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パワーインフレの果てに

「あれだけの大技を放ったら、その剣も当分はただの聖剣に過ぎないな? ここで……決めさせてもらう……!」

「ぬっ……!」


 俺が宣言すると、ジャフは初めて表情に警戒心を滲ませた。


 だがすぐに気を取り直し、薄い笑いを見せる。


「こちらの大技を防いだところで、君には僕への有効打はない筈だ。大人しくやられて、この世界の終焉と新生……PIO化を見届けると良い……」


 ジャフが魔王より魔王らしい事を言っていたが、時間稼ぎに付き合っている余裕のない俺は容赦なく魔銃を構えた。


「【自動装填】・【高速装填】・【幻銃術】!」

「効かないって。【無尽斬り】」


 俺がいくら魔弾を放とうと、弾は剣に斬られて簡単に防がれてしまう。だが、今はスキルレベルさえ稼げればそれで良かった。


「【幻銃術】純派生、【転移弾】!」


 俺は新たに覚えた【転移弾】というスキルを使い、ジャフの斜め後ろ辺りへと魔弾を放った。


 すると魔弾系スキル【転移弾】の効果で、その弾があった位置に俺が瞬間移動する。これは、「自身を魔銃で発射する」スキルなのだ。


「くっ……。背後に回ったところで、僕に奇襲できると思うなよ……!?」

「レイン君には攻撃させないよっ!」


 ジャフは流石の反応で後ろに回った俺へと振り返ったが、俺への攻撃はスフィ達が許さなかった。


 まずあらかじめ魔剣化していたニアの鎧が、彼女の意思通りに拡張してジャフの四肢を取り押さえる。


 ジャフは剣から龍を呼び出してそれを振り払おうとしたが、それも敵わなかった。先ほどのスキル仕様で過剰魔力が充分に溜まったスフィの杖が、本来の三倍ほどある赤い刃で龍の内二匹を冥府送りにする。


「【魔王術】・【幻銃術】!」

「くっ……! 【念動剣】!」


 【魔王術】で強化した従魔達にジェフを襲わせながら魔弾を撃つと、身動きが取れないジェフは念力で剣を動かして攻撃を防いでいった。その剣捌きは手動でなくても洗練されており、どんなに弾を増やしても切り落とされていく。


 ≪剣聖≫が防御に特化してしまえば、今の俺にはまともな対抗手段がない。

 しかしそれなら……対抗手段を増やせば良いだけだっ!


「【随時洗礼】」


 俺は先ほどからバカスカ撃っていた【回復術】から派生した、神官専用スキルを発動した。


 同時、俺の眼下に四角い長方形の仕切りが現れる。中央には竜の姿があり、目の前の光景にはどこか既視感があった。


「あれは……?」

「ま、まさか……!?」


 その空間に気がついたスフィ達が驚く前で、俺は勢いよくその仕切りの中へと飛び込んだ!


 そのままPIO民との戦いで磨いたスキルを使い、3秒もかけずにその竜を倒す。


「……武道家の試練、達成。次は、忍者の試練だ」

「受領しました」


 再びスキルを発動すると、俺は新たに現れた空間で次の竜を倒した。

 【随時洗礼】……。それは神官のみ覚えられる、どこでも試練を受けられるというスキルなのだ……!


 神殿に行けば覚えられるのでわざわざこんなスキルを覚える奴は少ないが、緊急時なのでやむを得ない。


 しかも神に対抗する【抗神術】は神の与える試練中に封印されず、試練の難易度を下げる効果もある。俺はジャフが動けない内に大量の試練を突破し、それから【抗神術】の純派生スキルを使用した!


「【魔職化】・【魔人化】っ!」


 【魔職化】。それは、神から与えられた天職を背教者の力で闇属性の職にするスキルだ。


 これを使えば職業系スキルが一時的に暗黒系スキルえと変化するため、【魔人化】によって全ての性能が三倍化させられるのである……!


