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役立たずの通路

「うー……。何か嫌な予感がします……。お化けでも出そうな雰囲気です……。だから弥那はシズくんにくっつきます。何の粗もない完ぺきな策略ですっ!」

「弥那。動きにくいからちょっと離れてくれ」

「シズくん、ひどい!」

「穴だらけな策略でしたね……」


 涙目で服に縋りつく弥那を押しのけながら、シズルは隠し通路の先――地下道を歩いていた。他のメンバーはいつもの事かと気にも留めない。シアだけは、残念な者を見る目で弥那を見つめていた。


「もう少し歩いたら止まってください」


 セリが一向に指示を出した。彼女は使役している魔物に腰かけている。通路の地図を作るのに集中しており、移動は魔物に任せていた。移動を魔物に任せられるとはいえ、時折立ち止まらないと、地図作りが探索に追いつかない。

 セリは少し移動しては手持ちの紙に書き込みを入れる。どの通路が先に繋がっているのかを予想し、次の順路を決定していく。

 退屈そうに彼女の手元を見ていたノルイがセリの従魔にちょっかいをかけて甘噛みされる。助けを求めるノルイを無視し、グートは興味深そうに彼女の書く地図を覗き込んでいた。


「順調かい?」

「そうですね……。通ってきた道の記録は出来ています。しかし、分かれ道が多くて地下道の全てを網羅するのには時間がかかりそうです……」


 地図には分かれ道だけを記入し、先が確かめられていない通路がいくつも書かれていた。あまりにも分かれ道が多く、全てを調べている時間は無い。


「けれど、この通路を使えば、俺たちに気が付かれずに住居に侵入する事は出来そうだね」

「私たちが寝泊まりしていた拠点の出口に、足跡が残っていなかった事を除けばですけど……」

「それはおいおい考えるしかないさ」


 グートは肩を竦めて唇を尖らせた。

 セリの持つ紙に少しずつ道が引かれていく。そして、周囲の地図が完成するのを待って先に進む。

 しばらく歩いたところでグートが一行の動きを制した。


「……魔物がいる」


 その言葉で全員が周囲への警戒を強めた。セリも従魔から降りてシズルたちが守りやすい位置に引っ込んだ。彼女の使役している従魔は鼻をぴくぴくと動かして、周囲を警戒しているように見えた。


