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21話 素人はバッカ野郎

「ファイアボール!」


 キルトが魔法名を唱えると、人の頭ぐらいの火の玉が杖の先から発生し、岩つぶてへと飛んでいった。

 速度はかなりのもので、見てから避けるのは難しいだろう。

 ましてやゴロゴロ転がるだけの岩つぶて。

 まったく避ける様子もなく火の玉が直撃したが――。


「やっぱり効果はないですね」


 火がおさまった後に、表面がやや黒ずんでいるだけの岩つぶてをみてキルトがそう言った。

 まあ岩は燃えないからな。


「次に威力を高めて撃ちます」


 スキルは神の使徒たる精霊の力を借りて行使すると言われている。

 スキルを使うと体内魔力が減るため、体内魔力を捧げた見返りとして精霊に協力してもらっているというのが教会の教えだ。

 その為、魔力を多く捧げればその分威力が高くなる。

 レベルアップをしていくと体内保有魔力も増えるらしいので、同じ火魔法であっても、高ランクの冒険者と駆け出しの冒険者では威力がまったく違ってくるのだ。


「炎の精霊サラマンダーよ、我が授かりし火のスキルに応え、岩をも溶かす灼熱の炎で彼の敵を焼き払え――ファイアボール!」


 キルトの杖の先に、人と同じぐらいの大きさの巨大な炎の玉が発現した。

 先程と変わらない速度で岩つぶてに襲いかかったそれは、たっぷりと数十秒燃えた後で消えた。


 体内魔力の消費量と合わせ、呪文の詠唱は魔法の威力を高めるそうだ。

 文言に決まりはなく、精霊に自分がどうしたいのか詳しく伝わるようにするのがコツだとか。


「ダメ――みたいですね」


 相当な威力があったように思えたそれはしかし、岩つぶての表面を真っ黒に焦がしたものの、致命傷を与えるものではなかったようだ。


 キルトは魔力を大きく消費して、肩で息をしている。


「それで、〈アーカイブ〉の情報ってのは何だったんだ?」


「今のは普通の火魔法を試しただけです。〈アーカイブ〉の情報の検証は今からですよ」


 息を整えたキルトは、再び杖を真っ直ぐに構えた。


「最初、<火>についての情報を解読しようとしていましたが、取っ掛かりがなさすぎて難航しました。そこで同じ単語がどこかに出ていないかと思い、<光>と<空気>についても見てみました」


 船の中でだな。

 写し出すの大変だったんだぞ……。


「すると<火>と同じ単語が他の情報の中にも繰り返し出てくる事に気づきました。<空気>の説明の中です」


 ほう。

 空気と火が関係あるのか?


「それからしばらく<空気>の情報を調べました。読み取れないところがほとんどですが、おそらく<空気>は火属性に関わる何かを含んでいます。その仮定に立ち、もう一度<火>の情報を調べてみて、1つの仮説が出来ました」


 キルトは岩つぶてに目を向けながら、体内魔力を練り上げているようだ。

 岩つぶては先程から全く動かない。

 光の粒にならないから生きてはいると思うが……。


「おそらく私達が普段目にする<火>は、<空気>に含まれる何かの半分も使っていません。だから、<空気>にあるその何かを全て使って火魔法を放てば、倍以上の威力を発揮するのではないか。それをこれから試します――」


 キルトは杖を両手で握り直し、神に祈るように天に向かって抱えた。洞窟の中だけど。

 そして先程とは違う呪文を詠唱し始めた。

 練り込まれた魔力が辺りに充満していく。


「火よ、火よ、我らが灯火よ。心細き我らを導き、この世界に僅かに灯る雄々しき火よ。神の力を預かりし我が許しの声を聞け。その身を縛る枷は消えた。いま、全てを喰らい、全てを煤塵と化す時――ファイアボ――」


「っ! ダメですキルトさん!!」


「っち!」


 まさに魔法が発現しようとしたその瞬間、フォートが大声でキルトを止めた。おそらく未来視の力で1秒先に起こる何かを見たのだ。


 何が起きるかは分からないが、僕は<エア・ライド>を発動してキルトを抱え込むようにしてその場を飛び退いた。

 

