16話 くだらない理由
もやもやしてたら短くなってしまいました、、、
クリスマス?は?何それ美味しいの?
妙義山最速、、いや、榛名山最速の2人と妙義山最速の異端児達の1本目ヒルクライムバトルが唸りを上げて始まった。
車達はハイオクガソリンというエネルギー源を爆発させ、ドライバーに力を与える。常識の範囲外での暴力的な加速。登り坂だというのに常人には到底考えられないスピードで2台は加速していく。
「私ね、自分が走る中での美学なんだけど。」
高速コーナーが続くセクション。半日近くC32型ローレルを運転していたお陰で涼音はローレルの癖や動きを理解していた。
「自分の車じゃない、ホームコースじゃない。負ける為の理由なんてさ、探さなくてもいっぱいあるんだよね!」
1つ目のコーナーに差し掛かる。やや、ゆらゆらと揺れながらコーナーに侵入する。
ドリフト一切無しのグリップのみのコーナーリング。
見た目の派手さは一切無いが、コーナーに侵入するまでの車の姿勢、ブレーキングは文句無しの技術力だった。
30年以上前の化石のような車。スポーツ走行をするために生まれてきた車ではない。ホイールベースは長いからコーナーは曲がらないし、フロントヘビー。しかし、ただの古い車ではない。オーナーがかかさず手を入れ性能を向上させ、新車並の、、、いや今は新車以上の動きで峠を攻める。メーカーが当時出来なかった事、当時の、メーカーですら思いつかなかった事。
オーナーの全てと、はやまるの技術が注ぎ込まれている。
涼音は暗闇を照らす2つの光の中に見えるコースに全神経を集中させるが、話は止まらない。
「それを言うってことはさ、諦めるって事だと思うんだ。自分の成長を。自分を信じるって事は今やってる行為、、全てを受け入れる覚悟。膨大な時間とお金を、そこに注ぎ込んで走り続ける覚悟、、だから私は自分を否定したくない!!車が違っても、培ってきた今までの自分を、技術を、全て!!出し惜しまない!!」
タコメーターはレッドゾーンギリギリに差し掛かる。その瞬間、一気に素速く、しなやかなシフトアップ。
車はハイパワーの馬力をタイヤに伝え地面を蹴る。ローレルは身をよがらせるかのように暴力的に加速し、スピードという悪魔に身を焦がす。
FDを運転しているのはタムラ。
「ふふふ、バトル序盤から見せつけてくれるでござる、、流石はサンライズ榛名の隠れたナンバーワン。例え車が違おうとも全力で勝負を受け、全力で戦う。なかなか出来る事ではないでござるよ。拙者も、、本気を出すでござるよ。」
タムラはそう言いながらメガネを外す。
「早いでござるな、もうメガネを?」
「ナイトウ氏、見ていてくだされ。」
タムラは集中力を研ぎ澄ます。2本目までもつれることはないだろう。あった場合、100%タムラが負ける。タムラのドライビング人生全てを今ここに注ぐ。今この瞬間だけに、、、、今この瞬間だけでいい。
たった1回、たったの一度で良い、、、、、勝てれば良い。
「持つ者を持たざる者が凌駕する瞬間を、、、。」
タムラが伊達メガネを外す時、それは本当にヤバい所まで攻める合図。
タムラの気持ちに応えるかのようにFDのロータリーが唸りを上げる。妙義の登りの勾配を感じさせないスピードで登り詰める。
ローレルとの差を一気に詰める。ローレルとFDの車間距離は10cm程度。お互いに事前に打ち合わせしていれば良いが、ローレルの挙動を一瞬でも読み間違えれば一気にクラッシュする距離。
そんな異常な状態で、妙義でもかなりトリッキーな第2区間へ2台は縺れ込む、、、
読んで頂きありがとうございます。