表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/104

74話 上級スキルの使い方

 師匠の試合が終わってから3日。

 今日、<英雄皇子>の優勝が決まった。


 決勝戦はそれなりに盛り上がったようだが、<英雄皇子>にスキルを使わせた人はいなかったみたいだ。

 2回戦の<黒の歴史書>の試合が、本当の決勝戦だった。という者までいるらしい。


 師匠は負けたけど、やっぱり凄かったんだし。

 あたしは気を失っていて試合をみれなかったけど……。


「ねえムーシ、師匠はどこにいるし?」

「その名を――むぅ。まあよい。一般人なら街中におるぞ」



 試合のあとからずっと、師匠は姿をくらませていた。


 宿には帰ってきているし、姿を見る事もあるんだけど、すぐにどこかに行ってしまう。

 話しかけてもなんだか上の空で、元気がない感じだ。

 しばらくすれば元に戻るとみんな言っているけど、もう3日経つ。


 キルトさんの行方についてはムーシと一緒に探ってみたのだけど、おそらくもう街を発っているだろうという結論に達した。

 精霊同士気配とか探れないのかと思ったけど、どうやら余程近くにいないと気づけないらしい。


 記憶を戻すと人には戻れない、なんて言ってたけど、あんな人達のところにいるのは危険だ。

 必ずあたしがキルトさんを助け出してみせるし。



「ルッル殿は、急に動きが良くなったであるな。なんぞコツでも掴んだか?」

「んふふ。突きと払いは完璧だしっ!」


 サスケが言うように、あたしはついに払いをマスターした。

 というか、この間<守護者>の力を解放した時の感覚が残っているのだ。


 ムーシに「力を解放すれば修行いらないし?」と聞いてみたところ、<守護者>の能力は確かに感知を広げるけど、武技のコツを掴むとか、そんな能力はないとのこと。

 どうやら日頃の練習で、身体が学習している事が正しく発揮されているだけのようだ。

 だから普段の訓練はサボるわけにはいかない。


 身体の方があたしより才能あるってどういう事だし……。



「それにしても人類の<守護者>とは。とてもそんな風には見えないであるがなあ」

「やる気もないし」

「それはそれで人類滅ぶのではないか?」


 どのみちあたしなんて大した戦力じゃないし。


 この間はエルフ女が油断してたから攻撃を当てられた。でも、次はどうだろう。

 ドレスアーマーなら動きが素人だからなんとかなるかもしれない。

 けど遠距離攻撃してくる弓士に近づくなんて芸当、あたしには無理だ。

 師匠とフォートさんの試合を観たあとだと、余計にそう思えてしまう。


「本戦に出ていた人たちの誰にも勝てる気がしないし。きっと全部避けられるし」

「さもあらん」

「情けない。過去の<守護者>はこう言っておる。『攻撃が避けられるなら、避けらないように攻撃すればいいじゃない』」


 過去の<守護者>って、ジュリアンヌさんだし?


