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45話 無職のヒモ野郎

 マーシュランの冒険者ギルドは、マイラ島とほぼ同じ規模だ。

 ただやはり国が違えば様子も変わる。


 アルメキア王国ではどこの街のギルドも酒場のような内装だった。

 しかしここではカーペットが敷かれ、壁にはタペストリーが飾られている。

 酒場ではなく喫茶店のような店構えになっていて、いくつか並んだ丸テーブルを冒険者たちが囲んでいた。


 面白いのはホビット用に足の長いイスが用意されているところだ。

 ホビット族の成人なのだろうが、他種族とテーブルを囲んでいる姿は子連れの客にしか見えない。


 僕がギルドに足を踏み入れると、何人かがぎょっとした顔をしたが、すぐに何か思い当ったようで視線を外した。

 おそらくこの黒い仮面のせいだろう。

 黒髪の僕がつけると、首から上が真っ黒に見えて闇の波動を感じるに違いない。


「ぱっと見た感じは……いないな」


 ギルドを見渡すが、3人はいないようだった。

 冒険者として依頼に出ている最中かもしれないし、とりあえず受付に聞いてみるか。


「人を探しているんだが」


「うおっ。な、なんだ仮面か……。それ怖いぞ」


 受付はホビット族の男だった。

 背の低いおじさんだ。


 見た目の違和感すごいな。


「最近この街にきた冒険者で、赤髪の魔法使いの女、緑髪の凄腕弓士、背丈ぐらいの金棒を持ったドワーフはいないか?」


「いや、そんな目立ちそうな奴らなら見逃すわけもねぇし、来てねえよ」


 確かにあの三人は目立つからな。

 ギルドに来ていたら嫌でも覚えているだろう。


 となると少なくとも冒険者ギルドには来ていないか。


「そうか。もしそいつらが訪ねてきたら英雄が探していたと伝えてくれ」


「はあ?」


「ふっ、それで伝わるさ」


 さて、こんな体じゃ依頼は受けられないが、とりあえず見るだけみておくか。


 依頼ボードの前に立ち、端から依頼書を眺めていく。


 素材採取系の依頼がいくらか出ている。

 どうやら近くにダンジョンがあるみたいだな。


 あとはG級の街中の手伝いも多い。

 ホビット族だと力仕事が苦手だから、他種族の冒険者に依頼を出す機会が多いのだろう。

 

 おっ、ポショの花の採取依頼もあるな。

 1束……銀貨5枚?

 ずいぶん安いな。


 採りやすいのか、それとも物価が安いのか。

 たぶん後者だな。

 他の依頼も王都の半額以下だ。


「普通に買い物できたし、通貨は王国とおなじなんだな――って、これは!」


 それは、犯罪者たちの顔と賞金額が書かれた手配書が貼られている、賞金首ボードの中にあった。


 英雄っぽくないから普段あまり見ていなかったのだが、ルッルの家でやたらと見つめられた顔があったのでついつい目がいってしまった。


 なんか全員顔見知りみたいに思える。


 僕は1枚の手配書を剥がし、マジマジとそれを見た。

 そこに描かれているのは1人の男。

 ルッルの家には貼られていなかったが、もの凄く見覚えのある顔だ。

 実物より随分目つきが悪い。


 アルメキア王国の王都襲撃犯。

 たった1人で軍の兵舎を襲い、逃げ失せたイカレた凶悪犯罪者。

 マイラ島出身。

 黒髪の双剣使い。


 そう、それは間違いなく――――僕だった。


「生死を問わず。賞金額――金貨50枚だと?」


 おいおいおい。

 それはいくらなんでも――安すぎるだろう?


「くっくっくっくっ……! ダークヒーロー路線か……いいね、悪くないッ!」


 もちろん最終的には世界を救う英雄となる。

 なるが、それはそれ、これはこれ。

 途中で闇落ち英雄をやったっていいだろう!


