秘密工作
日付が変わるか変わらないかの微妙な時間、ようやくダリウスは寮の自室に戻れた。
部屋に戻り、腰にさしていた拳銃を抜く。その瞬間、自分が裸になったような気持ちになり、すぐに元に戻した。
パソコンでコルトレーンを流す。ココアパウダーを練りながら、一人、これまでの作戦について考える。
数時間前、課長補佐がミラーを監視する不審な黒羊の隊員を発見。C班のその男は拘束され、尋問でCIAの二重スパイであることを話した。しかし、特別プログラムの内容はほとんど知らされておらず、自分に指示を出すCIAとの中継役の正体も知らなかった。つまり、本命はいまだに生き残っている。
彼、もしくは彼女を見つけないことには、これからどうしようもないのだ。
完璧な偽装。それをどう暴くか。
フェリシアの報告書には、内部への攻撃、瞬間的なヒューマンエラーを狙うべきと書いてあった。
痛覚か、知覚への攻撃だろうと報告書にはまとめられ、手を瞬間的に引っ込めたり、視線を動かしたり、表情が変わったりすることを確認するのだという。どう、偽装を突破するか。偽装ソフトが発動しない、発動できないにはどうするか。
様々な攻撃方法とそのリスクについてまとめてある。それをぼんやりと眺めた。
ふと指にココアパウダーがついているのが見え、はっとした。
ガワ、指……偽装の突破。
脳裏で何かが弾け、つながって、光っていく。
ダリウスはコップを置き、メモを取ると、課長補佐に連絡を入れる。
報告を終え、何度か脳内でシミュレーションを繰り返す。一応、満足のいく結果は出たが、脳は興奮していた。軍で修得した就寝方法を使い、強制的に眠りにつく。
朝、起きてすぐに課長補佐の部屋に向かう。
「髭くらい剃っても良いと思うがな」部屋に来るなり、課長補佐が言った。
「迅速に行動しないと間に合いませんので」
「確かにそうだ。フェリシアと一名は呼んである。もうすぐ来る」
すぐにフェリシアと髭がもじゃもじゃの男が現れた。
フェリシアは、男を見て、言葉を失っていた。男はジャケットを着、帽子をかぶり、サングラスをしていた。その佇まい硬質で重厚であった。その特殊部隊であることを隠そうともしない風貌にフェリシアは驚いていた。
「こちらはジョン」
ジョンと呼ばれた男が二人に会釈。
「二人のことは聞いています。それで、我々の仕事は?」ジョンがまとう空気が変わる。彼は課長補佐が所持している少数精鋭の部隊で、重要度が高い任務にのみ参加する特殊部隊だ。元特殊部隊出身者から構成されたその部隊は幹部もその存在を知らない。
「訓練さ」課長補佐が笑って言う。
「訓練は好きですよ」ジョンは軽い口調で言う。
課長補佐がジョンに資料を渡す。
ジョンは素早く読み、「我々が主導でテストを行って良いんですね?」
課長補佐は頷く。
ジョンは少し考え、「我々の所有する訓練施設との相違点は少ないですが、少し調整が必要ですね。一人、訓練施設の隅々まで知っている者をよこしてください。もちろん、偽りの理由で呼び出してもらいたい」
「分かった」
ジョンはフェリシアに顔を向け、「それと、フェリシア、CIAが使うような高性能なガワを用意するために君のチームのメンバーや機材を借りたい」
「は、はい!」見知らぬ男に名前を呼ばれ、微かに驚いている。
「さぁ、秘密工作の始まりだ」ジョンが無邪気に微笑んだ。
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