「無茶苦茶だよレイン君っ!? あんなに天職を貰っといて、まだ足りないのっ!?」

「試練一つ受けるのに人生かけてる人いるのに、こんなお手軽に兼業するなんて……。しかもその天職まで弄ってるし!? 神官になったのに信仰心が感じられなさすぎるっ!」

「信仰心がなくなったら、神官から補充すればいいだけの話だからね! 行くよ、暗黒射手スキル……【千闇術】!」


 ジャフが光を集めたお陰で周囲に満ちた闇を矢の形にし、弓へと自動で番えられていく。それを放つと普段より三倍速く矢が放たれ、ジャフに直撃して鎧や聖剣の神性を奪った。


「なにぃぃぃっ!?」

「【攻性守護術】・【血盾術】」


 騎士の防御系スキルですら、【魔職化】の影響で攻撃特化のスキルと化していた。


 防御力を攻撃力に変えたり盾で殴りつけたりしながら、俺はどんどんジャフの鎧を削っていく……!


「くっ、【上位回復術】……」

「【反神結界】」

「うぎゃあああああああ!?」


 ジャフは慌てて自分に回復を施したが、背教者のスキル【反神結界】を張ることで彼の回復効果はむしろダメージに変わった。


 あらゆる祝福を否定し、反転させるのが背教者という職業だ。二つ名からして聖剣士なジャフにとっては、マジで相手にしたくない職業だろう。


 自爆して地上に落ちてきたジャフを見て、俺はふっと笑った。


「剣の道一本を極めるのは素晴らしい事だけど……。それだけの気概があるなら、全部極める事をお勧めするぜっ!」

「んなこと出来るかぁ!!!」


 俺のアドバイスを全力で拒否して、ジャフが剣圧で攻撃しようとしてくる。


 だが潜影忍者のスキル【潜影】で攻撃を避け、武道改人のスキル【伸縮蹴り】をかました。暗黒系スキルにつき、どれも性能は三倍だ。


「馬鹿な……そんな子供の姿になっても……君の強さは健在だっていうのか……!?」


 俺とスフィ達と従魔の軍勢にこてんぱんにやられた《剣聖》は、動揺を隠しもせずに呻いた。


「天職を現地調達し、その場で魔改造して、対策が一切通用しない。覚えたてのスキルも惜しみなく矢のように惜しげもなく使う……《魔弓帝》……!」


 俺の二つ名に込められた意味を思い出し、ジャフが震えた。


 もっと単純に《やたらと前のめりな射手》って言われた方が、俺のスタイルや矜持を言い表してくれているようで個人的には好みなんだけどな。


「でも、僕だって負けるわけにはいかない……。《剣聖》と言われたからには、剣の力で君に打ち勝って見せる……!」


 ジャフはそう叫び、剣を正面に構えてから力を込めた。


 あの構えは聖剣士のスキル、【刹那の燐光】か。五分の間だけ神聖系スキルの性能が十倍になる代わり、それ以降は一定時間スキルが使用不可能になるという短期決戦用スキルだ。


