異世界に到着
「どこだここは……」
俺は目が覚めるとどこかの草原の上に仰向けになっていた。
どこまでも広がる青い空、大空を飛んでいくワイバーン……ワイバーン!?
うん、一旦落ち着こう。
きっとまだ頭が混乱しているだけだ、一度深呼吸してっと…
そしてもう一度空を見上げる。
……鳥が飛んでいた、俺が知っている鳥となんら遜色はない。
ほらな?やっぱ混乱してただけなんだって……
と、安心した瞬間
―――パクッ
鳥はさっき見間違いにしたはずのワイバーンに食われました。
「マジかよ……」
どうやらいるようです、ワイバーン。
飛んで行くワイバーンを呆然と眺めていると後ろから声をかけられた。
「あ、ジン! 起きたんだね! 」
振り向くと例の不法侵入ベッド少女が笑顔でこちらに走ってくる。
というかこの子めちゃくちゃかわいいじゃねえか!
腰まで伸びた白銀の髪。長いまつ毛に水晶のような澄んだブルーの瞳。笑顔がとてつもなく可愛い。髪には紫色のクリスタルの髪飾り。
出会ってすぐわけのわからんことが起きたせいで顔もちゃんと見れてなかったが、めちゃくちゃ美少女じゃん……
「これ、近くで汲んできた水だよ! 冷たくて美味しいからどうぞ!」
と手に持っていた容器を渡してきた。
「あ、ご親切にどうも」
ゴクゴク…あ、ほんとだ美味しい……じゃなくて!
「君は一体何者でここはどこなんだ! 」
「あ、時間がなかったから説明もせずに連れてきちゃったね。ごめんごめん、えへへ~」
「いや、『えへへ~』じゃないだろ!? 」
まあ可愛いから許すんですが。可愛いは正義だね!
「まあまあ、説明するから怒らないで? まずは自己紹介から!私の名前はリーゼ・オレイラー! リーゼって呼んでね。次にこの世界について説明するね。ここはジンのいた世界とは別の世界、つまり異世界ってやつだよ。」
やっぱ異世界だったか……
「そして私たちのいるこの場所は『クリストエル王国』、別名" 魔水晶の国" って呼ばれるくらい魔水晶が豊富で、とっても活気のある私の自慢の故郷なんだ! 」
魔水晶とは魔力が詰まってる水晶のことだろう、ゲームならそんな感じの説明に違いない。
実際、ここは草原だというのにあちらこちらに水晶のようなものが地面から突き出ている。
ワイバーンも見ちゃったしここが異世界なのは疑いようがない……
「なるほど、ここが異世界だってことは理解した。それでなんで俺は異世界に連れてこられたんだ? 」
「うん、本題はここからなんだけど……ジンにはこの国、ううん、この世界を救うために力を貸してほしいの! 」
…………はい? 世界を救うとかいうワードが聞こえましたが?
「ちょ、ちょっと待ってくれ! この国は活気あるって言ってたよね? いきなりめっちゃ物騒じゃん! 」
「実は今、この世界は裏世界の魔物の脅威にさらされているんだ。今はなんとか各国の騎士たちや冒険者たちで脅威は排除できているけど、少しずつ押されてきている。この均衡が破られるのが一年後か十年後か、それとも明日なのか全くわからないんだ……」
そんな綱渡りな状況なのかよ……
「だから国民にはまだ知らされていない、不安にさせるわけにはいかないからね。だから私たちには強力な助っ人が必要なの! 」
「この世界が危機なのはよくわかったけど、どうして俺なんだ! 俺はただの十五歳のガキだぞ!? 」
「それはねジン、あなたには魔法の素質がある。そしてあなたが今まで培ってきた戦闘の知識、経験がある。だからあなたは選ばれたの、この世界を救う英雄に――」
「はい、ストーップ! 一旦落ち着こう! 俺に魔法の素質があるとかは知らんが、戦闘なんてしたことないし! そもそも殴り合いの喧嘩すらしたことないよ?」
ちなみに体育の通知表は3だ。人並み程度の運動神経しかない。
「え? ジンはいつも画面の中の敵と戦ってたでしょ? それと一緒だよ。」
「一緒でたまるか! そもそもなんで俺のことそんなに詳しいんだ!? 」
「そりゃずっと見てきたからね。」
そう言うと彼女はポケットから水晶を取り出した。
「この伝説級アイテム『魔眼の水晶』って言って、 魔力の高い人やモンスターを感知できて、対象の動向を見ることができるんだ。それで助っ人を探してたら強大な魔力を感知してね、それがジンだったってわけなの。」
ほう、アイテムにも階級があるようだな。おっといかん、ついゲームの癖が。
「俺じゃなくても他に魔力の高くて、なおかつスポーツや武術やってたりして戦闘に向いてる人なんていくらでもいるだろ? 」
すると彼女は少し顔を赤らめ、小声で
「ジンが一番年近そうだし、私友達いないからその……一番友達になれそうな人がジンだったから……」
と言った。
おい、可愛すぎるだろ。反則だろ。だが美少女の頼みとはいえ、俺が世界の命運を左右するのはさすがに無理だ。申し訳ないが諦めてもらおう。
「大変申し訳ないんだが、やはり俺には荷が重すぎる。俺のことは諦めて他の人をあたってくれ。」
「そうだよね、いきなり世界救ってくれなんて無理な話だよね。迷惑かけてほんとごめんね……」
ぐおおお……頑張って作った笑顔がめちゃくちゃ心に刺さる……
「じゃあ帰還魔法で元の世界に返すね…………あれ?あれれ?ない!時空間転移水晶がない!
…………えっとねジン、ほんと申し訳ないんだけど転移水晶持ってくるの忘れたみたいなの。だから帰るのもう少し待ってもらっていい?」
ええええええええええええ!?
どうやらもう少し異世界にいなければならなくなってしまいました。