初めての戦い、初めての勝利、初めての・・・殺し
お待たせしました。
「……チィッ!カッコつけてんじゃないよぉ!くぅおの改造されたてのひよっこがぁぁぁ!!」
シルバースレイヤーの名乗りを聞いたアラクネモストロは不愉快そうに舌打ちをすると、地上から10m上空へと大きく飛び上がった。
「……アラクネ・ウェブゥゥッ!」
腰の部位をシルバースレイヤーへと向けると、アラクネモストロは再びアラクネ・ウェブを放った。
先程放たれたようなロープ状ものではなく、一塊の弾丸のような形態でシルバースレイヤーに向かってまっすぐ飛んでいく。
そして、シルバースレイヤーの眼前で糸の弾丸は花の種が芽を出すように弾けて、人一人を余裕で包み込んでしまいそうな大きな網へと姿を変えたのだ。
「……ハアァァァァッ!」
シルバースレイヤーは慌てる素振り一つ見せずにベルトにぶら下がった剣……『シルバーブレード』を抜刀すると、自分に向かってきた蜘蛛糸の網を一瞬にしてバラバラに切り刻んだ。
シルバースレイヤーがシルバーブレードを納めた時、そこには細かく切り刻まれた蜘蛛糸の破片が散らばっていた。
「なぁぁっ!?」
自慢のアラクネ・ウェブがあっさり切り刻まれてしまい、アラクネモストロは複眼を丸くした。
「……舐めるなぁぁぁ!アラクネ・ウェブ、乱れ撃ちぃぃぃ!!」
次にアラクネモストロは、まるで機関銃のように無数のアラクネ・ウェブの弾丸をシルバースレイヤーに向けて発射してきた。
「……ハァッ!」
シルバースレイヤーは自分に向かってくるアラクネ・ウェブの弾丸を、手にしたシルバーブレードで次々に切り裂いていく。
一つの糸が鞭状に変化すると細切れにし、一つの糸がボクシンググローブ状に変化すると正面から一刀両断し、一つの糸が絨毯状に変化すると4等分に切り裂き、一つの糸が袋のような形状に変化してシルバースレイヤーを飲み込むと内側から袋をバラバラに切り刻んだ。
「こ、このぉ~!」
半ばから折れた木の一つに着地したアラクネモストロは悔しそうに歯軋りをした。
「……それならっ!」
アラクネモストロは木にしがみつきながら6本ある腕の一つを、正確にはその人差し指をシルバースレイヤーに向けた。
「……アラクネ・ポイズン・ショットォッ!」
叫びと共に、アラクネモストロの人差し指の先端から紫色をした液体が弾丸のように発射された。
「!」
シルバースレイヤーが紙一重の差で紫色の液体を避けると、紫色の液体はシルバースレイヤーの後方に生えていた木の一本に当たった。
そして、紫色の液体が当たった木は『シューシュー』という音と共に白い煙をあげながら、ドロドロの液状に溶けてしまったのだ。
「なっ!?」
紫の液体が当たった木の末路を目にして、シルバースレイヤーは驚愕の声をあげた。
「糸だけじゃなくて、毒液まで出せるのか!?」
「クケケケケケケッ!こんなの序の口だよぉ~♡」
余裕すら感じさせる笑みを浮かべたアラクネモストロは、6本ある腕の内の2本で木に捕まりながら、残り4本の腕の人差し指をシルバースレイヤーに向けた。
「喰らいなぁぁ!!アラクネ・ポイズン・マシンガン・ショットォォォッ!!!」
アラクネモストロの叫びと共に、その4本ある人差し指の先端から紫色をした毒液の弾丸がまさにマシンガンのように次々と放たれた。
向かうはシルバースレイヤーただ一人。
「チィッ!」
シルバースレイヤーは舌打ちを打つと、自身に向かって飛んでくる毒液を避けていく。
端から見れば舞い踊っているようにも見える程優雅な動きだったが、シルバースレイヤー自身にとってはどれも紙一重ギリギリのタイミングで避けており、仮面の下では冷や汗を流していた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァッ!!!」
アラクネモストロは某『奇妙な冒険』の第三部主人公に憑いている守護霊を彷彿とさせる雄叫びをあげながら、毒液を次々に放っていく。
