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無限の知識〜3つの時間軸

うちら四人は恩師の後に続き、工場内の不思議なブースへと案内された。


「わぁー!!

目が、目がチカチカする〜!」


「真智ちゃん、大丈夫かな?」


「は、はい。

なんとか」


「無理は無い。

素の現実は人や動物の脳には負担が多過ぎるんじゃよ。

 現実とはある意味ヒルベルト空間におけるベクトルであると言えるのかもしれん。

 そしてそれは、単一の量子力学的な波動関数によって説明することができるんじゃ」


「なんだか抽象的ですね。

うちはそれっぽい話を昔聞いた覚えがあるんですが、忘れてしまいました。

 分かりやすく言い直すとすると、

それはどういう概念なんですか?」


「わし達にはテーブルや椅子や人や惑星が時空連続体を移動するのが見えるな。

しかし、量子力学によればテーブルや椅子などというものはそもそも"ない"。

 あるのはただ"波動関数"だけじゃ。

古典的な説明ではな、世界というのは波動関数をより高次におおまかに語ったものに過ぎないんじゃ」




「さあ、こっちじゃ」

そう言って恩師に案内されたブース。

そこは白と黒二色だけの空間だった。

そこでは、真っ暗な空間におびただしい数のニュートリノが放つ白い光の軌跡が慌ただしく駆け巡っていた。


「あたい、目が回って気分が悪くなりそうだ!」


「ほ、ほんとやな!」


「驚いたかな?

ブラソフの6次元理論ではな、時間すらも3次元と仮定しておる。

そして、その理論では粒子は6次元時空の中ではまっすぐな世界線のように見えるんじゃよ」



「あ、谷先生ちょっと見てください〜!」


「どうした、四葉?」


「光が目まぐるしく移動していますが、

その軌跡を追っていくと何かに見えませんか〜?」


「ああ、うちも思う。

おか先生?

この光景は、うちの研究室、改造したMRIの頭部用コイルの内装ですよね?」


「おや、よく気付いたな。

そうじゃ。ここは紛れもなく谷の研究室じゃ。

そして、君達は今各々が寝かされたベッドから上を向き、脳波を共振させながら目を見開いているんじゃ」


「うち、し、信じられない」



「あはは、話を続けるぞ。

谷はアテンションスキーマ(注意力模式)という仮説をご存知かな?」


「は、はい。確か……、

人間の脳に入る膨大な情報のすべてが生存に有用とは限らない。

すべての情報が意識に到達するとクラッシュし、

時間と空間の因果的な認識を壊す可能性がある。

だから、ほとんどの情報を脳が意図的にブロックしている。

 そして、視界前方を中心とした情報の中のほんの一部範囲は脳が特に生存に有用と判断した部分であり、

その範囲の情報を視界優先に簡略化したものが"意識"。つまりそういうことですよね?」


「ああ、谷も知っていたんじゃな。

因みに、現在過去未来。

わしらが日常感じる時間感覚についてもそうじゃ。

人間は脳が処理しやすいよう論理的に組み立て直した後の状態しか見えんのじゃ。

つまり、脳が本当に音を聞いたり光を見たり している訳ではない。

わしら動物が知覚するのは 世界で起きていることに関する最善の『推測』じゃ。

わしらは単に与えられた共通の世界を感じておるのではなく、潜在的に自分用にカスタマイズされた世界を五感で感じておるんじゃ。

脳の錯覚を利用した数ある実験や幻肢痛、

もしかしたら超常現象の一部までも説明がつくかもしれんな。

わしらはみんな今この瞬間もずっと

『幻覚』を見続けておる。

そして、幻覚についてみんな感想が合意している場合は『現実』と呼ぶ。

そこに何があるのか理解しようと

脳が予測する時、

わし達は物体を感覚の原因とし知覚するんじゃ。

脳が制御や調節のために 予測する時

わしらは制御が上手くいっているかどうかを経験する。

自分であるというわしらの最も基本的な経験、

つまり、肉体を持つ生命体である という経験は、

わしたちを生かし続けている生物学的機構に深く根ざしているんじゃ。

全ては生きるという 基本的な衝動から生まれてくるんじゃ。

『予測に基づく知覚』というメカニズムによって。

世界や自分の経験は生きた身体を通じて生きた身体が故に生じる。

つまりな、わしらが意識と呼んでいる過程を通して見ているものは

『何があるか』という脳の最善の『推測』が生みだしたものじゃ。

わしらが経験する世界は身体の内側からも作られる。

自分の身体に関係する事の予測は

身体内部の深いところから来る感覚信号から生まれるんじゃ。

身の周りの世界の経験や その中にいる自分自身の経験は 『制御された幻覚』のようなもの。

危険と機会に満ちた世界で生き残るために

何百万年という進化の中で形作られたもの。

自己と世界はその人特有のものじゃが

誰の場合でもその起源は生物学的メカニズムにある。

他の多くの生物でもその点は共通しているんじゃ。

ところで谷?」


「え、はい」

うちは恩師の長い説明の後、急に質問された。


「谷が臨死体験の為に刺激した松果体はな、

脳幹等の古い脳と深い関係があるんじゃ。

谷は知っておったか?」


「はい。確かに聞いたことがあります」


「松果体と古い脳との深い関わりはな、

遥か遠い昔に群をなしていた太古の人類が、

本能的な行動様式や進化の過程で様々な外圧や環境の変化に順応し生き延びてきた知恵を、

無意識の古い記憶として今のわしらに伝えている証拠なんじゃよ。

そしてな、生死に関わる危機に関してみる幻覚は、人類が共通に持っているそのような古い記憶に由来するんじゃ。

さあ、ここでもう一つ質問じゃ!」


「は、はい」


「谷よ?

お前が日常生活で普段見ている世界は、その全てが真実だと思うか?」


「え?

もちろん全て真実ですよね!?

違うんですか!?」


———————————————————————

【登場人物】

•谷先生

真智まち

•四葉

そら

•丘先生

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