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友への誓い

~ナハトリッターからのお願い~


「ヒーローヴァースは部屋を明るくして、PCモニターやスマートフォンから離れて見てくれたまえ!」

(アニメ版F-Z○RO冒頭のキャプテン・ファ○コン風に)




京子「……何カッコ付けているんですか?」

ナハト「いや……一度やってみたくって……」

「……えっ?」


 最初、リクはナハトリッターの言葉が理解できなかった。


 しかし、次第に頭が冷静になっていくと……ナハトリッターの言葉が心の深い部分へと突き刺さっていった。


「い、今……なんて……」

「……あの基地に、君の友人であり、君と一緒に拉致された氷河ウミオ少年はいなかったんだ。少なくとも……俺があの基地に潜入した時点では、な」


 ナハトリッターはリクから視線をそらすことなく、はっきりと断言した。


 しかし、リクには信じられなかった。


「ど、どういう事だよ……?ぶ、ブレイカーズの奴らはウミオにも『改造人間の適性』って奴があるって……」


 そう、リクがナハトリッターの言葉が信じられない一番の理由がそれ。


 あの訓練場のような空間でブレイカーズ大首領・剣神龍次郎は言った……


『お友達も改造手術の適合性があってな。めでたくブレイカーズの仲間入り……って訳さ。これからは二人仲良く、ブレイカーズの為に働いてくれ』

 と。


 それが本当ならば、あの基地にはリクだけでなく、ウミオも居たはずなのだ。


「……これを見てみろ」


 リクの様子を察したのか、ナハトリッターはデスクの引き出しから青いクリアファイルのような物を取り出し、リクに投げ渡した。


 そのクリアファイルの中には、人名らしき物が大量にリストアップされているA4サイズの書類が入れられていた。


「えっと……これは?」

「君とその友人を含め、ブレイカーズによって拉致されてあの基地で改造された人々のリストだ。君の友人の欄を見てみろ」


 ナハトリッターに言われ、リクはリストを上から順番に指で追っていく。


 そして、上から35人目の辺りで氷河ウミオの名前を見つけ……その横の備考欄に書かれていた。


『改造済み。本部基地へ移送』と。


「ほ……本部基地?あ、あそこがブレイカーズのアジトじゃなかったのか?」


 震えの混じったリクの呟きに、ナハトリッターは「……あぁ」と肯定した。


「……昨日まで君がいたのは、ブレイカーズ第6改造人間ラボ。ブレイカーズが日本中……いや、世界中のあらゆる場所に隠し持っている基地の一つだ。本部があるのは、富士山麓の青木ヶ原樹海の地下……ということまでは分かっているんだが、あのだだっ広い青木ヶ原樹海のどこに入り口があるのかまでは分からないんだ……すまない」


 ナハトリッターの言葉にはリクと同じか、それ以上の悔しさと悲しみが混じっていた。


「……」


 リクはクリアファイルごとリストをグシャグシャに握りしめ、きびすを返すようにドアへと向かっていく。


「……待てよ。聞かなくてもだいたい分かるが、どこに行く気だ?」


 ナハトリッターから言葉をかけられ、リクの足が止まる。


「……決まってるだろ。青木ヶ原だ」


 リクからの返事に、ナハトリッターと京子は呆れたような視線を向けた。


「……一人で、ブレイカーズの本部に殴り込みする気か?自殺行為も良い所だぞ?」

「殺されるならまだしも……捕まえられた上で洗脳される可能性が高いですね……おめでとう。晴れて、お友達と共にブレイカーズの仲間入りですね」

「……うるせぇよ!」


 呆れ返るナハトリッターと京子の様子にリクは我慢できず、逆ギレ気味に叫びながら振り替える。


 リクは唇が青く染まるほどに口を食い縛り、その両目からは滝のように涙が流れていた。


「ウミオは……ウミオは俺の親友なんだ!親友が悪人どもに捕まったままなのに、自分は大人しく家に帰るなんて……できる訳ないだろうが!」

「……」


 涙ながらのリクの叫びを受け、ナハトリッターはデスク席から立ち上がり、リクへと近づいていく。


「……気持ちは分からないでもないがな、今のお前じゃ返り討ちに合うだけだぞ」

「何言ってやがる!?今の俺は改造人間なんだ!兵隊の10人や20人……」


 リクが言い終わるよりも早く、ナハトリッターはリクの足を払ってバランスを崩し、右手でリクの喉元を鷲掴みにして木製テーブルの上に叩き伏せたのだった。


「!?」


 突然の事にリクは反応することも出来ず、ナハトリッターに喉元を捕まれているために声を出すこともできなかった。


 一方のナハトリッターは、まるで万力のような力でリクの首を掴んだまま、生ゴミを見るかのような冷たい視線でリクを見つめていた。


「……それなら俺に反撃してみろ。もしくは今ここで、戦闘形態に変身して……俺の手から逃げてみろ」


 ナハトリッターの声にはからかいや冗談半分の気持ちはこもっておらず、本気だと言う事がリクにも分かった。


「ぐ……くぁ……」


 しかし、ナハトリッターに喉元を掴まれた状態では変身キーワードを叫ぶこともままならず、なんとか両手を動かしてナハトリッターの腕を外そうと試みるも、予想外の事態だった為に腕に力が入りきらず、ナハトリッターの服の袖を捲り上げるのが精一杯だった。