 通路の陰から飛び出してきたのは三体の魔物であった。

 魔物が飛び出したと同時に、シズルの陰から鎖が伸び、ノルイの振るった短剣から衝撃波が飛んだ。

 一体に鎖が巻き付き、動きを封じられる。魔物は切り刻まれ、断末魔の悲鳴を上げた。

 けれども残りの二体は、犠牲になった一体を盾にして即死を免れていた。二体はノルイの斬撃をやり過ごして距離を詰めようとした。


「させないよ」


 魔物が一歩目を踏み出した瞬間、首がことりと落ちた。いつの間にか接近していたグートが剣を振り切った体勢で残心していた。

 もう一匹は頭を砕かれていた。弥那の素手による一撃だった。


 問題なく戦闘が終わったのを確認すると、使役した魔物にしがみ付いていたセリはゆっくりと手を離した。しがみつかれた魔物は、どこか迷惑そうな顔だった。


「地下にも魔物が出るんですか……」

「出ない方がおかしいでしょう。魔物があまり入ってこなかった町の方が異常だと思いますよ。なぜ町に魔物が入って来ないのか、不思議でなりません」


 セリを守るように周囲を警戒していたシアは、増援がいない事を確認して杖を下した。

 他に敵がいない事を確認した一行は先に進む。


 そして、何度か魔物に遭遇しては倒してを繰り返しているうちに、行き止まりに辿り着いた。

 セリの地図には何処にも繋がっていない行き止まりがいくつか記されている。地図上の行き止まりがまた一つと増えていく。


「また行き止まりみたいですね。戻りましょう」

「その前に、この付近を少し調べてもらっていいかい? 流石に無意味な行き止まりが多いと思うんだ。隠し通路でもあるんだと思う」


 地図を埋める事に気を取られ気味だったセリにグートが提案した。

 一行が地下通路に下りた入り口は隠し扉であった。ならば、出口が隠されていてもおかしくはない。

 手分けをして壁に仕掛けがないか探す。その度に積もりに積もった埃が舞い上がった。


 仕掛けを探し始めてそこそこの時間が経ち、諦めて作業を切り上げようと皆が思い始めた頃、壁に触れていたシアは魔力を吸われる気配を感じ取った。驚いて壁から手を離す。


「……何かあります」


 一行はシアの元に集った。

 一行の視線を受けたシアは、仕掛けの位置を把握しようとペタペタと壁を探っていく。

 そして、ピタリと動きを止めた。仕掛けの大本らしき場所に魔力を込めると、行き止まりの壁が霞のように消えていった。

 消えた壁の先には地上へと続く階段が隠されていた。


「進みましょう」


 セリの決定に従って一行は階段を上る。

 階段の先の出口は板のようなもので閉じられていた。周囲を警戒しながら板を持ち上げると、盛大に埃が舞った。


「こほっ、こほっ……。シズくん、シズくん。気管に埃が入ってしまいました。人工呼吸を所望します。このままでは弥那は死んでしまいますっ、たぶん!」

「随分と余裕そうに見えるけどな?」


 シズルは、口元に着物の袖を当てて咳き込む弥那の背中をさすった。

 グートやノルイは周囲を警戒しながらゆっくりと外に出る。


「まだ、町の中だな……。住居の一つに出たみたいだ」


 弥那と一緒に外に出たシズルは周囲を見渡した。

 出た先は、昨晩寝泊まりした住居にそっくりな場所だった。

 格子つきの窓から外を覗いてみると、見慣れた街並みが広がっていた。


「この地下通路は町の中の建物と建物を繋いでいるようですね」


 荷物の中から取り出した町の地図と、地下通路の地図を見比べていたセリが結論を出した。

 地下通路の地図に書き込まれている行き止まりのすぐ上には、必ず住居があった。見つけられなかっただけで、上に出る隠し通路があるのだろうと一行は考える。

 ノルイは唇に指を当てて考えを纏めた。


「地下で建物と建物が繋がっているなら、密室は破れるね。ボクたちの目の届かない場所から侵入できる訳だし。アーロインを攫って殺すのは可能だよ」


 しかし、グートは首を横に振る。


「地下に溜まった埃の事を忘れていないかい? あの通路を使ったなら、足跡が残るはずだ」

「うっ、そうだった……」


 地下を調べて分かったのは、隠し通路を使ってアーロインを攫う事は可能だという事だ。しかし、可能というだけだ。隠し通路が使われた形跡は一切ない。

 髪を弄りながら考え事をしていたセリは一行を見渡した。


「……塔の攻略を進めましょう。アーロインの件は保留です。これ以上探索しても何かが出てくるとは思えません」

「その根拠は?」

「……勘です」


 目を逸らしながら言ったセリに対して、ノルイは楽しそうに笑った。


「あははっ! 勘か! いいね! すごくいいねっ! ボクはそういうの好きだよ!」

「確かに塔の広さを考えれば、しらみつぶしに調査する訳にもいかないだろうね。ある程度で切り上げる事も必要になってくるでしょう」


 お腹を押さえて地面を転がりまわっているノルイの横で、グートが真剣に考えを纏めていた。

 シズルは転がりまわるノルイを呆れた目で見ていた。すると、頬を膨らませた弥那がシズルの前に立った。

 シズルは不思議そうに首を傾げた。


「どうしたんだ?」

「シズくんが弥那以外を凝視しているのが許せません」

「……俺は女の子にしか興味は無いからな?」

「そうですけど! そうですけどもっ!」


 弥那は頭に手を当てて、あー、うー、と唸り声を上げた。何か気に入らない事があるようだ。だが、明確に言語化できなくて困っている。

 シアがクスクスと笑ってそんな弥那を微笑ましそうに眺めていた。


「異論がないなら、次の階層に向かいましょう」


 セリは声を張り上げて言った。

 話が脇道に逸れていたシズルや弥那の意識がセリに戻る。その上で、セリの意見に反対する者は誰もいなかった。


 一行は先遣隊の残した資料を頼りに、次の階層に向かって歩き始めた。


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