ぐちゃぐちゃさん
僕の学校にはぐちゃぐちゃさんというお化け?が存在します。ぐちゃぐちゃさんは神様?のようなもので実体を持たない。目には見えないし、姿を見た人は誰もいません。誰も見たことがないのに、どうしてぐちゃぐちゃさんの話を聞くんだろう?ぐちゃぐちゃさんは一体、どんな人?なんだろう。わからない・・・わかんないよ。
今日も僕の通学用の自転車がパンクさせられ、自転車のカゴがめちゃめちゃに変形してたよ。
・・・あぁ、これじゃ帰れないじゃないか。どうしよう・・・どうしよう
「自転車屋さんに持っていって、直して貰えばいいんじゃないかな?」
声をかけて来たのは担任の先生だ
「そうだよね先生。自転車屋さんに行けばいいんだよね」
「少し考えればわかることだろ?さぁ、自転車屋さんに行きなさい」
「はい」
僕はパンクして動きにくくなった自転車を一生懸命押しながら自転車屋さんに行きました。
ぐちゃぐちゃさん、あなたは一体どういう存在なんでしょうか?ぐちゃぐちゃさん、あなたは何を求めているのですか?ぐちゃぐちゃさんの夢とかありますか?
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ
「うわっ!」
それは昼休みの時間のことでした。昼食を食べようとお弁当をあけると、お弁当の中にたくさんの虫が入っていたよ。
「おい、飯の時間くらい静かに食べろよ」
声をかけて来たのは、同じクラスの同級生の男の子
「虫がたくさん・・・これじゃ食べられないよ」
「おいおい、何言ってんだ食べろよ。これは優しさじゃないか」
「優しさ?」
「ここにある虫は、全部食べられる虫だ。昆虫食って知ってるか?食糧危機が訪れたとき、昆虫食が世界を救うって言われてるんだ。ダンゴムシ、ミルワーム、コオロギ、セミ。貴重なタンパク源であり、毒性もない。これを食べられることは幸せなことなんだ。考えてみろ、世界には食べ物がなくて、今にも飢餓で倒れそうな人がたくさんいるんだ、その人達のことを考えてみろ。今、食べ物にありつけるお前がどれだけ幸せなのか、理解できるはずだ」
「そうだね、その通りだよ。僕がバカだったよ。その人達のことも考えず虫を嫌悪してしまうなんて」
世界に目を向けず、今の自分の状況を嫌悪してしまうなんて・・・
ぐちゃぐちゃさん、今日は虫をたくさん頂きました。味はあんまり美味しくはなかったけど、でもこれって幸せなことなんだよね。もぐもぐもぐもぐ。虫達は僕の血となり肉となる。
くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ
ぐちゃぐちゃさん、あなたのことについて、少しわかった気がします。お話によるとぐちゃぐちゃさんは誰かに取り憑く?らしいです。取り憑くと言っても、取り憑いた人間に悪いことをする訳ではありません。ぐちゃぐちゃさんに選ばれた人は一種のヒーローなのです・・・と誰かが言っていた。
よくあるヒーローものの漫画で
「あなたは選ばれた戦士なんだ」
っていう王道中の王道のセリフ・・・あんな感じなのかな?