 瞬間、先程までキルトがいた場所に火の玉が発現した。体内魔力を高めて放った先程のファイアボールと同じぐらいの大きさだ。

 しかしその熱量は比較にならない程だった。

 離れているにも関わらず、火傷をしそうな程に熱さを感じる。

 そして目を開けてみるのが辛いほどに光り輝いている。


 もしキルトがあの場に残っていたら、火傷どころの話ではなかっただろう。


 火の玉はその場に留まり、どんどん風を取り込んでいく。このままでは際限なく火の勢いが増していきそうである。


「<エア・コントロール>!」


 僕は<エア・コントロール>で火の玉の周りに風が流れていかないようにした。

 それでも僕のスキルの力に逆らうように、止めている空気を喰い破ろうとする力を感じる。


 さっきの詠唱のせいで、火の精霊が風を喰らい尽くそうとしているのか。


「ぬぐぐぐぐ……おっ!」


 火の精霊と風の引っ張り合いをしていると、急に抵抗がなくなった。

 どうやら、抱えていたキルトが気を失って魔法が効果を失ったらしい。


 僕は残った熱がこちらに来ないよう、坑道の奥に向けてゆっくりと風を流していった。


「よかった。あのままだとキルトさんが死んでたかもしれないよ……」


「ああ、助かったよフォート」


 まさか術者自身に影響を及ぼすほどの威力になるとは。普通は自分のスキルで傷つく事はないんだが。

 やっぱり神の知識を使ったスキルは普通のスキル行使とは違うんだな。


 とにかく、気を失ったキルトを抱えたままダンジョンにいるのは危険だ。

 一度地上に戻るべきだな。


「フォート、俺が先導するからキルトを頼む」


「わかった。僕も何か手を考えないとなあ……」


 そうだな。

 フォートはこの街で冒険者としてやってくわけだから、ダンジョンの魔物を倒せないのは困るだろう。


 結局キルトが言ったように、僕らはそれぞれ課題を抱える事になった。

 まあ僕は困ってないけど。



----


 翌日、僕とフォートは鉄器通りと呼ばれる、アイロンタウンのメインストリートに来ていた。

 おそらく買い付けに来ているであろう商人でごった返している中を、周りの店を見ながら歩いている。


 キルトは「仮説は正しかったです。あとはどうやって使いこなすかを考える必要がありますね」と言って宿に残った。

 魔力切れで気を失っていたようだし、一日ぐらいは休養が必要なんだろう。


「それにしても鉄製品ばっかりだな」

 

「そりゃまあ鉄器通りだしねえ」


 この街の店は、店舗があっても閉め切らず、半分屋台のような形で商品を並べている。

 だからこうやって表通りを歩いているだけで、どんな商品があるかは大体分かるのだが、今の所は鍋や農具などの生活用具だけで、冒険者が使うような武器を売っている店はないようだ。


「鍛冶屋ってのはマイラ島にも少しはいたが、もっと煩いイメージだったけどな」


 鉄と鍛冶の街、というわりにはハンマーの音が聞こえてこない。


「区画が違うのかな。でも王国の鉄といえば鋳造(ちゅうぞう)だからね、あんまりハンマーで叩いたりしないんじゃないの?」


「その鋳造(ちゅうぞう)ってのはなんだ?」


「鋳造は溶かした鉄を型に流し込んで製品を作る方法だよ。鍛造(たんぞう)はハンマーで叩いて伸ばして形を作っていくやり方だね」


 なるほど。

 マイラ島でやっていたのは鍛造(たんぞう)だったんだな。


「わざわざ叩かなくていいなら全部鋳造でやればいいのにな」


「なんだとてめぇこのバッカ野郎!!」


「おお?」


 すれ違いざまに歩いていた男にいきなり怒鳴りつけられた。

 背は随分小さいが、顔には髭が生えているので子供というわけではないだろう。

 やけに筋肉質でずんぐりむっくりなこの体型は、ドワーフと呼ばれる種族だな。

 マイラ島で鍛造の鍛冶をやっていたのもドワーフだった。

 

 そのドワーフの男が僕に向かって怒鳴ってくる。


「全部鋳造でいいだと!? バッカ野郎、おめぇこの……バッカ野郎! いいわけねえだろ! おめぇ戦闘中に折れる剣に命預けんのかよ!」


 なんかバカバカと偉い口が悪いな……。

 特に言い返さずに黙っているとさらに畳み掛けてくる。


「いいか! 鉄ってのはよお、叩かねえと強くなんねえのよ! 粘りってもんが出てこねえのよ! 鋳鉄なんてもんはよ、ありゃ硬ってえだけで粘りがねえ! すぐにバキっと折れちまうんだよ!!」


「硬いのに壊れるのか?」


 硬いなら壊れにくそうだが。

 素直な感想を述べた僕に対し、ドワーフの男は額に手を当てて大げさに首を降った。


「かーっ! これだから素人はバッカ野郎なんだ! 硬けりゃいいってもんじゃねえ! 硬いってのは割れやすいってことよ! 少しでも傷がついたらそこから真っ二つだ!」


 僕は昨日の岩つぶてを思い出した。

 なるほど、確かに真っ二つだったな。あれに粘りがある、ようするに硬いスライムだったらどうだったか。きっとあれでは倒せなかっただろう。

 スライムに打撃は効かない。全て衝撃を吸収してしまうからだ。


「なるほどな。つまり粘りが衝撃を吸収して壊れにくくするわけか」


「おっ、分かってるじゃねえか! そうさ、そのバランスこそが鍛冶屋の腕の見せ所よ! まあまだまだ奥は深いがな! 究極の鉄ってやつぁよ!」


「究極の鉄か……いい響きだ」


 いつかその究極の鉄で出来た剣を手に入れたいものだな。

 いや、僕ならきっと剣の方から寄ってくるか。


 ドワーフの男は話が通じたのが嬉しかったのか、バシバシと僕の背中を叩きながら豪快に笑った。

 もう少し力加減どうにかならないかな……。


「がっはっはっ! おめぇ木刀なんか持ってるくせに話がわかるじゃねえか! よし! うちに来い! 鋳造品なんかじゃ作れねえ本物の鉄ってやつを見せてやっからよ!」


 僕はフォートに視線をやった。

 フォートはいつもの苦笑いで頬をかいている。

 まあどうせ道も分からなかったしな。着いて行っても構わないだろう。


 そうして僕とフォートは豪快なドワーフに連れられ、鍛冶屋街へと向かったのだった。

皆様から少しずつ評価頂けるようになり、日々感謝です……!

頂いたコメントやレビューを参考に、第一章の結の部分を少しずつ改稿中ですm(_ _)m


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― 新着の感想 ―
[気になる点] どう考えてもキルトの方がアホでは?
[一言] つまり、ディとキルトの合成技が炸裂するんだな(^^)
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