「【光剣斬】・【事後連撃】・【超越剣】っ!」

「【瘴気腕】・【光転弾】・【千闇術】!」


 周囲の光を剣にしながら攻撃してくる《剣聖》に対し、俺は光を吸収しながら攻撃を避け続けて隙を見て攻撃する。


 一見すれば俺の方が分が悪いように思えるが、それはあと五分間だけの話だ。俺は受けに徹して、《剣聖》の攻撃を捌き続けた。


「ここまでやっても、捕えきれないのか……!? いや、それなら……」


 時間切れが迫り追い詰められたジャフは、しかしそこで諦めなかった。


 諦めない心も執念も、とても大事なものだ。ひたむきな奴は俺も大好きだ……が。


 追い詰められた彼は、その執念の向けどころを間違えてしまった。


「そこの子供達を危険に巻き込めば、君は無視できないんだろう……!?」


 躍起になって俺を追っていた《剣聖》は、唐突に視線をスフィとニアの方へと向けた。


 彼はスフィ達に攻撃を加え、守ろうとした俺の隙を突くつもりなのだろう。しかしまともなやり方では、二人とも助けることは……出来ない。


「馬鹿野郎っ! ぐっ……【転移弾】っ!」

「【閃光剣】っ!」


 俺はスフィ達の前に弾丸を撃ち込み、彼女達の前へと瞬間移動する。


 その瞬間。【閃光剣】によって加速したジャフの剣が、俺の体をザックリと引き裂いた。


「そん……な……っ! レイン……君……?」

「嘘、嘘よ。レイン、私達のために、こんな……!」


 最初に魔王軍幹部と出会った時も、彼女達を庇った事があった。だが《剣聖》の攻撃は、そんな生易しいものじゃなかった。


 四天王の体に制限されてもレベル100超えの【閃光剣】は、その熱だけで俺の体を焼ききる。そして聖剣の剣先は、俺の内臓をいくつも蒸発させていた。


 【回復術】のレベルが高ければ2秒で回復できる傷だが、今は心臓を修復するだけのレベルすらない。俺は何をするでもなく呆然と、正面を見つめていた。


「なっ……! 君が身を呈して庇うだなんて、思っていなかったよ。君はここに、居場所を見つけていたんだね……」


 ここで俺を殺してしまうのは予想外だったようで、《剣聖》はこれまでになく表情に動揺を浮かべていた。彼は悲しそうな顔をして、それから身を翻して立ち去ろうとする。


 自らに課した使命を果たした彼は、PIO民の本能というか病気に従ってこの世界をPIO化させにいくつもりなのだろう。だが……。


「お前、何終わらせた気になってんだ?」

「ほえ?」


 いくらPIO民と言えども身勝手すぎるので、俺は彼の肩に手をかけて尋ねた。


 世界を強引に転生なんてさせたら、折角庇ったのにスフィ達にまで危害が及んでしまうじゃないか。


「な、なんで君……生きて……」

「そんなの当たり前だろ? 俺が魔王だからだよ」


 俺が言うと、ジャフはひっと息を詰まらせた。


「今の俺はレイン・エドワード第二形態だ。今までの経験値的にあと八十形態くらいは進化すると思うから、世界を壊したいならその前に俺を八十回倒していけ」

「う、嘘だっ! 魔王の【形態変化】なんて相当な経験を積んでないと一回すら発動しないのが普通だろ!? どんな無茶をすれば八十形態なんて……」

「忘れたのか? 俺は《やたらと前のめりな射手》だぞ?」


 俺が言うと、彼は疑う代わりに絶句した。俺なら本当に八十形態くらい到達すると、これまでの経験で分かってしまったのだろう。


「スフィ達を狙っといて、ただで済まされると思ってんじゃねぇぞ? どんなに頼み込まれても、お前をこの世界から追放するのは決定事項だ。世界の半分たりとも、お前にはくれてやらねぇよ」

「ふぁっ、あがっ……!」


 第二形態になった俺が圧を発すると、聖金属で出来ている彼の鎧と剣が全て砕けた。それから俺の周囲に魔王としての新しい腕が浮かび始め、それぞれ得てきた天職に応じた光を放ち始める。


「【重力術】・【創造】。簡易ブラックホール生成……」

「【潜伏】派生……【存在抹消】」

「【武術】派生……【接触破壊】」

「【自動装填】派生……【自動猛毒注入】」


 俺の腕はそれぞれが経験を消化していき、強いスキルを習得し始めた。こうなったら、もう多少の攻撃は自前のスキルで対処可能だ。ジャフにまだ隠し玉がある事を考えても、そろそろ倒して良さそうだな。


「ねぇ魔王。私達には分からないんだけど、今のレインってどれくらいの強さになってるの?」

「多分、第二形態にして私の第千二百形態くらいの強さがあると思う……。うぐぅ……っ!」

「魔王を怖がってたのが馬鹿らしくなってきちゃうねぇ」


 衝撃を受けるニア達を背にして、俺は無数の手でジャフを握り潰した。

 これに懲りたら、あっちの世界では人格をPIOに飲み込まれすぎないように気を付けろよ。


 俺が仇敵が解放されていくのを見送っていると、ようやく事態が飲み込めたスフィとニアが、叫びながら俺へと抱きついてきた。彼女達は目から涙を流していて、その涙を見ると《剣聖》に殺された時以上の衝撃を受けてしまう。


「本当に、死んじゃったかと思ったよ……。生きてて良かった、レイン君……!」

「あんたが無茶苦茶で良かったとここまで思った日はなかったわ。おかえり、レインっ!」


 俺の無事を祝福してくれる彼女達を見ると、俺は自然と笑みが零れた。


 第二形態になった俺をこうも心配してくれる人は、この二人の少女を除いて他にいないだろう。この世界を守れて良かったと感慨に浸りながら、俺は新しく得た魔王の腕で彼女達の頭を撫でるのであった……。

 物語も一段落がつき、本作はこれにて一旦完結となります! 読者の方々につきましてはここまでお読み下さり、本当にありがとうございましたっ!


