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85話 最強の力を我が手に

「これ開けて帰るんじゃダメだし……?」

「ルッルちゃんめっ! 我慢ですよ~」


 あれから何匹もサソリの魔物に襲われ、ようやく1階層の宝箱を発見した。

 ヴィヴィのお姉ちゃん口調が腹立たしいが、今は言い返す気力もない。

 

「し、しんどいのである……。やはりD級ダンジョンは拙者たちには荷が重い」


 サスケも弱音を吐いている。

 サソリの魔物一匹程度ならあたしが気を引いて、サスケが攻撃を加える形でどうにか倒すことができる。

 だがあくまでどうにか、というレベルだ。

 格上の魔物との連続戦闘は気力をすり減らしていった。


 それでも死なずに宝箱までたどり着けたのはヴィヴィのお陰だ。

 そう思えば子供扱いのひと言やふた言、我慢もできるというもので――。


「んー、お疲れですねぇ。そうだ、お姉ちゃんがおんぶしてあげます! ど、う、ぞ!」

「あたしはお前より年上だって何回言えば分かるんだしッ!!」

「ルッル殿、我慢であるぞー」


 背中をこちらに向けて屈み込んでいるヴィヴィ。

 あたしホントこいつ嫌いだしッ!


 そりゃ1階層の宝箱から伝説級の薬である<神酒>が出てくる可能性は低いだろう。

 それは分かっているのだが、1階層でなんとかギリギリ戦えているという状況だ。このままでは最上階どころか2階層の突破すらあやうい。

 いくらヴィヴィが強いといっても、前衛一人で突破出来るほど、ダンジョンというのは甘くはない。

 せめて罠解除ができるサスケは同行する必要があるだろう。


 であればあたしは不要なのだが、ここに一人で置き去りにされたら死んでしまう。

 一度ダンジョンに足を踏み入れた以上、脱出までは一蓮托生だった。

 

「通常は階層が変われば魔物の強さも上がる。しかし相性というのもあるのである。退路も確保できた事だし、2階層の様子見ぐらいはしてもよかろう」

「引かぬ媚びぬ! 背中の傷は武士の恥ですね!」


 聞く耳持たないいつものヴィヴィに対して、あたし達はじとっとした視線を投げかける。



「さてはこやつ、意地でも最上階に連れ行くつもりであるな……」

「だんだんコイツが死神に見えてきたし……」


 最悪は引きずってでも撤退しなきゃいけないだろう。

 幸い、あたし達は道に迷うことだけはない。


「ムーシ、階段の位置はわかるし?」

「うむ。だがこのダンジョン変わっておる。表には確かに入り口が3つあったのに、中では繋がっておらん」

「そうなんだし?」

「どうやら合流するのは最上階のようじゃの」


 他の冒険者の助けは期待できないという事だ。

 必ず出現する宝箱の争奪戦にならないという意味では親切設計なのかもしれないが。

 

「最上階は早いもの勝ちですね! では早速ゴーです!」

「なまじ強いからたちが悪いのである」

「師匠と同じだし」


 きっとこのトカゲ娘も賞金首だし。



----

 

 どこか間抜けな顔をした大きなトカゲが、かぱりと口を開けた。


「あれ何してるんだし?」


 目の前のトカゲは2階層に入ってから初めて遭遇した魔物だ。

 シュバルツゲイザーと同種族のようにも見えるが、大トカゲは魔物ではない。

 戦ったとしてもさほどの強さは持っていない。

 

 しばらく眺めていると、トカゲの魔物の口から紫色の霧が吹き出した。

 あれは見るからに――。


「いかん、毒である!」

「ポイズンリザードですね! アレを吸ったら3分後に痺れビレ!」

「毒ばっかだし!」


 通路の中に逃げ込むが、ここは密閉された塔内である。

 このまま走り続けても、いつかは逃げ場がなくなる。


「一階層に戻るし!」

「む、<守護者>よその先に――」


 来た道を走り抜け、最初の広間に入った時である。

 そこにはあたし達を待ち構えるかのように、小さなトカゲが立ちはだかっていた。


「ポイズンリザードの子供だし?」


 大きさはあたしが片手で持てる程しかない。

 先程のポイズンリザードが1メートル程だったことを考えれば、随分と小さいといえる。


 後ろの通路からはドタドタとポイズンリザードが追いかけてくる音がする。

 こんなちみっこの相手をして、足を止めている場合じゃないし!


 ちみっこはこちらに向かって口を大きく開けた。

 毒の霧を吐くつもりだし?

 こんな小さな口から吐かれる毒なんて全然怖くも――――。


「いかん! 避けるのじゃ!!」

「は――?」


 

 轟ッ!