「返り討ちにしてやるぞ賞金稼ぎども……っ! ハーッハッハッハッ!!」


 腰に手を当てて高笑いをしている僕に、周りの冒険者が何事かと視線をむける。

 しかし真っ黒の仮面の男が大声で高笑いをしている事になにを感じたのか、誰も声をかけてくることはなかった。


 贅沢をいえば二つ名をつけてほしかったが……、まあ後の楽しみだなっ。

 よし、ルッルに自慢しよう!



----


「あたしがどこにいようと、あたしの勝手だし……! 構わないでほしいし……!」


「勝手じゃねえよ、なんたってお前は――」


 ギルドの外に出ると、ルッルがホビット族の冒険者に絡まれていた。

 子どもの喧嘩のようにも見えるが、相手は3人だ。

 男3人で女の子1人を取り囲むのは、種族の壁を越えてどの国でも褒められた行為じゃないだろう。


 座り込むルッルは仮面をつけていない。

 どうやら目の前の冒険者に取り上げられたようだ。

 ルッルはそれを取り返そうとしているが、頭を押さえられて手が届かない。


「おい、俺の連れになんの真似だ?」


「ああ? なんだてめ……うわっ。な、なんだてめぇ!?」


 ホビット族の冒険者は僕の仮面をみて、驚いたような声をあげた。

 この仮面そんな怖いか?


 僕はルッルと男の間に立った。

 ホビット族は背が小さいから、自然と見下ろす形になる。

 冒険者たち3人は、気圧されたようにジリジリと後ずさっていく。


 くくく、こちとら金貨50枚の高ランク犯罪者だ。

 そこらの冒険者とはオーラが違うのだよ、オーラが!


「お前、そいつがなんなのか知ってるのかよっ!」


「昆布ぐるぐる巻きの恩人だ」


「こ、こんぶ……? そうじゃねぇよ! いいか、そいつはなぁ……!」


「タット……! やめ――へぶしッ!」

 

 冒険者の男がなにかを言いかけた時、ルッルがそれを止めようと男に駆け寄ろうとして――盛大にこけた。


 両手を伸ばしていたものだから、受け身もとれずに顔から地面に突っ込んだ。

 あれは痛い。


 ルッルは両手をまっすぐ伸ばして、地面に突っ伏したまま動かない。

 僕も冒険者3人も黙ってその様子を見ている。


 誰も助けてくれないと悟ったのか、ルッルはもぞもぞと起き出して、キッと冒険者の男を睨んだ。


「女に暴力振るうなんて最低だしっ……!」


「いやなにもしてねぇよ!」


 間違いない。

 だが事実と真実とは違うものだ。

 

 僕はゆっくりと冒険者の男に歩み寄り、その肩に手を置いた。


「――泣いてる女の顔がたまらなく好きだっていうその悪趣味。まだ治ってなかったんだな、タット?」


 初めて会ったはずの僕に名前を呼ばれて、冒険者の男――タットは目を丸くしている。

 しかしそれよりも劇的な変化を見せたのは、その仲間の二人だ。


「え、タットの知り合いか? お前、泣いてる女の顔が好きって……」


「そんなわけねぇだろ! こんな奴知らねぇよ!」


「なんだよ忘れたのか? 初めてあった日も女の子を泣かせてたじゃないか。あんな小さな娘の頬を何度もたたいて、もっと泣けもっと泣けって……。ははっ、いま思い出してもドン引きだぜ」


「タット……お前……」


 タットの仲間二人は恐ろしいものを見たかのように、タットから少しずつ距離を取った。

 それを引き留めようとタットが手を伸ばすと、ヒッ、と小さな悲鳴を上げてさらに距離が開く。


 もうひと押しだな。


 僕がさらに追い込みをかけようとした時、ルッルが一歩前に進み出た。

 おずおずとした様子で、目の端に涙をため、かすれる声でルッルは言った。


「もう、痛いのは……やめて……」


「いやだから俺はそんな事……っておい待てよお前ら! 違うって! ホントそんなんじゃないって!!」


 ルッルの言葉がとどめとなり、少女加虐趣味者となったタットのもとから、仲間二人が背を向け離れていった。


 膝から崩れ落ちるタット。

 そしてその後ろで僕とルッルはハイタッチを交わした。


「悪は滅んだし。家に帰るし」


「おう。そうだ聞いてくれよ。実はすごい事があってな――」


 真っ白な灰となって風に飛ばされていくタットを尻目に、僕らは家路へとついた。

 ちょっと<エア・コントロール>で風を強めておいてやろうか?