 とはいえ完全に完結というわけではなく、あくまで一旦の完結のつもりです。この本編以外に天使や神が出てくる続編や、読者の方に提案されたPIO自体の話を書く外伝なども考えていたのですが、就活との両立が出来ず親にも怒られてしまったのでやるとしても落ち着いてからという形になると思います…。

 目標だったランキング十位以内を達成出来ればもう少し説得も出来たのではないかと思うのですが、力及ばず申し訳ありません…。そしてポイントに目が眩みすぎていた当時は、今でも反省しております(涙) 

 web小説から一旦足を引くという形になるのでもう一作の方もすぐには続きを書けなくなってしまいましたが、めげずに就活を頑張っていきたいと思います。第一編終了時点で終わらせるかも迷っていたのですが、なんとか完結まで書けて良かったです!

 改めて、これまでお読み下さった方、これまで応援していただいた方……有難うございましたっ!!!


レイン・エドワーズ

幻銃士lv.7/射手lv.15/魔剣士lv.3/剣士lv.12/獣装士lv.5/調教士lv.14/騎士lv.2/背教者lv.4/神官lv.3/武道家lv.2/忍者lv.2/魔王lv.8/魔人lv.9/絶空王lv.5/豪炎王lv.3/重力王lv.2

【幻銃術】lv.38

【転移弾】lv.24 new

【弓術】lv.281

【散弓術】lv.102

【爆散弓術】lv.4

【千弓術】lv.58

【幻壁弓術】lv.13

【高速装填】lv.57

【自動装填】lv.35

【自動猛毒注入】lv.6 new

【強制装填】lv.46

【技能装填】lv.39

【背後射撃】lv.22

【音速矢】lv.19

【中継矢】lv.12

【近接射撃】lv.25

【魔剣術】lv.11

【剣術】lv.128

【遠隔剣術】lv.50

【剣域拡張】lv.17

【閃光剣】lv.6

【剣防御】lv.8

【瞬突】lv.15

【回転斬り】lv.38

【加重剣】lv.2

【大剣術】lv.4

【超大剣術】lv.5

【獣装術】lv.13

【調教】lv.41

【魔物保有数向上】lv.48

【従魔覚醒】lv.37

【従魔活性化】lv.42

【抗神術】lv.103

【魔職化】lv.24 new

【反神結界】lv.33 new

【回復術】lv.56

【随時洗礼】lv.17 new

【守護術】lv.35

【盾術】lv.13

【騎乗】lv.102

【自在騎乗】lv.42

【物体騎乗】lv.18

【魔人化】lv.42

【空術】lv.43

【炎術】lv.31

【重力制御】lv.28

【盾術】lv.8

【魔王術】lv.83 new

【形態変化】lv.40 new

【天握王腕】lv.17 new

【武術】lv.32 new

【接触破壊】lv.2 new

【忍術】lv.12 new

【潜伏】lv.1 new

【存在抹消】lv.3 new


【緊急回避】lv.42

【投擲】lv.112

【軌道制御】lv.24

【空握】lv.51

【空腕】lv.17

【投擲許容量増加】lv.24

【索敵】lv.135

【索敵範囲拡大】lv.31

【弱点捕捉】lv.27

【砥ぎ師】v.51

【過剰砥刃】lv.35

【足払い】lv.28

【回し蹴り】lv.39

【風転撃】lv.52

【風壁】lv.1

【浮遊】lv.58

【浮動】lv.1

【単独撃破】lv.34

【並行作業】lv.43

【鷹の目】lv.26

【消耗品再利用】lv.25

【強制収容】lv.62

【空間圧縮】lv.31

【愛撫】lv.72

【高速振動】lv.37

【創造】lv.103

【高速創造】lv.23 new

【素材調合】lv.42

【魔王の血脈】lv.58

【王位継承】lv.25

【狙撃】lv.27

【頑丈】lv.24

【一極集中】lv.10

【熱耐性】lv.27

【魔物合成】lv.43

【俊足】lv.39

【威圧】lv.32

【夜の声】lv.5

【魔力流】lv.12

【恐怖吸収】lv.56

【恐怖の渦】lv.8

【闇属性攻撃力上昇】lv.2

【水泳】lv.45

【剛腕】lv.43

【不死狩り】lv.22

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