ナハトリッターとの合流、その頃ブレイカーズでは・・・
今回ちょっと下品なシーンがありますので、ご注意下さい。
一方、国道の方では……
「ふぅ~……遅いなぁ少年……何やってるんだぁ?」
一足早くブレイカーズ基地を脱出していたナハトリッターが、リクの到着を待っていた。
ナハトリッターはボンネットや車体に三日月のエンブレムが描かれている純白で4シートのオープンスポーツカーの右ハンドル運転席に座りながら、タバコで一服していた。
既に車に備え付けられている灰皿には、真新しいタバコの吸い殻がこんもりと山を作っていた。
『……正一さん、もう30分経ちますよ。そろそろ諦めて引き揚げないと、こっちもヤバいですよ?』
フロントにセットしていたスマートフォンから、注意を促すような若い女性の声が聞こえてきた。
そこでナハトリッターは左手首に巻かれた腕時計を確認した。
ちょうど短い針が12と1の間を、長い針が7と8の間を指していた。
ナハトリッターは「ふぅ~……」と体内に残っていた紫煙を全て吐き出すと、吸っていたタバコを灰皿に積まれた吸い殻の山に突っ込み、改めて口元をマフラーで覆い隠した。
「仕方ないか……悪く思うなよ、少年」
リクへの謝罪を呟きながらナハトリッターがエンジンを着けようとキーに手を伸ばした……その時である。
「……おぉ~い!おっさぁ~ん!!」
若い男の声とバイクのエンジン音が遠くの方から聞こえてきたのだ。
「んぅ?」
ナハトリッターが声の聞こえてきた方向に顔を向けると……
「おぉ~い!」
フルカウルのオフロードバイク……ブレイブスターに跨がったリクが、ナハトリッターに向かって包帯代わりの蜘蛛糸を巻き付けた左手を振っていた。
リクはナハトリッターが乗っているオープンスポーツカーの運転席側にブレイブスターを横付けした。
「……遅かったじゃないか少年。どこで道草食ってたんだ?」
「いや、まぁ……ちょっとな」
ナハトリッターからの問いかけに、リクは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
『き、気をつけて下さい、マスター!コイツはナハトリッター……ブレイカーズの敵の一人です!』
「あぁ……その……後で説明すっから」
画面に映った擬人化イメージの顔を青くさせるブレイブスターに、リクは今度はため息を漏らした。
「……」
ナハトリッターはブレイブスター上のリクを頭のてっぺんから脚の爪先までじっと観察した。
そして何を思ったか、自身の着ていた純白のロングコートを脱ぐと、
「ほれ」
「……えっ?」
それをリクに投げ渡した。
いきなりコートを渡されてリクは目を丸くし、ブレイブスターの方は何がなんだか分からなくなっているらしく、画面上に映し出されている擬人化イメージの頭上に大量の?を浮かべていた。
「な、なんだよ?いきなりこんなの渡して……」
「……自分の格好をよく見てみろ」
「え?」
ナハトリッターに言われて、リクは改めて自分の今の姿を確認した。
先程まで着ていた入院患者が着るような服は、ズタズタに引き裂かれて下半身を覆い隠す分しか残っておらず、上半身裸となってしまっていた。
その上半身も、胸部を中心にして手術跡のようなものが大量に浮き上がっており、極めつけとして腰に大きなバックルのベルトを装着していた。
「……そんな格好でバイク乗り回してたら、目立ち過ぎて警察から職質食らうだろ?とりあえず、それ着てろ。裸よりはマシだ」
「は、はぁ……」
リクは内心、「自分だって、不審者丸出しな格好してる癖に……」と思ったが口には出さず、言われた通りに渡されたロングコートを羽織った。
ナハトリッターのロングコートはリクの体よりも一回り……いや、二周りは大きく、捲らなければ手首が完全に隠れてしまう程袖が余ってしまうし、裾に至ってはウェディングドレスのように引きずってしまう有り様だった。
「……これ、すんげぇダブダブなんだけど?」
「男が細かいこと気にするな。我慢しろ」
不満を隠そうともしないリクの言葉に、コートを脱いで背広姿をあらわにしているナハトリッターはクールな対応をした。
リクは不満げな表情を浮かべていたが……
『心配要りませんよ、マスター』
そこにブレイブスターが慰めるような言葉を掛けてきた。
『……私の内蔵データベースにインプットされている情報によりますと、サイズが大きな衣服を纏った……もしくは袖が余って手首が隠れている姿というのは、いわゆる『萌えシチュエーション』の一種として俗に『オタク』と呼称される方々に大変な人気があるらしいですよ!嘆くよりもむしろ、誇りに思うべきですよ!』
「………お前それ、慰めになってねぇぞ」
ブレイブスターの論点からしてずれている発言に、リクはなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。
そもそも、『萌えシチュエーション』がどうこうなんて情報が何故戦闘用のバイクにインプットされているのか?
