2章 プロローグ
くそっ、まだ威力が足りない……!
巨大なヘビの魔物の攻撃をかわし続けるも、薄っすらと白いモヤが立ち込めるここは視界が悪い。
足元は沼地となっていて、万が一にでも足を取られて動きを止めたら致命的な隙となる可能性がある。
<グラビディ・コントロール>の準備が整えば問題なく倒せるだろう。しかし――。
「ルッル――!」
ヘビの魔物に阻まれた向こう側。
長い木の棒を持って戦う茶髪の女の子――ルッルが、ドレスアーマーを来た緑髪の女に殴り飛ばされた。
水音を立てて、沼地に倒れこむルッル。
すぐにでも駆けつけてやりたいが、僕の相手はいつものごとく、やたらとタフだ。
その巨体は、<エア・スラスト>でなんど貫いても致命傷には至らなかった。
なんとかその傍をすり抜けてルッルの元へ駆け寄ろうと試みる。
しかし執念深いヘビの魔物は、獲物と狙い定めた僕を決して通そうとはしない。
「ジャアァァァァ!」
「ちっ――!」
ルッルは立ち上がったようだ。
まだ大丈夫だ。
そもそもあの緑髪の女はルッルを連れ去ろうとしているのだ、殺したりはしない。
だがルッルの実力ではいつやられてしまってもおかしくない。
一刻も早くこの邪魔なヘビ野郎を倒してしまいたいのだが――。
「二連”エア・スラスト”!」
ズズン、と世界樹の木刀が30センチ程ヘビの腹に突き刺さる。
木刀を引き抜いた箇所からは紫色の血がドバドバと流れ出てくるが、ヘビの魔物は意にも介さずにこちらへ体当たりを仕掛けてきた。
バックステップで下がりながら空中へ駆け上がる。
そのまま<エア・ライド>で上から駆け抜けて――!
「しま――ッ!」
その巨体に見合わない速度で振り抜かれたヘビの尻尾が、空中にいる僕を沼地へと弾き飛ばした。
咄嗟に木刀で防御はしたものの、僕は地面を跳ねながら吹き飛ばされていく。
ぐるぐる回る景色の中でなんとかバランスを取り、足でブレーキをかける。
盛大に水しぶきを上げ滑り続け、しばらくしてからようやく止まった。
だがルッルが戦っている場所まで結構距離があいてしまっている。
遠目で茶髪の少女が転がされているのが見えた。
多少戦えるようになったとはいえ、ルッルでは相手にならない。
「くそっ――!」
迫りくるヘビの魔物の向こう側、ルッルと対峙している緑髪の女のさらに向こう。
フード被って、仮面で顔を覆っている人物に向かって僕は叫んだ。
「目を覚ませよ、キルトッ!!」
声が聞こえたのかフードの人物がこちらを向く。
――だが、それだけだった。
仮面の奥の瞳からは、何も感情を感じられない。
ただ無機質な目で。
僕を見ていた。