「……」


 京子はナハトリッターを止める素振りも、リクを助ける素振りも見せず、ただ静かに二人の様子を冷静な視線で眺めていた。


「……言っておくがな」


 リクの喉元を掴んだまま、ナハトリッターはリクと視線を合わせる。


「……俺は『改造人間』なんかじゃない。『宇宙人』でもなければ、『生まれつきの超能力者』なんかでもない……肉体的には、『鍛えただけの普通の人間』だ」

「!?」


 ナハトリッターの発言にリクは目を大きく見開く。


 当然と言えば当然だろう。


 昭和30年代から第一線で戦い続け、数多の悪人達を刑務所送りにしてきた伝説的ヒーローである『ナハトリッター』の正体が、鍛えただけの普通の人間だというのだから。


 ナハトリッターは続ける。


「加えて……着ているコスチュームにいわゆる『戦隊系』のヒーローが着ているスーツみたいな『強化服』としての機能は付いていないし、使っている武器類は昭和30年頃に作られた型落ちの旧式品……『ベテラン』と言えば聞こえは良いが、実態は『時代遅れのロートル』さ」


 リクはナハトリッターの言葉が信じられなかった。


 旧式の武器を装備した鍛えただけの普通の人間。


 なら、どうして『鍛えただけの普通の人間』が改造人間である自分を押さえ込めるのだろうか?


 リクの頭の中は?で埋め尽くされた。


「対して、お前は最新技術の粋を集めて作り出された改造人間……例えるなら、お前は『最新型のレーシングカー』で、俺は『自転車』といった感じだな」


 ナハトリッターは静かにリクの喉元から手を離し、立ち上がる。


 リクは抵抗一つせず、荒い呼吸をしながらナハトリッターを見つめていた。


「ならば何故、俺はお前を圧倒できたか?答えは単純だ……」


 ナハトリッターは一旦言葉を区切り、テーブルの上で横たわっているリクを睨み付けるような視線を送る。


「……『経験』と『覚悟』の差だ。マンガやゲームじゃあるまいし、いきなり人間離れした能力を手にした所で一朝一夕で簡単に使いこなせる訳が無い。更に、お前はまだ高校生……命懸けの戦いの経験なんて一欠片も持っていないし、怪人だったとはいえ昨日まで人を殺した経験だって無かっただろう?『実戦』っていうのはテレビ番組や遊園地のヒーローショーなんかとは全く違う……『相手を倒す覚悟』・『自分が殺されるかもしれない覚悟』……そのどちらが欠けたとしても……待っているのは『犬死に』だけだ」

「……」


 ナハトリッターの言葉にリクは口答えすることも出来ず……ただ圧倒されていた。


『経験』と『覚悟』。


 確かにリクにはこの二つが足りていない。


 ついこの間までただの高校生だったリクに、『戦いの経験』も『人を殺す覚悟』も持っている訳が無い。


 いきなり改造人間にされたとは言え、それがどんな力なのかも……どこまでの限界があるのかも……リクには分かっていなかったのだ。


「ぐ……くぅ……くぅ……」


 リクは歯を食い縛りながら両目から涙を流した。


 親友を助けられない『悔しさ』、自分だけが助けられた『恥ずかしさ』……それらがリクの心の中でない交ぜになり、涙という形で溢れだしたかのようだった。


「泣いたところで現実は変わらないぞ。お前の涙でブレイカーズが倒される訳でも、友達が戻ってくる訳でもない……」


 ナハトリッターはただ冷静に断言した。だが……


「……だが、諦めなければ希望はある」

「……え"?」


 ナハトリッターの呟きが耳に入り、リクは涙と鼻水でグシャグシャになった顔を挙げた。


 ナハトリッターはリクに手を差し出す。


「……今から友達を助ける事は無理かもしれない……だが、お前のその力を『正しい目的』の為に使えば、お前や友達のような思いをする人を減らす事はできる。『ブレイカーズを倒せ』とは言わない……だが、人々の為に奴らと戦う事はできる」


 ナハトリッターはまっすぐリクを見つめながら告げた。


「どうする?『このまま全てを諦めて元の暮らしに戻る』か、それとも『自分みたいな人間を一人でも減らす為にブレイカーズと戦う』か……どちらを選ぶかはお前の自由だが、『戦い』を選んだなら二度と元の暮らしに戻れるとは思わない事だ……それだけは言っておく」

