魔王軍幹部の倒し方
「ガキのくせに、なめくさりやがってぇぇぇ……!」
剣爆撃にしてやられたブラッディスケルトンは、部下を引き連れて猛烈な勢いで俺の方へと向かってきていた。グランドケートスは動けなくなったので徒歩での移動だが、それでもかなり速い。
「【空握】・【創造】・【強制装填】・【千弓術】・【弓術】・【剣術】!」
「効かぬわっ! 【骨城壁】!」
向かってくるブラッディスケルトン達に対して、俺は自作の空気剣と手元に戻ってきた数十本の剣を同時に放つ。
だが相手も魔王軍幹部というだけあって、それくらいの技は防いでみせた。腕や肩の骨が肋骨へと集まり、隙間のなくなった肋骨が核である心臓を守る。
【骨城壁】というのは、攻撃が出来なくなる代わりに防御力を増すスキルなのだ。
俺は射手の火力不足を【音速矢】だけで補ってきたため、こう防御力の高い相手はあまり得意な相手ではなかった。
「くだらない街への侵攻作戦で、こんなに被害を出す筈はなかったのに! 貴様さえ、貴様さえいなければあああああっ!」
「くだらない街だって? 俺達にとっては思い出のある大切な街なんだ! やられる覚悟もなしに、お遊び気分で襲ってるんじゃねぇよっ!」
泣き崩れていた受付嬢ナーシャの事を思い出しながら、俺はブラッディスケルトンに怒鳴りつける。こいつさえいなければ、彼女だって悲しむことはなかったのだ。
今の俺には相性の悪い相手だが、退く気は一切なかった。
「レイン君、私がついてるよっ! 【超駆動】・【速眼】!」
「あんたを助けることは出来ないけど、雑魚に邪魔はさせないわ! 【念剣陣】!」
今の俺には、頼れる仲間達がいる。俺を助けてくれる彼女達のお陰で、絶対負けるわけにはいかないと強く思えた。
防御特化スキルを使いながら接近してくるブラッディスケルトンを見て、俺は弓から剣に持ち替える。
「射手は近接戦闘向きじゃないけど……。今の俺は、剣士でもあるっ!」
俺は先ほど習得した【空握】の純派生スキル、【空腕】を使用した。
空気の腕を作るこのスキルは、今のレベルだと2本の腕を作る事が出来る。俺はそこら中に落ちている剣から二本を拾い、空気の腕でもう二本を拾っていた。
四刀流で攻撃をすれば、防御特化の【骨城壁】など使っている余裕はなくなる筈だ。
「【瞬突】・【回転斬り】・【技能装填】・【風転撃】・【技能装填】・【高速振動】!」
剣爆撃の拍子に覚えた剣技系スキルや【技能装填】によって、様々な動きをする剣がブラッディスケルトンを襲う。
「うおおおっ! なんだこいつ、四刀流とか剣士でもやらねぇぞ!? 避けられねぇ!」
「よし、やっぱり剣の攻撃なら通るな……。このまま行こう!」
四刀流程度の腕はなまっていなかった事に安心しながら、俺は剣を振るい続ける。剣を振るったのは久しぶりだから、今じゃ百刀流も使いこなせないかもな……。
そんな事を思いながら俺が連撃をかましていると、ブラッディスケルトンは唐突に叫んだ。
「こうなったら、こいつを倒すのは諦めるしかないか。【拡張血根】!」
叫ぶと同時、骨の一部を周囲に伸ばしていく。伸ばした骨は周囲にある魔物の死骸に接続され、接続先の骨まで自在に操れるようになった。
「お前は倒せなくても、人質ならとれる! 【貫通骨檻】!」
「しまった!」
拡張された奴の骨がいきなりスフィ達の方へ伸びたので、俺は咄嗟に身を呈して彼女達を庇った。空中の剣で弾いたので致命傷は避けたが、ちょっとヤバい状況だ。
相手の素材が骨なせいで、【過剰砥刃】も効きづらい。つくづく今の俺が苦手な相手だなっ……!
