日常の終わり
本編開始。まずは仮面ラ○ダー的ヒーローです。
氷山リク。
男
17歳
現在、高校2年生。
ただし、童顔の為にもっと年下に間違われることが多い。
剣道部主将で、インターハイでの優勝経験あり。
成績は上の下と中の上を行ったり来たり。
不良ではないが、優等生かというと微妙な感じ。
そんなどこにでもいる普通の少年であった……あの日までは。
☆☆☆
光輝10年-
東京都・国立市
Xデーまで約2年。
「~♪~♪」
その日、部活を終えたリクは、流行りのアニメソングを鼻歌で歌いながら帰路についていた。
ブレザーの制服姿にリュックを背負い、肩には竹刀袋と剣道着の入った袋をかけている。
真っ赤な夕焼けを浴びながら鼻歌を口ずさむその姿は、誰が見ても上機嫌そうだった。
「……やけに機嫌良いな、リク。何か良い事でもあったのか?」
「おっ!わかるか、ウミオ?」
リクの隣を歩いていた少年-同級生で無二の親友である氷河ウミオからの言葉に、リクはにやけた顔を見せる。
「実はさぁ~顧問の今池から『こないだの昇段試験の合格通知が来た』って言われてよぉ!」
「へぇ~、良かったじゃねぇか!確かお前、今2段だったから……」
「そっ!今度で3段なんだよぅ!それがもう嬉しくってさぁ~!!」
まるで小学生のように嬉しさ満開な表情を浮かべるリクに、ウミオもつられて笑みを浮かべた。
「さっすが、主将になれるような奴はスゲェなぁ……大したモンだ」
ウミオがしみじみと呟くと、リクは頭の後ろに両手を組んで「まぁな!」と返した。
「うまく行けば、そうだなぁ……スポーツ特待生で、奨学金貰えるのも夢じゃないかもしれないなぁ……そしたら、父さん達にも少しは楽させられそうだ」
はにかむリクの顔は夕焼けに照らされて宝石のように輝いて見えた。
「はははっ!お前なら確かに奨学金も夢じゃなさそうだn……うわっ!」
「……ん?」
突然ウミオが叫び声を挙げたので、リクは振り向いた。
すると、ウミオは思いっきり前のめりの体勢で砂利道に倒れていた。
というか、首から下の全身に網のようなものを被せられて、地面に拘束されてしまっていたのだ。
「いてて……」
「だ、大丈夫かウミオ!?」
「そ、それより……早くコレ取ってくれぇ」
「あ……あぁ分かった!」
リクは慌ててウミオに駆け寄り、持っていたカバンや荷物を下ろすと、ウミオの体に被さった網のようなものを剥ぎ取ろうとした。
「くっ!こぉのぉ……!」
だが、リクがいくら力を込めて引っ張っても、その網のようなものは地面に縫い付けられているかのように微動だにしなかった。
「はぁはぁ……なんなんだよ、コレ?」
リクは息を切らしてながら額の汗を拭うと、改めてウミオの体に被さった網のようなものを凝視した。
ピアノ線か絹糸のように細い糸でできているにも関わらず、いくら引っ張ってもゴムのように伸びるだけで、破けも千切れもしない。
試しに、カバンから工作用のハサミを取り出して切り裂こうとしてみたが、網のようなものを構成する糸は細い見た目に反して金属ワイヤーのように頑丈らしく、ビクともしなかった。
しかも……
「……うわっ!」
リクも隙を突かれてウミオと同じ網のようなものを浴びせられて地面に拘束されてしまった。
「り、リクぅ!」
「な、なんなんだよぉ、一体ぃ……」
他に通行人もいない多摩川沿いの砂利道で、リクとウミオの二人は網のようなものを被せられて身動きできずにいた。
「クケケケケ……」
その時である。
二人の耳に人の笑い声にも鳥の鳴き声にも聞こえる奇妙な声と、人間の足音が聞こえてきた。
その奇妙な声と足音は近づいてくるかのように少しずつ大きくなっていき、二人の前で止まった。
一体なんなんだ。
リクとウミオはそう思い、唯一動かせる首を上げた。
「「!?」」
そして、二人は自分たちの目の前に立つ者の姿を目にして愕然となった。
「クケケケケッ!!」
それは人間ではなかった。
確かに全体のシルエットは人間の形をしてはいたが、その姿を一言で表すならば『異形』としか言い様が無かった。
顔には真紅に輝く昆虫のような複眼を4つ持ち、口からは鋭い牙が顔を出している。
手足は黒い剛毛で覆われており、脇腹からはもう2組の腕が、腰の部分からは昆虫の腹部を思わせる丸く膨らんだ部位が生えている。
その胸部はなだらかに膨らみ、逆にその腰は細くくびれており、その性別が『女性』であることを暗に主張していた。
そう……二人の目の前に立っていたのは『蜘蛛を人型の女にしたような姿をした怪人』だったのだ。
「クケケケケ……」
怪人は笑い声とも鳴き声ともつかない声をあげながら、両手の人差し指を鎌のように曲げる。
「クケェェェ!!」
そしてそのままリクとウミオの首筋に人差し指を突き刺したのだ。
「うっ!」
「ぐあっ!」
怪人の人差し指は二人の首筋に突き刺さると同時に、薬液のようなものを二人の体内に流し込み初めた。
次第に二人は強烈な睡魔に襲われ初め、両目のまぶたが鉛のように重くなっていった。
「り、リクゥ……」
「ウミオォ……」
互いの名前を呼び会いながら、二人は意識を失った。
-数十分後、そこには二人分の学生カバンと剣道用具だけが残されていたのだった。
「う……」
リクが最初に思ったのは、『まぶしい』だった。
あまりにも強い光を目にして、それが照明だとすぐには気付かなかった。
リクは手術用ベッドの上に横たわり、四肢をベッドに拘束されていた。
ベッドの回りには手術着を着用した人影が集まり、リクを取り囲んでいるのが見えた。
その中の1人が「手術開始」と言うと、リクの鼻と口はパイプに繋がった金属製のマスクで覆われ、また意識が遠退いていった。
最後に見えたのは執刀医と思われる黒髪の人物の狂気の篭ったような目だった。
感想よろしくお願いいたします。