第19話 世界の終わり
ひとまず前半戦終了です。
前を走るFD2に肉薄するC32ローレル。
ほとんどギャラリーがいないのも理由なのか4人は深く深く自分達だけの世界に入る。タムラとナイトウはもう後ろのライトにも気付くことができないくらい集中していた。
コーナーの立ち上がりば互角。決して長くないストレートにさしかかる。
涼音は乱暴にステアリングを切りアクセルベタ踏みでの立ち上がり。無茶苦茶すぎる走り。アクセルを踏み込む音が荒々しく車内に響きわたる。それと同時にローレルは身をよじってスピードを稼ぐようにFDに並ぼうとする。
「おいおい、この飛ばし方、、、タムラナイトウコンビのFDだ!!」
「オメエらー!!!やべぇぞー!!!バトル中だあああ!!!端によれええええええ!!!」
ギャラリーの2人がガードレールを越え、道路に出ようとする2人を制止する。
「うおお!俺、あの2人がバトルしてんの初めてだわ!!しかもヒルクライムだぜ!!」
「相手の車の車種なんだあ!?ライトの位置からしてヤケにコンパクトだな、、、?」
「きゃははははは!!ここでしょ!!!」
スパン!!!
「え、、、、?」
はるなが驚愕する。
見るものによっては只のシフトアップ。これは、、、、
「ノンクラッチシフト、、、?嘘でしょ!?こんな研ぎ澄ましたバトル中に!?」
その名の通り、涼音はクラッチを一切踏まずシフトアップする。
これがどれほどまでのテクニックであるか。クラッチを踏み込み噛み合っているギアを離し、接続しやすくしているのがクラッチだ。しかしこのクラッチを踏むという行為は車の走るリズムの中にあるテンポをを一瞬だが途絶えさせる行為でもある。
それを全くしないということは、エンジンは全く息継ぎせず加速していくということだ。
いうならばCVT車のようにギアの変化を感じさせないような物だ。
しかし、いくらなんでも人の車で、体に馴染みきった車ならまだしも、、、異常行動である。
少しでも回転数やタイミングを間違えれば、、、、ミッションは即ブロー、、、。
「くっ、、、、、!!!!」
しかしながら、はるなはそれに対し何も言う事が出来なかった。
それほどまでの相手なのだ。持てる技術全てを出し尽くしても、、、それでも足りない。
あとはどこまでの『覚悟』を決めるかだ。
ローレルの伸びは凄まじく、フロントノーズがFDの右隣に並ぶ。
「嘘でござろう!?ここにきてこの伸びは!?ローレルの実力を隠していたでござるか!?」
ナイトウが驚愕する。一方タムラは隣になど目もくれず自分が信じたラインに突き進む。
「うぉい!!!隣の車並びやがった!!」
「おいいぃぃぃ!!!妙義であのFDとここまで接戦なんてありえねえぞ!!!どこの遠征チームだ!?」
二台はギャラリーの前を幻影のように過ぎ去る。
「きゃはははは!!!並んだああああああぁぁっっっっ!!!」
二台は縺れる大蛇のように次のCライン2連の高速コーナーへ突入。
ローレルのポジショニングは完璧。しかしFDも自分のラインを譲らない。
綺麗なパラレルドリフトのようにコーナーへ侵入。
ガギギギギギッッッッ!!!!!
ローレルのフロントがガードレールをほんのわずか擦る。傷で見れば大したことはないが、車内には普通に走っていたら聞き慣れ音が充満する。
ローレルの強烈な高速コーナー。同じドリフトでも侵入時の減速、車体の姿勢、ハンドルの舵角、たった数ミリの違いで全てが変わる。
ローレルのドリフトはドリフトと明確に区分けして良いのか分からないドリフトだった。
滑り切らず、ややグリップを残しているかのようなドリフトだった。涼音の超絶なハンドリング捌きでローレルをギリギリの所で操っていた。
スピードは残酷だ。『速いか速くないか』誰が見ても明確に分かってしまうスポーツ。
ローレルが先行して2つめの高速コーナーへ侵入する。1つ目のコーナーのスピードを立ち上がりスピードに還元。FDかクリアするる時にはFDとの距離は拳1つ分程の距離。
強烈な重苦しい空気をウェイトと考えたのか、重さを吹き飛ばすかのようにタムラが口を開く。
「流石は涼音どの!!そして次のコーナーは、、、、」
「「流しっぱでしょおおおぉぉっっ!!!!」」
声は聞こえていない、しかし心は共鳴し合う。彼女達はいつも望んでいたのだ。お互いにいつも待ち望んでいたのだ。
そして互いに惹かれ合う。
どっちが速いのか?
お互いの我儘を突き通す為に。自分が信じた車と技術を全身を使って表現する。
氷上のアイススケートのように、お互いの極限まで磨いた技術をさらけ出し競い合う。
しかしアイススケートとは表現の意味が違う。
皆、認められる為に走っているのではない。ただ自身と、お互いが認め合う為
たったそれだけの為に。
ここでしか、ストリートでしか自分を表現できないのだ。そしてまた戦う為に。
お互いがこの走り屋というステージで走り合う事から降りるその時まで。
ガギギギギギ!!!!
鉄と鉄が擦れる音。
モータースポーツなら当然この程度の競り合いはある。
それでも二台共何事も無かったように。
頂上にいるはやまるは音で既にゴール地点まで近い事を確認する。
「そろそろか、、、っておいおいおいおい、、、どれだけアクセル開いてる時間長いんだよ、、、ったく。」
最終コーナーをクリアしここから少し下りになっている。
暗闇の中4つのライトが猛スピードで近づいてくる。
「「行けええええええええぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!」」
勝ったのは、、、、車体を半分ほどリードしたC32ローレルだった。
前半、FD3S VS C32ローレルの勝負C32ローレルの勝利で終わる。
月の光が二台を艶やかに照らしていた。
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