何かの特殊能力が使えるようになったわけじゃない。いやすでに使えるけど、僕自身が理解していないだけ?うーん・・・
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ
「結局ぐちゃぐちゃさんって何なの?」
「・・・さぁ」
教室の中で男女二人がぐちゃぐちゃさんについて話している。ぐちゃぐちゃさんのことをこの学校で知らない人は誰もいません。だけど、ぐちゃぐちゃさんはどういう存在なのかを知る人も誰もいません。
「私が聞いた話だと、取り憑かれた人には不幸が訪れるんだって。虐められたりとか、身内が死んだりとか」
「いや違うだろ。これから不幸が訪れる人に取り憑くのがぐちゃぐちゃさんだろ?つまりは、これから不幸が訪れることを教えてくれるんだ」
「えー絶対違うって!取り憑かれたから不幸になるの」
「違うね、不幸を予言してくれる存在。それがぐちゃぐちゃさん。そして取り憑いた後は静かに見守る」
「なにそれウケル。見てるだけで助けてくれないのかよ」
「不幸がくるから心構えしとけってことかな」
・・・
「ぐちゃぐちゃさんって響きが気持ち悪いよな。なんだよぐちゃぐちゃって」
「脳みそぐちゃぐちゃ、心もぐちゃぐちゃ、大切なものもぐちゃぐちゃ」
「きっも!やめろよ」
「あっははは!わりぃわりぃ」
ここはさっきとは違う教室、ここでもぐちゃぐちゃさんは話題になっています。
「そういえばさ、誰か取り憑かれたんだって?ぐちゃぐちゃさんに?」
「ああっ、隣の教室のあの根暗野郎」
「あいつか・・・でもさ、取り憑かれたかどうかなんて、見た目でわかんの?」
「わからん」
「じゃあ、どうしてあいつに取り憑いているとわかる?」
「風のうわさ、誰が最初に言い出したのかわかんないけど」
「でも確かに言われてみればあいつ、おかしいよな。弁当に入れられた虫を嬉しそうに食ってたって聞いたぜ」
「マジかよ。そりゃ確実に憑かれてるな」
ぐちゃりぐちゃりぐちゃりぐちゃり
ぐちゃぐちゃさんについて新しい情報を手に入れました。これも風のうわさで誰かが言っていたのですが。ぐちゃぐちゃさんに取り憑かれた人は不幸が訪れる・・・しかし、それは人類を救うためだったのです。いいですかよく聞いてください。どの時代、どの人種でも差別や偏見、虐めの問題はなくなりません。だから、誰かが絶対に蔑まれる役をかってでなければならないのです。そこで登場するのがぐちゃぐちゃさんなのです。ぐちゃぐちゃさんが取り憑けば、その人は蔑まれてしまう。しかし、そこには底知れぬ愛が隠されているのです。
それは自己犠牲の精神、自分が犠牲になることによって他の人を助ける。ああっ、なんて素晴らしいのでしょうか。自分の身を犠牲にし、他人のために尽くす僕は、間違いなく死んだあとに極楽浄土に行くことができるのです。ああっ、なんて美しくて純心な・・・思し召し・・・
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ
「〇〇先生、ぐちゃぐちゃさんのうわさって今どうなっているんですか?」
「うわさに根がつき葉がつき大変なことになってるよ」
ここはこの学校の職員室。生徒だけではなく先生達の間でもぐちゃぐちゃさんは話題に上がります。
「最初ってどういう設定でしたっけ?私が聞いたのはえっと・・・誰かに取り憑いて」
「取り憑かれたら不幸になるんじゃなかったか?俺はそう記憶している」
「そうだそうだ、取り憑かれたら不幸になるのでしたね」
「今じゃなんだ?不幸を予言するやら、実はいいやつとか、いろんなバリエーションが増えて来たよな」
〇〇先生は赤みがかった空を見上げ、そっと一息つく。
「今更だけど、教師って意外と大変だよな◇◇先生。生徒同士のいざこざが起こると、いつまでも仕事が終わらねぇ。特に今年入ってきたあいつは、何かと他のやつらに目をつけられて、やられまくってよ」
「確かに、今年は特にひどかったですよね。あの子のために臨時の職員会議や家庭訪問が何回行われたことか。私事なんですけど、私には子どもが三人おりまして、家のこともしないといけないのに、多忙でとても体が持ちませんよ」
「そういう意味では、ぐちゃぐちゃさんに感謝しなきゃな。どうやら、ぐちゃぐちゃさんがあいつの救世主的な存在になったらしくて、最近めっきりと騒ぎが減り、静かになった」
「騒ぎが減ったと言いますか、彼の中だけで留めてくれているといいますか」
「いいじゃないか、虐めというのはやられた側がいじめと認識したら虐めなんだ。やつはあれを虐めだとは思っていない」
「そうですよね。あれは遊び、彼らが只じゃれあってるだけですよね」
「そうそう、子どもは元気がないとな。さぁ、今日も定時帰りだ。あの頃の忙しさが嘘のようだよ」