それはもはや『マシンガン』というよりも、『ガトリング砲』か『バルカン砲』の砲撃に近い猛攻だった。
そして……
「!?」
……とうとうその中の一つが、シルバースレイヤーの左手に命中してしまったのだ。
「ぐ……ぐあぁぁぁぁぁ!!」
シルバースレイヤーはあまりの痛みに右手に持っていたシルバーブレードを思わず手離してしまい、毒液の当たった左手を押さえながら苦しげな悲鳴を挙げた。
毒液がかかった左手は焼き肉を焼く時のような『ジュージュー』という音をあげながら白煙をあげており、白銀だったグローブは真っ黒に焼け焦げてその下に隠されていた素肌が顔を出し、その素肌も重度の火傷を負ったように真っ赤に焼け爛れていた。
「クケケケケケケッ!良い気味だねぇ~!!」
アラクネモストロは毒液に当たってダメージを受けたシルバースレイヤーの姿を眺めながら高笑いを挙げた。
既に自分が勝ったかのような雰囲気だ。
「ハァ……ハァ……」
一方、シルバースレイヤーはアラクネモストロから視線をそらすことなく、白煙を挙げる左手をしばらく右手で押さえていたが……何を思ったか、負傷した左手をそのままだらんと下げると、無傷の右手だけでシルバーブレードを掴み、片手持ちのまま剣道で言う『中段の構え』を取った。
その切っ先はぶれることなくアラクネモストロに向けられていた。
「ふぅ~ん……まぁ~だやろうっていうのかぁ~い?諦めが悪い男はモテないよぉ~?」
「……」
アラクネモストロは余裕たっぷりな笑みを浮かべながら、小馬鹿にするような口調で軽口を叩くが、シルバースレイヤーはその軽口に惑わされることなく、震え一つ起こさずにシルバーブレードの切っ先をアラクネモストロに向けていた。
そこに一陣の風が吹くと、森の木々の葉っぱがカサカサという音をたてて揺れ動き、シルバースレイヤーの首元に巻かれたマフラーが大きくはためいた。
まるで、シルバースレイヤーの諦めない心を風が応援しているようだった。
シルバースレイヤーとアラクネモストロの間を静寂が支配していた。すると……
『……マスター!こちらです!』
「「!?」」
それまで沈黙していたブレイブスターが叫んだ。
アラクネモストロは一瞬きょとんとした顔になったが、シルバースレイヤーはすぐに横倒しのままになっているブレイブスターの下へ走り出した。
「……あっ!アラクネ・ウェブぅ!」
アラクネモストロはシルバースレイヤーに向けてロープ状のアラクネ・ウェブを放った……が、シルバースレイヤーはそれを負傷している左手で受け止め、傷口が隠れるように巻きつけると、シルバーブレードでアラクネ・ウェブの端を切断した。
「……なぁぁぁっ!?」
「……包帯、ありがとよ!」
複眼を丸くするアラクネモストロにシルバースレイヤーは軽口を叩き、横倒しになっているブレイブスターを起こした。
そして、改めてブレイブスターに跨がると共に、シルバースレイヤーはスロットルを回してエンジンに火をつける。
ブレイブスターのエンジンは、荒馬の嘶きを思わせる音を周囲に響かせた。
「……行くぞ」
『イエッサー、マスター!』
シルバースレイヤーからの命令を受けて、ブレイブスターは猛スピードでアラクネモストロに向かって走り出した。
その様はまさに、荒馬の如くだ。
「……」
そしてブレイブスター上のシルバースレイヤーは、中世の騎士が馬上槍を構えるようにシルバーブレードを構えて、まっすぐアラクネモストロを見据えていた。
「……アラクネ・ポイズン・ショットォォォッ!」
アラクネモストロは自分に向かって来るブレイブスター上のシルバースレイヤーに向かって毒液の弾丸を放った。
「ハアッ!!」
しかし、シルバースレイヤーは自身に向かってくる毒液の弾丸を、シルバーブレードで一刀両断した。
同時にシルバーブレードの刀身が、三日月を思わせる淡い光を放ち始めた。
「籠手ぇぇぇぇっ!!」
シルバースレイヤーはアラクネモストロと擦れ違う一瞬の内にシルバーブレードを振るった。
ブレイブスターが停車すると……アラクネモストロの3本の左腕が、根元からボトリと落ちた。