----


「ホントに金貨50枚だし……!」


 家に帰り、ルッルはわなわなと震える手で僕の手配書をつかみ、食い入るようにみていた。


 帰り道で僕が金貨50枚の凶悪犯罪者だと伝えてやったのに、全然信じていない様子だったので、これ見よがしにルッルの手配書インテリアに加えてやったのだ。


「兵舎襲撃……戦闘狂の愉快犯……? 意味不明だし」


「ふっふ。では聞かせてやろう」


 アンリが拐われたところから、船に乗って王都を脱出するまでの壮絶な冒険譚をルッルに聞かせてやる。


「――だが俺は諦めない! 仲間の想いに応えるためにも、諦めるわけにはいかないんだ!」


「そんなっ……! ――えっ、空を……!?」


「――俺は叫んだ『フォート! スカーフェイスの目を射抜け!』」


「頑張るし……! フォート頑張るしっ……!」


「それでもアイロンゴーレムはビクともしない。撤退が頭を過ぎった。でも俺の心が問いかけてきたんだ、『ホントにもう出来る事はないのか?』ってな」


「キルト凄いし、そんな威力の魔法を……!」


「哀しみに心が崩れ落ちそうになる……! だが、キラちゃんが命を捨てて作ってくれた隙を、俺は見逃すわけにはいかなかった――っ!」


「キラちゃん……! おのれ騎士っ……!」


「――そして星の灯りが一筋、暗闇の海を照らしていた。それこそがアイヴィス様の導き。俺たちはその希望に向かい手を延ばした。だがその時、叩きつけるような風が頬をうち、大波が船を呑み込もうとしていた!」


「大冒険だしっ……! 物語みたいだしっ……!」


 僕はこれまでの冒険をルッルに全て伝えた。

 時に激しく、時に静かに。

 神に愛され、試練を乗り越え。

 仲間と紡いだ心が踊る最高の冒険譚だ。


 ルッルは終始興奮した様子で、僕の話にかぶりついていた。


「事情はわかったし。昆布ぐるぐる巻きはしばらくウチで暮らすといいし。あたしが養ってあげるし」


「いや待て、なぜそうなる」


 そんな事がキルトにバレたら、僕は一生ヒモ野郎扱いされるだろう。


「賞金首がギルドで依頼を受注なんて、できるわけないし。素材の買い取りだって、冒険者タグを出した時点でお縄につく事になるし」


 ぬう。

 反論できん。


 いやしかし、ずっと養ってもらうわけにもいかんだろう。

 大体、任せたとしてもルッルはちゃんと稼げるのか?


「安心するし。じいちゃんが残してくれたお金がまだあるし」


「賞金稼ぎなんだろ?」


「2年続けて、捕まえたのは昆布ぐるぐる巻きが初めてだし」


 いや、捕まってないから。

 というか今まで誰も捕まえてない賞金稼ぎって。


「それ無職じゃないか?」


「失礼だし。働く気はあるし……!」


 気持ちだけじゃなあ……。


「普通の仕事しろよ。いつまでもじいさんの遺産で食ってけないだろ?」


「ヒモのセリフじゃないし。大丈夫、あと2週間は暮らせるし」


「ギリギリじゃねえかよ!」


「あたしが本気を出せば余裕だし……! 昆布ぐるぐる巻きは安心して家でぐーたらしてればいいし」


 結局、僕の体調が戻りしだい、素材の売却をルッルが代行するということで話は落ち着いた。


 キルトにだけはバレるわけにはいかん……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、なんだ、てめ…うわっ、なんだ、てめぇ このセリフ好きだなぁ(^^)めっちゃ気持ち分かる。
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