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森に置いて行かれたけど、なんとかなったわ

「本当にトロいわねアンタ! マジで使えない!」

「ご、ごめん!」


 森でゴブリンに弓を放っていた僕は、何が悪かったのか前衛で戦う赤髪の少女ニアに怒鳴られてしまった。

 僕は十歳でニアは九歳なのに、彼女の怒る声はとても怖い。特に失敗したつもりはなかったけど、反射的に謝ってしまう。


「あんたも冒険者見習いなら、ゴブリンくらい一発で倒せるでしょ? なに一匹に何分もかけてんのよ!」

「ほんとそれ。【弓術】なんて雑魚スキルばっか鍛えてるからこうなるんだ。ここまで使えないと、今日も報酬の分配は少なくするしかないなぁ」


 パーティーメンバー達の言葉を聞く限り、どうやら今の一射が悪かったとかではなく僕自身についての文句だったようだ。

 そんなの今はどうしようもない事なんだし、こっちは全力でやってるんだから言わなくていいだろ!


 意味もなく僕の士気を下げてくる彼らに頭の中で怒鳴るが、彼らは自分より遥かに強いので口に出すことは出来なかった。そんな事をしたら殴られる上に、半分になった報酬がもっと減らされてしまう。


「【吸血刀】!」

「【血の鳴動】。【加圧撃】!」


 僕が反論を我慢する前で、パーティーメンバー達は成長を重ねた強いスキルを使ってゴブリンを圧倒している。

 スキルは鍛えれば鍛えるほど強くなるので、前に出張り続けている彼らのスキルは僕とは比べ物にならないほど強くなっていた。子供は八歳の頃から冒険者見習いとして戦うんだけど、彼らはその中でもかなり強い部類なのだ。


 君らが弓の射線を塞ぐから、僕のスキルは成長しないんじゃないか……。

 何度言っても聞いてくれない文句は、またもぐっと飲み込むしかなかった。




 それから十分もすると、獲物のゴブリンはほぼ一掃された。

 だが数体だけ残して、パーティーメンバー達は僕に向かって歩いてくる。


「お前はクソ雑魚なんだから、残りのゴブリンは自分で倒して鍛えときな」

「三匹くらいなら一人でも倒せるだろ? ま、倒せずに殺されても俺らは困らないけどな」

「ヒャハハハハハハ!」


 ゴブリン討伐クエストを達成したパーティーメンバー達は、戦闘に疲れたようで残りの獲物を僕に押し付けて勝手に帰っていった。


 パーティーメンバーを一人で森の奥に置いていくなんて、嫌がらせにしてもあまりに非常識だ。でも鍛える場を求めていた僕は、むしろ若干感謝しながらゴブリン達に向き合う。


「僕だって、出番さえあれば……!」


 僕の放った矢が、残ったゴブリンの頭に命中する。一発で絶命させられたところを見るに、やはり僕が活躍しきれないのはパーティーメンバーが邪魔だからであるようだ。


「クソッ! 僕だってちゃんと頑張ってるのに!」


 二射目。もう一匹の胸に命中。確かに威力は低いが、僕が魔物の警戒心を分散しているから前衛の皆も戦えているんだ。何度言っても、言い訳だとしか思ってくれないけど。


 もう一射。二匹目が絶命。そして三匹目……。


「え……?」


 でも、次の矢はスムーズに放つことが出来なかった。


 何故なら遠くにいたと思っていた三匹目のゴブリンが、いつの間にか僕のすぐ目の前にいたからだ。ゴブリンのスピードでは有り得ない。こいつは……。


「ゴブリンに【擬態】した、ゴブリンロードか!?」


 ゴブリンに擬態することで油断した相手に近づくのが目的だったのだろうが、それは予想以上の効果を発揮して僕一人だけが残ったのだ。

 僕のパーティー全員でかかれば強くない相手だが、後衛職一人の手に負える相手ではない。くそ、皆なんで僕を置いていったんだよっ!


「こんなところで、死んじゃうのかよ……!」


 僕が死の恐怖に襲われて叫んだ、その瞬間。


 突然大量の記憶が頭の中に流れ込み、同時に僕の体が、これまでとは別人のように動いた。


「ウギィ!?」

「あれ。なんで()、ゴブリンロードなんか怖がってたんだ?」


 殆ど反射で相手のこん棒を避け、それからゴブリンの目に矢を撃ち込む。【近接射撃】スキルがlv.2に上昇。

 直後に新たな矢をつがえながら、相手の足を払って転倒させる。【高速装填】lv.18に上昇、【足払い】lv.1を習得。


 そして、相手の後頭部に矢を放ってトドメを刺した。【単独撃破】lv.1習得。


「うわ……本当に、記憶の通り動けば倒せた……」


 戦闘中に記憶の整理がついた俺は、ゴブリンロードを倒すと小さく呟いた。


 どうやら俺は、前世でこの世界と似たようなゲームをやったことがあるらしい。大会の賞金で生計を立てていたプロゲーマーで、事故で死んだときもゲームの事しか考えていなかった位にはやり込んでいた。

 その執念によってか俺はゲームの世界に転生し、死の恐怖を感じたことで前世の記憶を取り戻せたようだ。


「でもゲームの世界に転生するのはともかく、よりによってこの世界か……」


 パワーインフレ・オンライン、略称PIO。それがこの世界に似たゲームの名前だ。


 どんなスキルもほぼ無限に成長や派生が出来るゲームシステムが採用されていて、その都合上やり込めばやり込むほど信じられない勢いでパワーインフレが進むようになっている。さっき覚えた【足払い】も、育てていけば【装甲切断旋風】とかいう物騒な名前のスキルに派生した。


 新規プレイヤーとの格差が凄まじいことになるのはネックだったけど、パワーインフレしたキャラ同士の拮抗した戦いはとにかく楽しいのだ。まぁ、生活するには死ぬほど適さない世界だと思うけど。


「PIOの世界で生きていけるか不安だし、今は鍛える事にしよう。これまで覚えてたスキルも、不遇スキルなんかじゃなかったしな」


 俺は自分のステータスを見ながら、記憶を失っていても良いスキルを覚えていた自分に苦笑するのだった。



レイン・エドワーズ

射手lv.4

【弓術】lv.113

【散弓術】lv.8

【高速装填】lv.18

【近接射撃】lv.2

【緊急回避】lv.5

【投擲】lv.23

【投擲許容量増加】lv.7

【索敵】lv.80

【索敵範囲拡大】lv.12

【砥ぎ師】v.47

【足払い】lv.1

【単独撃破】lv.1

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