「……」


 リクはしばらくの間、差し出されたナハトリッターの手をぼんやりと見ていた……そして、


「!」


 顔から涙と鼻水をぬぐいとると、ナハトリッターの手を掴んだ。


「……やってやるよ。俺みたいな思いをするのは俺一人で十分だ」


 ナハトリッターに起こされたリクの顔は、先程まで泣きじゃくっていた少年と同一人物とは思えなかった。


「……ブレイカーズを叩き潰す!それが、今から俺の役目だ!」


 それは『覚悟』を決めた男の顔だった。


「……まだちゃんと名乗っていなかったな」


 リクの覚悟を認めるように、ナハトリッターはテンガロンハットとマフラーを外してその素顔を露にする。


「……え?」


 ナハトリッターの素顔を目にして、リクは目を丸くした。


 テンガロンハットとマフラーの下から出てきたのは……リクより少し歳上の、だいたい30代くらいの男性の顔だったのだ。


 黒い髪を短く刈り上げ、眉毛の間には三日月型の傷があり、意思の固そうな目をした青年だ。


 昭和30年代から活躍していることから、下手すると80過ぎくらいだと思っていたリクは拍子抜けしてしまった。


「改めて……俺は(つるぎ) 正一(しょういち)、『二代目ナハトリッター』だ。よろしくな」


 改めて自己紹介すると、ナハトリッター……剣 正一はリクにリクと硬い握手を交わした。


 一方のリクはその自己紹介を聞いて困惑していた。


「に、『二代目』……?じ、じゃあ『初代』もいるのか?」

「あぁ」


 リクからの質問に正一は頷きで答える。


「初代ナハトリッター……先代である俺の師匠は、平成9年に敵からの攻撃による負傷が元で亡くなってな……以来、俺が『ナハトリッター』の名前を継いだという訳さ」


 正一の説明を聞き、リクは思わず「へぇ……」と呟いたのだった。

 しかし、すぐに気を取り直して、正一の手を握り返した。


「……んじゃあ改めて……よろしくな、剣のおっさん!」

「お前……昨日から人を『おっさん』呼ばわりして……俺はまだ35だぞ……」


 リクから『おっさん』と呼ばれ、正一は少なからずショックを受けた様子で複雑そうな表情を浮かべた。


「何言ってんだよ?10代から見たら、30過ぎはみぃんな『おっさん』か『おばちゃん』だって!」

「……」

 断言するようなリクの言葉に、正一は少しばかりイラッとしたのだった……。




 それからはあっという間だった。


 帰宅したリクは両親にそれまでの事情を自身の変身やブレイブスターを証拠として説明し、今後の決意……すなわち『ブレイカーズと戦う事』を宣言した。


 父も母も、最初は『危ない事は止めるように』と説得したが、リクの決意が硬い事を知ると『自分達が元気な内は絶対に戦死してはならない』という一念を押して、泣く泣く承諾した。


 そして、剣道部を『一身上の都合』で退部すると、放課後は府中市の呪井探偵事務所の地下にあるナハトリッター基地で訓練を重ねていくという生活を開始したのだ。


「基礎はできているんだ!ちゃんと鍛えれば、実戦式の剣術も身に付く筈だぞ!」

「オッス!けど……おっさん、『実戦式の剣術』なんて教えられんのか?」

「俺を見くびるなよ!俺は天然理心流剣術・免許皆伝だ!」

(作者注:『天然理心流』とは、新撰組局長・近藤(こんどう) (いさみ)が習得していた剣術の流派。現在も古武道として存続している)


「……では、キック技の名前は『シルバーブレイク』としましょう。剣の技は……そう、『シルバースラッシュ』……だと少し語呂が悪いですねぇ……『シルバースラッシャー』としましょう」

「……なぁ十六夜のねえちゃん、技の名前を考えるのはいいんだけどよぉ……これホントに叫ばなきゃダメなのか?」

「まぁ、『ヒーローは必殺技の名前を叫ぶもの』ですからね……恥ずかしがる事はないですよ。君だって、剣道の試合で『めーん』とか『つきー』とか叫ぶでしょ?あれと同じ『掛け声』みたいなものです」

「ハァ……そんなもんかねぇ……」


『マスターの肉体の管理・分析・解析はお任せを!皮膚の表面から内臓の裏側まで、全て調べ尽くしますとも!』

「……なんかちょっと怖ぇんだけど」





 そうして、2年の月日が流れ……

ナハトリッターのイメージモデルは某『どこの誰かは知らないけれど、誰もがみんな知っている正義の味方』+某『大富豪の蝙蝠男』です。

故に肉体的には鍛えただけの普通の人間ですが、人外相手と戦っても負けない(勝てるかは微妙な)くらいの強さがあるのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー! ナハトリッターは生身の人間なんですね! かっこいい! ライダーマンみたい!と思ったらライダーマンも半改造人間でしたね。
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