「うーむ。深い教えであるなぁ」

「そうだし? バカっぽいし」

「いやいや。なかなかどうして的を射ている」


 その言葉を残した時、ジュリアンヌさんはとても素早い魔族と戦っていたらしい。

 いくら攻撃されても避けられ、「一体どうすれば……」という仲間の言葉を受けての発言だったそうだ。


 ジュリアンヌさんは地面を叩き割り、その割れ目に落ちて動けなくなった魔族にトドメをさしたのだとか。

 もちろん木っ端微塵である。



「<守護者>って相手を木っ端微塵にする以外で選択肢ないし?」

「相手が弱すぎるだけじゃの。エルフ女は原型を保っておったぞ?」

「まさに人類最終兵器であるな」


 そんなのごめんだし。


 ムーシがいう世界の危機は魔王の復活。

 そして魔王の目的は世界樹の破壊。

 魔王とはこの世界で唯一、世界樹を破壊できる力を持った存在なんだとか。


 そんな魔王は現在勇者の力で封印中。

 その封印を解く手段として考えられるのが、四元素精霊を閉じ込めた精霊石を封印にぶつけること。


 精霊石は精霊が死ぬ時に、復活までの手段として一時的に篭もるための卵のようなものだ。

 そのままにしていれば一年以内に精霊は復活するが、3年前に精霊石になったはずの風精霊は、いつまで経っても復活をしなかった。


 異常を感知したムーシは調査を開始。

 結果、何者かが風精霊を精霊石の中に閉じ込めているものと判明する。

 その理由を魔王復活のためと結論づけたムーシは、対抗手段としての戦力を探した。


 最高戦力である勇者の力は魔王封印に使われている。

 そのため、次点で人類の<守護者>の力を持つものを探した。


 そしてたまたま<守護者>として目覚めたあたしを見つけた。

 という事になる。



「あたし思うんだし」

「なんぞ?」

「まだ四元素精霊は三人も残っているし。光の精霊とムーシも合わせれば五人だし。今のうちに力を合わせて、魔王復活を阻止すればいいし」


 師匠も言っていた。

 数は力だ。


「精霊というのは存在の位相が違うのじゃ」

「いそう……?」

「ようは自分だけじゃ何もできん、という事じゃな。我が<守護者>を見つけたように、協力してくれる誰かしらが必要なのじゃ」


 そしてそれは、大体が上級魔法を扱う人間なのだとか。例えば<天地創造>をもつ<武帝>は、土の大精霊の協力者、という立ち位置らしい。

 ただ精霊が直接コンタクトを取ってくる事はほとんどないため、その事を本人が知っているかはわからないとの事だが。


 それに上級スキルと呼ばれるスキルを持つ者が、全て協力者とも限らないらしい。

 ムーシは「まあ、スキルの区分なんぞ人間が勝手に決めてるだけじゃからな」と言っていた。



 それはそうと。


「あたしはムーシの協力者になった覚えはないし?」

「それはあんまりではないか<守護者>よっ!」


 魔王討伐なんてまっぴらごめんだし。



----


「カメメメ! 褒めるカメ! 称えるカメ!」

「……よっ、社長」


 最前列の席でふんぞり返っている亀女ことオトヒメさん。

 それは今あたし達が座っている席が理由だ。


 <武帝>対<英雄皇子>の最強決定戦。

 その最前列という超激レアチケットを入手してきたのだ。


「2回戦以降、当たりに次ぐ当たり! 資金がどんどん増えたカメねぇ!」


 どうやら賭けで稼いだ金でこの席を買い取ったらしい。

 一体いくら儲けを出したのか、全員分の席代をだしてなお、その懐は温かそうだ。


「ディはいないね」

「バッカ木刀が落ち込むなんてなぁ。あいつもちっとはまともな感覚があってよかったじゃねぇか! ガッハッハ!」


 フォートとラウダタンはそこまで師匠の心配をしていない様子だ。


「しかしこんな絶好の試合を見逃すとは、ディ殿は本当に傷心なんであるな」

「師匠、どこにいるし……」

「ん? 一般人なら――――」


『さあ皆様お待たせ致しました! ついに始まります世紀の一戦! 世界最強と言われる二人の対決だぁ!!』



 実況の声が響き渡る。

 同時に、満員の観客席から地鳴りのような歓声。

 ムーシが何か言いかけていたが、あたしの耳には届かなかった。


 

『まずは武帝祭の優勝者! 圧倒的なその実力で他者をまったく寄せ付けずに勝ち続けた男! 世界最強の一角! <英雄皇子>ことアルベルト・フュル・グラディアス選手ーー!!』



 手を振りながら入場口から現れる<英雄皇子>。

 大歓声にも余裕の対応だ。

 ゆっくりと闘技場の真ん中まで歩き、立ち位置についた。

 

 そしてしばらくして会場の歓声が止んだ頃。

 


 ドンッ!


 ドンッ!


 

 何かを打ち鳴らす音が聞こえた。

 横を見ると、オトヒメやサスケが音に合わせて足を地面に打ちつけている。


「な、なんだし……?」

「カメメメ! 武帝祭のお約束カメ!」

「初めてみた時は度肝をぬかれたものよ」

「……名物です」


 気づけば会場中から地鳴りのように、足を打ちつける音が響きわたっていた。


 何千人もの人間が、一斉に足を打ち鳴らす。

 ただそれだけだというのに、それはまるで巨大な生き物の咆哮のように生命力に溢れていて、肌をぞくぞくと震わせた。



『足を鳴らせ、地を震わせろ! 熱いビートは届いたか!? あいつの胸に届いたか!? 足りない足りない足りないぞぉ!! お前の全力みせてみろぉーー!!』


 実況の声に呼応して、観客席から怒声のような雄叫びがあがる。

 ヒートアップしていく観客たち。

 鳴り響く音はもはや爆発しているかのようだ。


 そしてそれが最高潮に達した時、それは起こった。



『きたきたきたきたぁーー!! 筋肉を愛し、筋肉に愛された男ぉぉぉ! つぶらな瞳の百戦無敗! 我らが<武帝>ッ! コアラッタ・ユーカリーノぉぉぉ!!』



 ――巨大。


 そう、あまりに巨大なコアラの石像だった。


 それが闘技場の地面から、ゴゴゴゴ…、と地響きをあげてせり上がってきたのだ。


 そのコアラ像がおかしなところは大きさだけではない。むしろそれは些細な問題だろう。

 異様なのはそのコアラの全身が、生物的にあり得るのかというぐらいにガチガチの筋肉で覆われているところだ。


 一言でそれを表現するなら――――気持ち悪い。



「「ぶっ、てぇぇぇえ、い!!」」

「「ぶっ、てぇぇぇえ、い!!」」



 会場から起こる武帝コール。

 もの凄い人気だ。

 あたしは種族による感性の差というものをヒシヒシと感じていた。


 あれにあんな風に熱中するなんて絶対無理だ。


 いや、よく見れば会場にはあたしと同じように死んだ目をしている獣人族の女の人もいる。

 種族だけの問題ではないし。


「ぶってぇい! カメェ!」

「あれの何かいいんだし……?」

「……その内にクセになるのです」


 ええ……。いやだし。


 そして巨大な石像がビギビキと音を立ててひび割れていく。

 それは石像全体にまで広がり――。



「オレっち登・場ぉーー!! おらぁ愚民ども、鍛えてっかぁーー!?」



 石像を粉々に破壊し中から現れたのは、石像とまったく同じ姿形をしたコアラの獣人だった。



 あたし、帰ろっかな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=254398965&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