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ああハニー、とってもいいかんじ

作者: 瑠璃子

夢をみた。


去年、好きだった男の子の夢を。


今は遠くに行ってしまっている彼を、私は一人で訪ねていく。鬱蒼とした雑木林の中にあるその寮に彼はおらず、みたこともない彼の友達が「どうやら前のオンナとよりを戻したらしい」と気まずそうに教えてくれた。アタシは泣く気力もなく、ただそのオトモダチの顔を見つめていた。トモダチは白と黒のボーダー柄の、大きめの奇妙な帽子をかぶっていた。キャスケットのようなベレーのようなそれは、どっちつかずでひたすら大きい。下を向いているから異常に目立つ。スーツ姿にはそれはいかにも妙ちきりんな取り合わせだった。わかりました、とうなだれて帰りかける私に、なぜか、僕も行きます、と東京まで送ってくれるという。ついでに、実家へ帰るから、と。私は彼への熱情がそのまま転写されたように、彼の小作りで細い顔立ちを、初恋のひとを見るかの如く。視線が潤んでくるのがわかる。彼は照れるでも避けるでもなく、真摯に見つめ返した。駅へ続く路は人影がなく、私は彼に寄り添って歩いた。彼の暖かな体温はこの距離でも充分つたわってくる。心の底の方にじんわりとしたぬくもりが静かに広がっていく。帰りの新幹線で私たちは手をつないだ。彼をたまらなく欲しく感じながらも私はそっと手を撫でるだけだった。静かな寝顔のオトモダチを見つめながら、列車は東京へと到着し、私は泣かずに済んだのだった。


この夢の話をしたら、ある人に、未練を断ちたいのだろう、といわれた。

そうかもしれない。端緒の感情は私の中の負を吸収し尽くし、そしてとうに腐敗し果て、発酵し、元とは全く別種のイキモノになっているのだろう。ドロドロとしたコールタールのような汚泥から漂う臭気すら感じることが出来る。 それは私にまとわりつく。私の周囲に薄く漂う。

目が覚めて、涙の跡がないことを確認し、さて私に出来ることと、いえば。

家を出てジムに行った。いつも通りに身体を鍛える。ルーチンワークとしてただひたすらに。だが私は知っている。その感情のどこかに「いつか」という気がかりが深底へ澱のように沈殿していることを。いつまでも続く耳鳴りのように。消えてはくれない。

しかしやがて沈殿物が取り払われ、細胞が入れ替われば。彼を思う細胞がすべて死滅してしまえば。もうあんな夢は見ないだろう。きっと。うすぼんやりした希望にすがるように、私はジムへ通う。今日も。明日も。

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― 新着の感想 ―
[良い点] せつないですね。
2019/11/04 11:09 退会済み
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