リクはブレイブスターの製造者が、一体何を考えてそんな情報をインプットさせたのか……理解できなかった。
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
リクとブレイブスターの会話をすぐとなりで聞いていたナハトリッターは、腹を抱えて大笑いした。
「いやぁ……中々面白いバイクじゃないか。大した拾い物したな、少年」
「……誉めてんのか?それとも、馬鹿にしてんのか?」
「もちろん誉めてるのさ。決まっているだろう?」
そう言いつつナハトリッターはキーを回して、車のエンジンをかけた。
ナハトリッターの車のボンネットの下から力強いエンジン音が響き渡り、排気管からはガスが漏れ出した。
「さて、それじゃあさっさと逃げるとしよう。俺の後についてこいよ」
「あ、あぁ……わかったよ」
ナハトリッターの言葉にリクは生暖かい返事をすると、ブレイブスターのハンドルを握った。
ナハトリッターのスポーツカーが走り出すと、その後にリクを乗せたブレイブスターが続いていく。
他に走っている者がいない国道で、月明かりと電柱の灯りだけが二台を照らし出していた。
☆☆☆
その頃―
「『取り逃がした』……だとぉー!?」
ブレイカーズ基地の司令室にて……ブレイカーズ大首領である剣神龍次郎は専用の豪奢な玉座に腰をおろし、その周りには幹部陣が取り囲むように立っていた。
龍次郎は戦闘員ブレイクソルジャーからの報告を聞くと、これでもかとばかりに憤慨していた。
「キュゥ~!?」
その肩の上では、シマリスのチャメゴンが両前肢を腰に当てて龍次郎の真似をしていた。
「は、はい……申し訳ございません、大首領閣下……。ナハトリッターが解放した改造人間被験者達は、幾人かは捕らえましたものの……残念ながら大多数を取り逃がしてしまい、あろうことかムーンモストロ捕獲に向かったアラクネモストロ様も、逆にムーンモストロに倒されてしまいました……」
龍次郎に報告しているブレイクソルジャーは、包み隠すことなく全てを伝えていたが、龍次郎の態度を恐れてか、それとも龍次郎と共に自分の報告を聞いている幹部陣からのプレッシャーに耐えられないのか……その声には謝罪の気持ちと同時に恐怖の感情が混じり、体は小刻みに震えていた。
「し、しかし!捕獲できた被験者らは皆、Aクラス改造人間体で!その他の被験者を取り逃がした事の埋め合わせとしては申し分なく……」
未練たらしく言い訳染みた事を口にするブレイクソルジャーに、龍次郎は額に青筋を浮かべながら玉座のひじ掛けを叩いた。
「言い訳無用ぉぉっ!!」
「ヒイィィィ!」
怒りを隠そうともしない龍次郎からの一喝に、ブレイクソルジャーは怯えすくんで、情けない悲鳴を上げた。
龍次郎は玉座から立ち上がると、指をパチンッ!と鳴らした。
龍次郎のスナップを合図にして、報告をしていたブレイクソルジャーを別のブレイクソルジャー2名が取り押さえた。
続いて龍次郎は取り押さえられたブレイクソルジャーに右腕を向けて宣言した。
「……チャメゴンの小便の刑に処す」
「ヒィィィィィッ!!そ、それだけはぁぁぁ!!」
龍次郎の無慈悲な判決に、取り押さえられているブレイクソルジャーは涙を流しながら許しを乞うが、時すでに遅し。
「キュー♪」
チャメゴンは嬉しそうに一鳴きすると、龍次郎の肩から腕をつたってブレイクソルジャーの頭部に跳び移り……
「……キュア~」
……恍惚な表情を浮かべながら、股間から黄色みがかったお○っこを流し始めたのだ。
「あぁぁぁぁぁぁっ!お、お許じをぉぉぉ!!」