 ムーシの警告の声と同時に横っ飛びしたあたし達。

 そのすぐ脇を、激しい熱をまとった火球が通り過ぎていった。

 その大きさは、それを吐いたちみっこの身体よりも明らかに大きい。


 あたしは振り返り、壁にあたった火球がその周辺に火の手を上げているのを確認した。

 石造りのため、延焼する心配がないことが幸いではあるが、随分な威力だ。


 ちみっこに視線を戻すと、まるで舌をチロチロ出す動きのように、小さな火を吐いていた。



「な、なんだしあのトカゲ……?」

「火を吹くトカゲなんぞ、火竜以外に聞いたことがないのである」

「あたくし知ってます。お酒を飲んでいるうちに封印された邪竜です! 首が八本!」

「いやいや、首が足らんであろう」

「斬新ですね!」


 首が八本ある邪竜ではなさそうだが、強力な火球は吐き出すだけも十分脅威だ。

 

「<守護者>よ、そのトカゲは――」

「げっ! こっち向くなしッ!」


 まったく悪意を感じない表情でコテン、と首を傾げるちみっこ。

 動作は可愛らしいが、吐き出す炎の威力が洒落にならない。

 あんなものが直撃したら一瞬で火だるま。

 水がないこの場では致命傷になる。


 ちみっこが顔を向ける直線上にならないように、横に横にと走っていくが、動き獲物が気になるのか視線はあたしを追っている。

 あああ、全然振り切れないし。

 このまま火球を吐かれたら避けられない。


 あたしが必死に広間のなかを駆け巡る中、事態はさらに悪い方向へと転がる。


「ギャギャギャウ!!」

「いかん、さっきのポイズンリザードである!」


 部屋の入口から顔をのぞかせているポイズンリザード。

 追いつかれてしまった。

 挟み撃ちの状況だけでも厄介なのに、もし今ここで毒霧なんて吐かれてしまったら――。



「歯が丈夫そうです!」

「まずいのである! 奥に退避――――ぬおぉぉ!!」


 ポイズンリザードが大きく口をあけた。

 毒霧を吐く予備動作だ。


 慌ててちみっこの脇をすり抜けようとしたサスケに向かって、ちみっこが黙っていなかった。

 大きな火球がサスケを襲う。


 向こうをむいたし、チャンス!

 あたしは一気に出口に向かって走り出した。


 一方サスケは直撃は避けられたものの服に引火してしまい、ゴロゴロと転がってそれを消し止めていた。

 だがそうこうしている内にポイズンリザードが毒霧が迫る。

 部屋全体に拡散するように吐かれたそれは、既に避ける隙がなかった。


「はやくこっちに来るし!」

「くっ、もはや間に合わん!」


 サスケは毒消しを口に含むためだろう、倒れ込んだ姿勢のまま腰袋をまさぐっていた。


 近くにいるヴィヴィもまた、同様にマントの裏から何かを取り出そうとしている。

 そうして出てきたのは毒消し――ではなく、2つの小さな麻袋だった。

 一体何が入っているのか、ヴィヴィはその中身を毒霧に向かって撒き散らし――――。



「<砂嵐(サンドストーム)>ぅ!」


 そして塔の中に巻き起こる砂嵐。

 砂はごく少量であるものの、激しく吹き付けるそれが起こした風によって毒霧は通路の向こうへと追いやられていった。

 

 そうか、砂を袋にいれて持ち込んでいたのか。

 そうすれば塔の中に砂がなくても――――って。


「最初からやれしッ!」

「感じますね! 生きる喜び!」

「いいからポイズンリザードもさっさと――――おっとだし」


 ポーンと高く舞い上がって飛んできた何か。

 それをあたしは両手でキャッチした。


 ふふ。突然飛んできたものを落とさずにキャッチする。

 こんな芸当ができるようになるなんて、あたしも随分成長をしたものだ。


 そして手の中にあるそれを覗き込むと、くりくりとした可愛らしい目と目があった。



「きゃーーーーーーーーー!!」

「ギャウーーーーーー!!」


 思わず手を前に突き出し、ちみっこを思い切り握りしめた。

 すると腹を押されたちみっこは叫び声を上げながら、前方に大きな火球を吐き出す。

 それは通路付近に立っていたポイズンリザードに直撃し、大きな火柱をあげた。


 あたしは手を伸ばした体勢のまま、唖然とその光景を眺めていた。


 無言のまま、しばらくしてもう一度ちみっこの腹を押してみる。

 すると再び火球が吐き出され、今度はポイズンリザードが光の粒へと変わった。



 こ、これはもしや……。



 あたしはおそるおそるちみっこの顔を覗き込む。

 するとそこには――。



「ぎゃう?」


 首を傾げてあたしを見返す、可愛らしいトカゲ。

 敵意のようなものは見えなかった。




 さ、最強の力を手にいれてしまったんだし――――?


 

 

 

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