「ぎ……ギィヤアアアアァァァァ!!!!」
アラクネモストロは4つの複眼を見開き、左肩を押さえながら悲鳴を挙げた。
腕が生えていた箇所には綺麗な切断跡だけが残され、そこから血なのかオイルなのか、闇夜では判別しずらい赤黒い液体が噴水の水のように吹き出していた。
「ウオォォォォッ!!」
次にシルバースレイヤーはブレイブスターのシートから、空中高くジャンプした。
森に生えるどんな大木よりも高い位置まで飛び上がれば、綺麗な丸い満月の光だけがその姿を照らし出していた。
「ハアアアアアッ!!」
飛び上がったと同時に、シルバースレイヤーは自身の脚に意識を集中させる。
すると、シルバースレイヤーの右足が月光のような淡い光に包まれていった。
「……トリャアアアアア!!」
シルバースレイヤーは右足に光を纏わせながら、重力に従って地面に向かって落ちていった。
その先にいるのは……アラクネモストロただ一人。
「ウオリヤアアアアアアッ!!!」
「ギィヤアアアアッ!!!」
次の瞬間……シルバースレイヤー渾身のキックが、アラクネモストロの胸部に叩き込まれた。
同時に、シルバースレイヤーの右足を包んでいた淡い光が、アラクネモストロの体内へと注ぎ込まれた。
「……よっと!」
そのままシルバースレイヤーは中国雑技団の軽業師を思わせるアクションをとりながら、地面に着地した。
「が……あが……」
一方、シルバースレイヤーからのキックを受けたアラクネモストロの体は、キック跡の残る胸部を中心に月光を思わせる光の奔流に包まれていった。
やがて光は洪水のようにキック跡から溢れ出していき、そして……
「ぶ、ブレイカーズぅぅぅ……ばんざぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
ドッガアアアアアァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!
アラクネモストロの体はエネルギーの洪水に耐えきれず、とうとう大爆発を起こした。
夜中の森の中が一瞬『日が上ったのか』と錯覚する程明るくなり、爆風によってシルバースレイヤーのマフラーがその勝利を祝うかのように勢い良くはためいたのだった。
「……地獄で閻魔様にでもわびるんだな」
静かにそう呟くと、シルバースレイヤーはシルバーブレードを納刀した。
同時に全身が淡い光に包まれて変身が解除され、シルバースレイヤーの姿から氷山リクの姿に戻った。
「ふぅ~……」
生まれて初めての命懸けの戦いを終えたリクは、額の汗を拭いながら深いため息をついた。
『マスター!大丈夫ですか!?』
「あ、あぁ……何とかな」
ブレイブスターからの問いかけに軽く答えるリクだったが、内心では……怪人だったとはいえ……命を奪ってしまったことに強い重圧を感じていた。
ふと、アラクネモストロが立っていた場所を見ると……そこには直径5m・深さ2m程のクレーターが出来ていた。
中心部からは真紅の炎と黒煙が上がっており、周辺には機械部品や手足といったアラクネモストロの残骸と思われる物が散乱していた。
「……うっ」
リクは吐き気を感じて、口元を手で抑えた……しかし、すぐに込み上げてきた物を飲み下した。
「……行くぞ、ブレイブスター」
『イエッサー、マスター!』
リクはブレイブスターに跨がり、その場を後にした。
その様子をビデオカメラ搭載の小型ドローンが監視していることに気づく事もなく……。
「なるほど、『シルバースレイヤー』ですか……フムフム」
手元のタブレット端末に映し出されたドローンからの映像を見ながら、ドクターケイオスは含みのある笑みを浮かべた。
それは科学者……それも『マッドサイエンティスト』に分類される者特有の、『面白いモルモットを見つけた時』に見せる笑みだった。
今回は『初めての戦い』なので、技名を叫びません。というか、この時点では技名はまだ未定です。
次回くらいには叫ぶようになる・・・はずです。