サンフェニックス、シルバースレイヤーのサイドキックになる
「……へい、特製唐揚げ定食大盛お待ちぃ!」
『おぉ~!!』
注文から十数分後……カウンター席に座ったリク、文弥、つかさの元にできたてホヤホヤの唐揚げ定食が一膳ずつ到着した。
艶のある漆塗りのお盆の上には、
キラキラと輝く白飯が小山のようにこんもりとよそわれたご飯茶碗と湯気の上がる味噌汁茶碗、
揚げたて熱々の鶏の唐揚げ数個にみじん切りにされたキャベツとレタスの盛り合わせ、
新雪のように真っ白な中に赤いニンジンと緑色のキュウリが覗いているポテトサラダが盛り付けられた大皿、
デザートであるウサギの形に切られたリンゴ2切れの置かれた小皿が載せられており、
見ているだけで口からヨダレが出てしまいそうになる程美味しそうな定食だった。
「さぁ、冷めない内に召し上がれ!」
ゲンさんに促されてリクと文弥、つかさの3人は剥げかけた漆塗りの箸入れからビニール袋に包まれた割り箸を取り出す。
割り箸を包むビニール袋を外して割り箸を二つに折ると、3人は両手を合掌して一礼する。
『……いただきます!』
食事開始の儀式を済ませると、リク達は早速目の前に置かれた特製唐揚げ定食を食べ始めたのだった。
「……うわぁっ!この唐揚げ、スッゴい美味しい!」
「周りはカリカリさくさくで、中はジューシー……ほっぺた落ちちゃいそうだよ~♪」
特製唐揚げ定食を食べながら、文弥もつかさもその美味しさに笑顔を浮かべていた。
その姿を眺めるリクの顔にも、自然と笑顔が浮かんでいた。
「どうだ?ゲンさんの料理は最高だろ?」
『最高です!!』
リクからの問いかけに文弥とつかさは笑顔で答える。
その姿を見ながら、リクも特製唐揚げ定食を美味しそうに頬張っていたのだった。
「……おぉ、美味そうに食べるな~お前ら?」
『……えっ?』
その時である。
背後から誰かが文弥とつかさに声をかけてきた。
リクよりも年上だが、ゲンさんよりは若い男性の声だ。
文弥とつかさが振り向くと……
「……よっ」
……いつの間にか、三日月模様のテンガロンハットを目深に被り、白いマフラーで口元を覆い隠し、白いロングコートを纏って、柄の部分に『新撰組』と刻まれた黒い木刀を腰に下げた人物が立っていた。
言わずと知れたナハトリッターである。
「よぉナハトのおっさん!あんたも昼飯か?」
「まぁ……そんなところだな」
リクとナハトリッターは軽口を叩き合いながら、その拳をぶつけ合ったのだった。
「『ナハト』って……まさか、ナハトリッター!?」
「すごい……実在してたんだ」
「おいおい……人をネッシーか雪男みたいに言うなよ……」
文弥とつかさの反応にナハトリッターは少し困惑しつつも軽く受け流し、
慣れた様子でカウンター席に腰をおろした。
「……チキン南蛮定食一つ」
「へい、チキン南蛮一丁!」
ゲンさんへの注文を済ませると、ナハトリッターは両手の皮手袋を外してお手拭きで両手を拭きつつ、隣に座る文弥に視線を向ける。
「……見ない顔だけど、新入りか?」
「は、はい!陽光戦士サンフェニックスこと、出向井文弥です!よろしくお願いします!」
「お、同じく!そのサポーターをしている蓬つかさです!よろしくお願いします!」
「……」
文弥とつかさが丁寧に自己紹介すると……ナハトリッターはすかさず二人の額にデコピンを食らわした。
『あたっ!?』
「お前らなぁ……いくら俺がヒーローで、ここがヒーローのたまり場だからと言っても……人前で堂々と正体を明かすんじゃない!もし万が一、どっかの組織の奴らにお前らの正体が知られたら、お前達だけじゃない……お前達の家族や友人まで危険にさらされるんだぞ?もっと気を付けろ!」
『は、はい……』
ナハトリッターから注意を受け、文弥とつかさはシュンと項垂れてしまった。
