作戦失敗
【1】
ガワの準備は着々と進んでいた。
C班がガワと、ガワに成り代わられる幹部に関わる処理を行っている。D班はCIAが欲しがりそうな外部協力者の選定と、蟲の配備を進め、外部協力者にCIAがかかっていないかを調べた。
一か月後、ついに作戦が起動した。
朝の9時、D班は本部で監視を行いながら、その進展を見守っていた。
「アーネットは哀れですね」マーブが、ガワに成り代わられる幹部の名前を口にした。
「大丈夫。あの男は自分が騙されたことも知らないし、いざとなれば長期的に記憶の改ざんを行う作戦を実行して、つじつまを合わせる」
「これで無事、偽アーネットが得た情報から特別プログラムやスパイへつながればいいですが」
「報われてほしいものだ」ダリウスはモニターに映るC班の技術担当を見た。最終調整を徹夜で行ったためか、主任を除き、全員が偽装バンで眠りについていた。
「よし、C班の諸君。作戦開始だ」無線から感じる限り、ミラーの声は疲労を感じさせながらも、覇気があった。
アーネットの回収班も生体データに異常はない。何か妨害が起こった場合の別動隊もそこまで緊張していないように見える。
C班の実働部隊が動き、アーネットを回収。ここまでは予定通りだ。そして、黒羊の用意した施設内で入れ替わる、というのがミラーの計画だ。
「これが成功すりゃ、今度は情報の真偽を確かめる業務も追加か」マーブも目元に疲れをためていた。
「それはC班主導でやってくれるといいが」ダリウスも微かにため息をついた。今日、カウンセラーに対する作戦の報告書を出したばかりだった。
作戦は計画通りに始まり、今のところトラブルはない。
家を出るアーネットを蟲の死角で、ガワと入れ替える。当然、アーネットは何も知らず、工作員に連れられ、別の場所に移動する。そして、CIAの振りをしたC班の工作員が、尾行を撒くためとか適当なことを言いつつ偽の会場へ移動。そこで、偽の会議を受けさせ、最後にこれはテストです、とか適当に誤魔化す。
その間にも、ガワ(偽アーネット)は会議に出席するべく、秘書の車で移動していた。秘書含め、アーネットが偽物だとは気づいていない。
「後で問題にならないといいが」
ダリウスが進捗を確認しているのを見て、マーブはガワとアーネットの入れ替わるときの映像を確認することにした。
複数のディスプレイの一つに数分前の映像を出す。
「おい、ジェームス」マーブが少し体を出し、ジェームスを呼んだ。
ジェームスが素早くマーブのデスクへ行き、マーブは近くの使っていないワークチェアをジェームスに勧めた。
マーブは作業の手を完全に止め、ガワの交換を様々な視点から確認している。
オフィスに課長補佐が現れ、「気づいたか?」
ダリウスは、一瞬で嫌なものを感じ取った。
「ガワの交換に失敗している」課長補佐が額に浮かんだ汗をなでて、言う。
ダリウスはモニターに映像を大きく映し出した。
「現場はまだ気づいてない……」マーブが片耳だけヘッドホンを当て、呻く。
「現場に報告しますか?」ダリウスは課長補佐を見る。
「いや、しない」課長補佐が髭を撫でながら言う。
ダリウスは足元に置いていた水を口に含み、ゆっくりとコップを手元に置いた。息を大きく吸い、緊急時の対応を思い出し、今やるべきかを考える。
「C班は失敗に気づいていません」マーブの声にも焦りが見えた。
ダリウスは額の汗を拭き、「D班は極秘裏に妨害の可能性を探ります。緊急時の通りに」
「極秘裏に頼む」課長補佐は何か考えながら言った。
ダリウスは班員を見つめ、「大丈夫、失敗も織り込み済みだ。焦らずにやろう」できるだけ表情をやわらげ、冷静になるようにジェスチャー。
マーブがジェームスに水を進め、ジェームスが勢いよくあおる。
「マーブ、ジェームス、サム、周辺のリアルタイムの映像を出し、作戦妨害者を探れ」ダリウスは素早く指示を出し、ディスプレイに今動いている作戦行動中の隊員の表示地図を呼び出す。
少しずつ、落ち着いていくフロアの中で、ダリウスの中である考えが浮かぶ。
ガワの交換が失敗したのではない、初めからガワは交換される予定ではなかったのだ。それを裏付けるようにC班は失敗に気づく素振りすら見せない。つまり、これは二重スパイをあぶりだす計画だった可能性がある。
ダリウスは静かに椅子に座り直し、これからのことを考え始めた。
【2】
C班の作戦が土壇場の変更で失敗したことが明らかになった。C班は待機を命じられ、ミラーは幹部から査問にかけられることとなった。
ダリウスは女王蜂のところにいた。
部屋の奥で、煙草を吸いながら、女王蜂はダリウスの話を聴いていた。
「何も変わっていない」女王蜂はダリウスを見つめる。
「ミラーの失敗は初めから仕組まれていた。多分、ミラーもそれを了承していた。査問はともかく、監視されることに関しては何か企んでいるに違いない」
「かもしれん」ダリウスは言いつつ、当たっていることを感じていた。
課長補佐は、ミラーにこれから極秘の作戦をさせ、それを黒羊内の二重スパイが確認することを待っている。それで二重スパイが連れれば良いのだが。
「リストを使う時が来た」
女王蜂がダリウスを睨み、うなずいた。
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