう……なんですか?」ジェームスが枯れた声で言う。
「もちろん、作戦は中止だ。カウンセラーへの攻撃で捕捉した5人の情報も渡す」
ジェームスは違和感を覚え、
「それは、定例会議で捕捉した5人とは違いますよね?」
「そうだ」
「という事は……嘘の情報を国防総省に伝えるんですか?」
ダリウスが声を出さずに笑い、「俺たちは作戦の隅から隅まで幹部を通じて国防総省に伝えている。国防総省は作戦を承認し、これなら裏が取れるだろうと判断した。なら、それで得られた情報だけ渡せば良い。定例会議で捕捉した5人は、今回の作戦では捕捉できなかったのだから、伝える必要はない」
ジェームスは思わず口笛を吹き、すぐに赤面した。
「だが、まだ戦いは終わりじゃない。<定例会議>の行動は、止める。つまり、CIAからすれば、スプークからの攻撃が途絶えたことを意味する。CIAは<定例会議リスト>を特別プログラム従事者から、本格的な囮へと変えるだろう」
「それでは我々の努力は?」サムが呻く。
ダリウスは微笑み、「つまり、CIAはこれからスパイとして運用するカウンセラーを新しく選定するという訳だ。そこで我々が作ったCIAが欲しがりそうな人材に対する監視を強め、その上で二重スパイを暴く。そうすれば、CIAと取引を行う状態から再び諜報戦が始まるときにこちらが有利な状況を作れる。そのためには我々D班の人間だけでは手が足りない……だからこそ、C班、D班内にいる二重スパイを暴き、協力状態を作り上げることが必須になる」
「ですが、一体、どうやって二重スパイを捉えるんですか?」
ダリウスは悪い笑みを浮かべ、「訓練施設を利用する」
ジェームスは恐怖とも快感とも分からない感覚に襲われ、微かに、悶えた。
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