その様子を見ていたリクは、唐揚げ定食を頬張りながらため息を漏らした。
「おいおいナハトのおっさん、新人相手に少し厳し過ぎるんじゃねぇか?」
「……新人相手だからこそ、厳しくしていかないといけないんだよ。甘やかしてばっかりじゃあ、一人立ちできないからな」
ナハトリッターはしみじみと呟くが、リクは「そんなモンかねぇ……」とため息をついたのだった。
「……」
そんなリクとナハトリッターのやり取りを横で眺めていた文弥は、何かを決心したかのような重い表情を浮かべる。
そしておもむろに椅子から立ち上がると、唐揚げ定食を頬張るリクに向かい合った。
「……リクさん、いやシルバースレイヤーさん」
「ん?」
改まった様子の文弥にリクは首を傾げるが、文弥は構う事なく最敬礼の形で頭を下げる。
「……お願いします!僕を弟子にしてください!!」
「……えっ?」
いきなり『弟子にしてくれ』と頼まれ、リクは口にしていた鶏の唐揚げをポロリと落としてしまった。
「おやまぁ~」
「ほぉ……」
一部始終を横目に見ていたゲンさんとナハトリッターは互いに感心するようなため息を漏らし、
「えっ?えっ?」
その一方、文弥のサポーターである筈のつかさは文弥の唐突な発言に付いて行けず、頭上に大量の?を浮かべて目を丸くしていた。
数十秒経ってショックから立ち直ったリクは、額から冷や汗をだらだらと流して困惑していた。
「い、いきなりなんだよ……『弟子にしてくれ』って?」
「そ、そうだよ文くん!急にどうしたの?」
状況が理解できていないリクとつかさに、文弥は静かに語りだした。
「……今日の事で分かったんだ。僕はヒーローとして半人前、いや半人前以下の力しかないんだって……今のままじゃ、僕は自分の命だけじゃなくてつかさちゃんの事だって守りきれない……だから!」
文弥は再びリクに向かって深々と頭を下げる。
「お願いしますシルバースレイヤーさん!僕を一人前のヒーローに鍛えて下さい!『世界の平和』は無理でも、『自分の周りの人の笑顔』くらいは守れるようになりたいんです!」
「……」
文弥のまっすぐな目と真剣な言葉にリクは圧倒され、照れ臭そうに頬を掻いた。
「いや……そう言われても俺は人に教えられる事なんて……」
「いいんじゃないか、別に」
渋る様子のリクに、ナハトリッターが口を挟む。
「お前だってもう2年もヒーローやってるんだ。そろそろ『サイドキック』の一人や二人くらい付けても、別に問題ないと思うぞ?」
「お、おっさん……」
ナハトリッターからの言葉に、リクは苦虫を噛み潰したような顔を更に苦くする。
「あの……『サイドキック』ってなんですか?」
「あぁ、『サイドキック』っていうのは『ベテランのヒーローの助手兼相棒を務める若手ヒーロー』の事ですよ」
その横では、つかさがゲンさんに『サイドキック』の意味を聞いていた。
「う~ん……」
深々と頭を下げたまま微動だにしない文弥を前にして、リクはしばし頭を悩まし……
「はぁ……分かったよ」
……結局文弥の熱意に根負けしたのだった。
「あ、ありがとうございますリクさん!」
「ただし!途中で弱音とか吐いたら承知しねぇからな!」
「はい!」
リクに弟子入りを認められて文弥は顔を輝かせて喜んだ。
その横でつかさもまた嬉しげに顔をほころばせ、ゲンさんとナハトリッターはその様子を微笑ましく眺めていたのだった。
その頃、駐車場では……
『そうそう!そしたらマスターったら……』
『ピィピィ!』
「へぇ……それでどうなったんです?」
ブレイブスターとライトニングバードの二台にナハトリッターの助手である十六夜 京子が加わって、楽しく談笑していたのだった。
イメージCV
陽光戦士サンフェニックス/出向井文弥:田中真弓
蓬つかさ:福原香織