「れ、レイン君っ……!? そんな、死んじゃ嫌だよっ!」
「私達のせいで、レインがやられちゃうなんて……。こんなの嘘よ……」
骨の檻に串刺しにされた俺を見てスフィが叫び、ニアが呆然と呟く。反応は対照的だが、二人とも俺の事を思ってくれているのが伝わった。
「がふっ……」
血を吐きながら、彼女達の声を聞く。そうだ、俺はこんなところでやられている場合じゃない。ゲームを遊んでいた頃よりも、俺の双肩にかかっているものは大きいのだから……!
「【中継矢】・【調教】」
「なんだ……? そんなに串刺しにされて、まだ無駄な抵抗をしようってのか?」
「無駄な抵抗かどうかは……まだ分からないけどな」
俺は剣爆撃の際に【弓術】から純派生したスキル、【中継矢】を起動した。
これは俺の放ち終えた矢を伝って、遠くで違うスキルの効果を発動するためのスキルだ。近くにある矢から少し遠くにある矢へとスキルの効果が中継されていけば、どんなに遠い場所にもスキルの効果を伝えられる。
そして今伝えたのは、【調教】の効果。先ほどブラッディスケルトン達に放った矢を伝い、彼と一緒にやってきた配下の魔物達に【調教】によるテイムを試みる。
もし開戦当初だったら、俺の【調教】レベルが低すぎて成功はしなかっただろう。だが……。
「あれ。こんなガイコツより、こっちの子供の方がイケメンじゃない?」
「本当にゃ……。ただのチビだと思ってたけど、底知れない魅力がある気がしてきたにゃ?」
スフィやニアが戦っていた魔物の内、俺の放った矢が刺さっている何匹かが唐突に戦闘をやめた。そして俺に一瞬で懐いた魔物達は、いきなりブラッディスケルトンを襲い始める。
【魔王の血脈】。剣爆撃で相手に恐怖を刻みつけた事でレベルの上がったこのスキルが、魔王軍配下へのテイム成功率を高めていたのだ。
「なんなんだお前達っ! いきなり私に逆らうなど……っ!」
「だってぇ……。あんた親衛隊に女ばっか増やしてハーレム気分味わってるのバレバレだし……」
「キモい骸骨より可愛いチビの方が好みにゃ」
「な、なんだとぉ! お前らそんな風に思ってたのか!?」
なんか可哀想になってきたが、ブラッディスケルトンは裏切った部下に対処するため俺への警戒を緩めた。その途端、スフィとニアが俺を閉じ込めていた骨の檻を壊してくれる。
「クソッ! あの野郎、俺の部下達を寝取った上に檻から逃げやがった!」
「寝取ったわけじゃないけど……」
「だがその体じゃもうまともに戦えまいっ! 部下達を正気に戻したら、すぐに貴様を殺してやるからな!」
解放された俺を見たブラッディスケルトンは、俺の反論も聞かずに喚きたてる。
美少女な配下の魔物達に裏切られたショックで冷静さを失っているのだろうが、彼は見当違いなことを言っていた。
俺はまだ、戦える。いや……今ようやく、戦えるようになったのだ。
「なぁ、走馬灯ってあるだろ? 死ぬ間際は脳が活発になるから、記憶が一気に蘇るってやつ。俺は今、そんな感じなんだよ……」
「はぁ? 何の報告だそれは。まさか命乞いするつもりかぁ?」
俺の言葉の意図が読めなかったようで、ブラッディスケルトンが愉快そうに笑った。
「違うよ、スキル習得条件の話だ。職業レベルの合計が10以上、スキルレベルの合計が1000を超えた状態で、極限の集中力を発揮すると覚えられるスキルが有るんだ」
「……? 何を言っている……?」
訝し気な顔をするブラッディスケルトンに、俺は微笑みかけた。
「つまり死にかけたせいで集中状態にある俺は、今ようやくお前を倒す準備が整ったってことだよ」
「ははは、ただのガキが何を馬鹿なことを。私は魔王軍の幹部だぞ?」
「それがどうしたんだ?」