頭からチャメゴンの生暖かい小便を浴びながら、ブレイクソルジャーはなおも許しを乞うたが、既に龍次郎は罰を受けているブレイクソルジャーへの興味を無くし、フンッ!と荒く鼻息を鳴らすと、再び玉座へと腰を下ろした。
「キュウ……」
出すもの出してすっきりしたらしいチャメゴンは、ブレイクソルジャーのタイツで股間を拭き、龍次郎の肩へと戻っていった。
「あ……あぁ……」
一方、チャメゴンの小便まみれとなったブレイクソルジャーは白目をむいて気を失い、自身の股間を濡らした上に、足下に水溜まりを作っていた。
「……連れてけ」
「「ギギィ!」」
龍次郎からの指示により、チャメゴンの小便まみれになったブレイクソルジャーは、他のブレイクソルジャーに引きずられながら司令室から強制退室されたのだった。
「やれやれ……」
「キュー……」
龍次郎は玉座の上で足組みしながら頬杖をついた。
龍次郎の肩に乗ったチャメゴンもそれを真似している。
「しかし……まさかアラクネモストロが改造されたての奴にやられるとは……」
先程の報告を思い返して、龍次郎は眉間に皺を寄せた。
アラクネモストロは改造人間被験者の『拉致』や敵対者の『暗殺』を主任務とした伝説獣型改造人間であり、モチーフとなったアラクネの伝承やイメージから言っても、直接的な戦闘は苦手としていた。
しかし、それでもプロの軍人が束になっても圧倒してしまう位の戦闘力を有していたのだ。
それが同じ改造人間で、最新型だったとは言え、訓練も積んでいないようなずぶの素人と戦って倒されるなど……本来ならば、あり得ない事だった。
「……それだけではありませんよ、大首領閣下」
物思いにふける龍次郎に、脇に控えていたドクターケイオスが手にしたタブレット端末を見せる。
タブレット端末の画面には、小型ドローンが捉えていたシルバースレイヤーとアラクネモストロの戦闘シーンの映像が映し出されていた。
「……ムーンモストロは何をとちくるったか、自らを『シルバースレイヤー』などと名乗った上に、ブレイカーズへの反逆を宣言したのです。これは、見過ごす訳にはいきません」
「ほぅ……『シルバースレイヤー』ねぇ?」
龍次郎はタブレット端末上でリピート再生されるシルバースレイヤーとアラクネモストロの戦闘シーンを、まるでテレビをながら見するように眺めていた。
「ふぅ~ん……中々カッコいいじゃない。私は好きよ。『なんとかモストロ』なんてコードネームと比べたら、100倍マシじゃない?」
同じく脇に控えていた大神官ミュートスは、ブレイカーズ幹部の一人でありながら、どこか他人事のような反応をしていた。
「……面白がっている場合ではありませんぞフラウ・ミュートス!これではかの『シュバルツガイスト』を滅ぼした『仮面ホッパー』の故事をなぞることになりますぞ!いかがいたしましょうか?大首領閣下」
「……」
龍次郎はクラウス将軍からの問いかけに答えることはなく、静かにドクターケイオスのタブレット端末をタップすると、映像の再生を停止させた。
「……ほっとけ。敵が一人増えた位で『計画』に影響はない……」
龍次郎は不敵な笑みを浮かべていた。
「それに……障害が多い方が、『計画』が達成した時の喜びもデカイからなぁ……」
それは、イタズラを企む子供のような無邪気さすら感じられる笑みだった……。
ブレイカーズ内における刑罰には今回描かれた『チャメゴンの小便の刑』の他、『チャメゴンのフンの刑』(文字通り、チャメゴンのフンを食べさせられる)、『チャメゴンの小便プールの刑』(チャメゴンの小便が貯められたプールに沈められる)などがあります。