月よりの使者、見参!
今回は先輩ヒーローが登場します。
「!?」
「きゅ、キュー!!」
突然の爆発音と共に室内……いや、施設の建物全体が地震に襲われたかのように大きく揺れ、龍次郎初めブレイカーズ幹部陣はよろめき、龍次郎の肩に乗ったチャメゴンは龍次郎から振り落とされないように必死で龍次郎の服を掴んでいた。
「ギギィ!?」
「ぁっ……?」
爆発音と室内の揺れは治まる様子もなく、次第にその回数と大きさはどんどん強まっていった。
「ギギィ!大首領閣下!」
5回目の爆発音と揺れに前後して、ブレイク・ソルジャーの一人が駆け込んできた。
リクはそれを眺めながら、『……戦闘員って普通に喋れたんだ』という場違いな感想を浮かべていた。
「大変です!何者かが基地内に侵入し、施設への破壊活動と『改造人間被験者』の脱走を行っています!」
「何ぃ~?またか……」
「キュアァ?」
ブレイク・ソルジャーからの報告を聞き、龍次郎とチャメゴン以下、ガスマスクで表情が分からないクラウス将軍以外のブレイカーズ幹部陣はゴキブリやネズミを見かけた時のような、嫌そうな表情を浮かべた。
「なお、監視カメラの映像分析によると、侵入者の人数は一人!その正体は……」
「あぁ……言わんで良い、言わんで良い」
龍次郎はブレイク・ソルジャーからの報告を途中で制止した。
「……たった一人でウチの施設に侵入して破壊活動を行うような奴と言えば……アイツしか居ないだろうがぁ……」
「キュ~……」
龍次郎は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら目頭を抑え、その肩に乗っているチャメゴンは呆れたような表情を浮かべながら『Oh~!』と言っているようなポーズをしていた。
「????」
取り抑えられたままのリクには何が何だか分からない。
すると突然、リク達がいる室内の壁の一つが爆発音と共に粉々に吹き飛び、壁に軽自動車が一台余裕で通れそうな大きな穴が開いた。
「!?」
『ギギィ!?』
「やれやれ……」
「……来たわね」
「おのれぇ~!」
リクとリクを取り抑えているブレイク・ソルジャー2名、そして、龍次郎以外のブレイカーズ幹部陣が砂ぼこりの舞散る壁の大穴へと視線を向けた。
「はぁ……」
一方、龍次郎は壁の大穴に背中を向けたまま、深いため息をついた。
「キュキュ~」
チャメゴンはそんな龍次郎を慰めるように、その小さな右前肢で龍次郎の頭をポンポンと叩いていた。
しばらくすると、大穴の向こうからコツン、コツン……という革靴で大理石の床を歩く時に出るような足音が聞こえてきた。
そして、大穴の周囲の砂ぼこりが収まっていくと共に、大穴の向こうからは人影のようなものが姿を現してきた。
「……やっぱりお前だったか」
龍次郎にはその人影の正体が何者か、見当がついているらしかった。顔だけを大穴にむけると向こう側にいる誰かを睨み付けた。
砂ぼこりが完全に晴れると、壁の大穴の前に一人の人物が立っていた。
それは、純白のロングコートを身に纏い、純白のマフラーで口元を覆った上に三日月模様のテンガロンハットを目深に被って顔を隠した謎の人物だった。
腰には柄の部分に『新撰組』と彫られた黒塗りの木刀をぶら下げ、右手にはSF映画に出てくる光線銃のようなものを持っているときた。
時間帯と場所によっては『不審者』として通報されそうな格好をしてはいるが、どういう訳だか様になっているというか、ほのかなカッコ良さを漂わせている不思議な人物だった。
「……月よりの使者、ナハトリッター見参!」
謎の人物はまるでブレイカーズ幹部陣に宣戦布告をするように、高らかに名乗りを挙げたのだった。
(……ナハト……リッター?)
