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作戦準備

 ジェームスは、マーブと街を車で進んでいる。今回の仕事は、移動、逃走に使用するルートの確認と設置されている監視カメラ、投函所(諜報機関が使う、情報の受け渡し場所)の整備と点検だ。


「予定通りに進んでいるな」マーブが微かにほっとしたように言った。


「そうっすね」


 ジェームスは、何か相談などが始まる雰囲気ではないのを察し、素っ気なく相槌を打つ。確かに、工事や特定のイベントなどでルートが使えなくなることはなさそうだ。


 監視カメラの多くは、D班の外部協力者が運営する会社の防犯カメラを使っている。スーパーやコンビニ、オフィスの入り口などの監視カメラの一部を借りているのだ。


 2人ともガワを装着し、中型車で移動する。ジェームスとしては、ダリウスが会議で「準備を進める」と言ったのを拡大解釈して、実際に作戦を開始するC班、D班の使用する施設のカメラやセンサー類の掌握を行う任務がしたかった。しかし、それは別のメンバーが行っている。


「次はここだな」マーブが車を止め、建物を見上げる。小奇麗なビルで、SOH社とは全く関わりのない建築関連企業に見える。


 マーブと2人でそこに入り、機械の点検に来たと告げる。あらかじめ連絡をしてあったため、すんなり通され、セキュリティの部屋に通される。


 部屋は狭く、モニターが何台かあるだけ。無造作に置かれたパイプ椅子に老人が座っていた。


 ジェームスは管理用のパソコンを起動、点検を始める。


「異常なし、周囲の蟲も正常に起動しています。データへの侵入もないですし、問題はありません」


「大丈夫そうだな」


 数分で作業を終え、老人に礼を言って建物を後にする。


 車に乗ると、マーブが思いつめた表情で、「なぁジェームス」


「なんですか?」


「もし、お前に恋人ができたとしてだ」


「ええ」


「価値観、趣味、外見……様々な点でかなり相性の良い娘が現れ、何年か付き合ったとする」


「はい」


「結婚さえ考えていたある時、当然、彼女から激しい暴行……そうだなバットか何かで昏倒させられて、目が覚めたら俺がいるんだ」


「は?」


「今までの付き合いは俺がすべて操っていてさ、お前が人を完全には信用しなくなるようにするためのテストだった、という訳だ」


 ジェームスは黙ってしまう。


「今までのことはすべて嘘で、お前を試すためのテストだと、そう言われたらどうだ」


「嫌ですね」


「それ以上のことがある世界だという事を、そして、今回、CIAはそんな手を平然と使ってくる敵だとお前は認識できているか」


 ジェームスは背中に悪寒が走るのを感じた。


「情事を撮られ、脅されるならまだ良い。裏切られ、全てを失って精神的にぼろぼろにされ、殺される。俺だって、そういう方法を使う。尋問と称して拷問をするし、女子供も殺す」


 マーブは隣に座る若い技術担当をちらりと見て、「お前がついてこれるか心配だよ、俺は」


 この男は嫌いだ、としみじみとジェームスは思った。





 ダリウスはいざという時に逃げ込むためのセーフハウスの確認をしていた。


 逃走用ルートの途中にあるコンドミニアムの二部屋がセーフハウスになっている。


 このコンドミニアムは、入口に認証があり、カードとパスワードがないと入れない。認証を抜け、階段で5階まで上がる。5階なのは、スロープを使った避難にかかる時間と、蟲の飛行能力の限度で決めた。


 他の住人がいないか確認し、ダリウスは突き当りの部屋に入る。ドアを開けると、また目の前にドアが現れる。そこで動きを止め、周囲につけられていた小型のサーキュレーターで風を受け、蟲を簡易的にではあるが剥ぎ取る。


「待ってましたよ」中から坊主頭の男が顔を出す。ダリウスの外部協力者のロバートだ。普段はこのコンドミニアムの別の部屋に住んでおり、この部屋の管理を任されている。


「すまない。また世話になるかもしれん」


「構いませんよ、とは言えないですね」ロバートがため息をついた。


 部屋は広く、三部屋あり、大人が五人は泊まれる。ベッドが二つ、簡易用のベッドが三つ。


「電気、水道、ガス、問題ありません。定期的にゴミも出してますし、一定量の電気、水道は利用しています。毎日、俺やら他の仲間を使って、部屋を利用しているように見せかけてます」


「偽装には金がかかるな……」


「ま、慣れてますんで」ロバートが顔を皺くちゃにして微笑んだ。


 ダリウスは書類のチェックから始めた。隠されている金、カードも確認。保存食、水、医療品も確認する。


「電子機器の調整、終わってます」ロバートが言う。


 ダリウスもノートパソコンや、スマートフォン数台、サーバーの調整と動作確認を行う。


 電子機器の確認を終えたダリウスは隠されていたガワと蟲の確認を始めた。ガワも蟲も高級品だが整備性が悪い。いざという時に使えないというのは笑えない。


 最後に警棒、拳銃、ナイフのチェックを始める。拳銃は分解し、部品に傷などがないか確認し、組み立て、動作確認を行う。


 最後に閃光手りゅう弾と煙幕の確認をした。


「駐車場の車の確認もお願いします」


 ロバートが言い、ダリウスはのっそりと立ち上がった。

 読んでいただき、ありがとうございます。

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