俺が質問したタイミングで、彼はようやく俺が本気で言っていることに気が付いたのだろう。俺の目を見たブラッディスケルトンは、声帯もないのに「ヒッ」という悲鳴を漏らした。
「お前が仕えてるのは魔帝でもなければ魔神でもなく、ましてや魔そのものでもないんだろ? 魔王なんて珍しくもないんだ。その幹部ならもう、今の俺でも倒せる」
「なっ、何言ってんだお前……!?」
馬鹿にした口調ながらも、ブラッディスケルトンが本気で俺に怯えてるのが分かる。
後ずさる彼を真正面から見据えながら、俺はこいつにどんなとどめを刺そうとしているのかを教えてやった。
「今死にかけたお陰で覚えたのは、【一極集中】ってスキルだ。同一スキルでもレベルさえ上げれば同じ瞬間にいくつか使えるが、本来重ね掛けは出来ない。でもこの【一極集中】ってスキルを使えば、それが出来るようになるんだ……」
例えばレベルさえ上げれば、右手と左手で同時に【投擲】を使うことも出来る。だが【投擲】を同時に何回使ったところで、それによって【投擲】の性能が跳ね上がるなどという事はない。
それを可能とするのが、【一極集中】というスキルだ。次の瞬間に一種類のスキルしか使えなくなる代わり、使った分だけ「重ね掛け」できる。
「行くぞ、【一極集中】……」
「ま、待て! 何か嫌な予感がするぞ……。誰かっ、誰か身を呈してでも俺を助けろよ!?」
ブラッディスケルトンが喚くも、傲慢な彼の命令には誰も従わなかった。俺は体中から血を流しながら弓を構え、そこに何の変哲もない普通の矢を番える。
「【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】・【弓術】っ!」
一極集中したスキルは、最も力を入れて鍛えていたスキル……【弓術】。職業レベルの合計だけ重ね掛けした【弓術】のレベルは、単純計算でlv.263×12……lv.3156にもなる!
俺はlv.3156の【弓術】を使いながら、ブラッディスケルトンに普通の矢を放った。
「貫けえええええええええええええええええっ!」
「ひいっ! 【骨城壁】!」
ブラッディスケルトンが咄嗟に防御スキルを使うが、もう遅い。俺の放った矢は風圧だけで地面を大きく抉り、射出時の熱で抉れて出来た道に灼熱の炎を燃え上がらせた。
炎の道は前方にずっと続いたが、その上にあったはずのグランドケートスの死体はきれいさっぱり消滅している。
そしてもちろん、グランドケートスさえ消滅させる攻撃の後に、骸骨の姿など残っている筈もなかった。
レイン・エドワーズ
射手lv.6/剣士lv.4/調教士lv.2/魔人lv.1
【弓術】lv.263
【散弓術】lv.78
【千弓術】lv.39
【高速装填】lv.57
【自動装填】lv.22
【強制装填】lv.41
【技能装填】lv.33
【背後射撃】lv.22
【音速矢】lv.19
【中継矢】lv.6
【近接射撃】lv.25
【剣術】lv.88
【遠隔剣術】lv.23
【剣防御】lv.8
【瞬突】lv.15
【回転斬り】lv.30
【調教】lv.41
【魔人化】lv.1
【緊急回避】lv.31
【投擲】lv.89
【空握】lv.51
【空腕】lv.12
【投擲許容量増加】lv.24
【索敵】lv.103
【索敵範囲拡大】lv.17
【弱点捕捉】lv.23
【砥ぎ師】v.51
【過剰砥刃】lv.35
【足払い】lv.28
【回し蹴り】lv.36
【風転撃】lv.43
【浮遊】lv.32
【単独撃破】lv.12
【並行作業】lv.43
【鷹の目】lv.26
【消耗品再利用】lv.25
【強制収容】lv.17
【愛撫】lv.72
【高速振動】lv.37
【創造】lv.29
【魔王の血脈】lv.45
【狙撃】lv.27
【頑丈】lv.18
【一極集中】lv.5