リクはその名前に聞き覚えがあった。
何時だったか、クラスのオカルト好きな連中が話題に上げていたのを小耳に挟んだ事がある。
ナハトリッター。
その名はドイツ語で『夜の騎士』を意味するという。
昭和30年代から東京都府中市を拠点に関東各地で『犯罪者退治』を行い、幾人もの凶悪なテロリストを警察に突き出し、数多の犯罪組織やカルト団体を壊滅に追い込んできたという伝説的なクライムファイター・・・それが、『ナハトリッター』だ。
(作者注:『クライムファイター』とは、『侵略宇宙人』や『怪獣』といった『SF的またはファンタジー的な悪』ではなく、『マフィア』や『ギャング』といった『現実的な犯罪者』との戦いを専門にしているヒーローの事です。)
その存在を最初に聞いた時、リク自身は単なる都市伝説だと思って適当に聞き流していたが、まさか本人と出会う事になろうとは……。
リクは外出先で偶然芸能人に出会ったような、場違いな感情を浮かべていた。
一方、龍次郎を初めとするブレイカーズ幹部陣は、何時でもナハトリッターに攻撃できるように臨戦態勢を取り、戦闘員ブレイク・ソルジャー達も、その手にしたマシンガンの銃口とロケットランチャーの砲口をナハトリッターに向け始めた。
龍次郎はナハトリッターに向き直るとフンっ!と鼻を鳴らした。
「……毎度毎度飽きもせず、よく俺達に手を出してくれるなぁ~『正一』よぉ」
「……龍次郎、この姿の俺を気安く本名で呼ぶな。この姿の俺は『ナハトリッター』だ。『剣正一』ではない」
「へっ……そうかよ、悪かったなぁ。しかし、おじ貴が今のお前を見たら、きっと泣いて悲しむだろうなぁ……順当に言やぁ、俺じゃなくてお前がブレイカーズ大首領になってた筈だからな」
「……生憎、あの男との親子の縁は切った。今の俺は『悪と戦う正義の味方』で、お前達のような輩の敵。それだけだ」
龍次郎とナハトリッターは『悪の組織の親玉と正義のヒーロー』とは思えない、『昔馴染みの腐れ縁同士』のような会話を交わしていた。
「そして……今夜はお前達の悪事による『犠牲者』を救いに来た」
ナハトリッターは手にした光線銃のようなものをブレイク・ソルジャーに取り抑えられているリクに向けると、その引き金を引いた。
ナハトリッターが引き金を引くと同時に、光線銃のようなものの銃口からはレーザー光線……ではなく、先端に鉤爪状のフックがついているワイヤーが発射された。
発射されたワイヤーは真っ直ぐリクに向かって飛んで行き、リクの胴体に絡み付くように巻き付いた。
「……えっ?」
『ギィ?』
ワイヤーがリクの体にきつく巻き付かれていくと、リクのみならず、リクを取り抑えているブレイク・ソルジャーも呆気にとられてしまった。
「……あっ!お前ら、それ切れ!」
慌てて龍次郎が叫んだが、少し遅かった。
ワイヤーが完全にリクに巻き付いた事を確認したナハトリッターは、今度は猛スピードでワイヤーを巻き取り始めたのだ。
「うわぁぁぁぁっ!!」
『ギギギギィ!?』
あまりの巻き取りスピードにリクは目を回し、リクを取り抑えていたブレイク・ソルジャー2名はスピードについていけずに手を離して宙を舞った。
ワイヤーが完全に巻き取られると、リクの体はナハトリッターの足元に倒れ込んで転がった。
「……この少年は貰っていくぞ」
「……誰がさせるかぁ!」
「ソルジャー!構え!」
『ギギィ!』
龍次郎の叫びに続いてドクターケイオスがブレイク・ソルジャー達に指示を出す。
ソルジャー達は手にしたマシンガンの銃口をナハトリッターに向けた。
しかし、ナハトリッターは慌てる様子も見せずに手にしている光線銃のようなものの側面にあるダイヤルを操作し、ブレイク・ソルジャーに向けて引き金を引いた。
すると光線銃のようなものの銃口から、ワイヤーの代わりに白いガスのようなものがスプレー缶の殺虫剤のように勢いよく噴射された。
「うはっ!?……ぐはっ!?」
「おほっ!?……がはっ!?」
ガスを浴びせられたブレイク・ソルジャー達は途端に苦しそうに咳き込み始め、一部は床に倒れ始めた。
「……」
ナハトリッターはブレイク・ソルジャー達が苦しんでいる間に、リクを小脇に抱えて大穴の奥へと退却していった。
「あぁ!!?おいぃぃぃ!!!逃げられちまったじゃねぇか!?」
「ず、ずびばぜ……げはっ!」
龍次郎から叱咤され、ブレイク・ソルジャーの一人が咳き込みながら謝罪した。ガスはだいぶ薄まっていたが、それでも見ている方も苦しくなってきそうな程つらそうだった。
「ったく……こんな煙ごときで狼狽えるんじゃないわよ!」
「はひぃっ!」
「くぉぉぉのぉぉ!豚がぁぁぁ!!」
「ひぎゃあっ!」
大神官ミュートスはブレイク・ソルジャーの一人の尻に向けて苛立ちの籠った蹴りを叩き込み、クラウス将軍もブレイク・ソルジャーの一人の顔面に平手打ちを叩き込んだ。
「……」
幹部陣がブレイク・ソルジャー達に苛立ちをぶつけている中、ドクターケイオスだけは慌てる様子を一切見せずに、手元のタブレット端末の画面に浮かぶ蜘蛛のマークのアイコンをタップした。
アイコンのタップと同時にタブレット端末のテレビ電話が起動し、一体の怪人の胸から上の姿が映し出された。
『……ご用ですか、ドクター?』
「……脱走者発生。1人残らず直ちに捕獲しなさい」
感想よろしくお願いいたします。