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リベンジマッチ

 公開剣舞祭の予選トーナメントが公表されると、ロゼは自分の目を疑った。

 というのも、予選はランダムで3人の選手に当たることになっているのだが、ロゼの相手はいきなりランク10位のラムダだった。

 最下位のロゼがいきなりシード選手と当たるというあり得ない組み合わせだ。


 その裏には、ロゼの実家であるウィンダール家から圧力があった。

 ロゼを本選に出してはならないという短い指示があったのだ。

 そこで学院としては不自然にならないよう一度ロゼに負けたラムダにリベンジする機会を与えたという名目で、この組み合わせを発表した。

 その組み合わせ表を見たライラは、あきれたようにため息をついた。


「この学院の人達も間抜けね。ため息が出るわ」

「あはは……。10番台ばっかりだ。これって明らかに僕を狙ってるよね」


 ラムダを筆頭に、11位、12位が名を連ねている。


「10番台がロゼに勝てる訳ないのにね」

「そうそう。僕はそんなに強く――って、ライラ、それは買いかぶりすぎだよ。戦ってみないと分からないし」

「もう、ロゼは強いんだからもっと自信持てば良いのに」


 ライラが肩をすくめて呆れている。

 ロゼはもちろん自分に自信を持てたらと考えているのだが、どれだけ強くなったと思っても、師匠たちには全く歯が立たない。

 おかげで自分が強くなっているのかよく分からなくなり、全く自信が持てなかった。

 それに、もし強くなっているとしてもそれは自分の力というより、師匠たちのおかげだという気持ちもあるせいかもしれない。

 何より、魔法使いの階級はFランクのままなのだ。

 そう思ったロゼはライラの言葉を苦笑いで誤魔化した。

 そんなロゼにライラはため息をつくとロゼの肩をトンと押した。


「ま、私だけが強くて格好良いロゼを知っているっていうのも悪くないけどね」

「そ、その、あの、ありがとう……」


 ライラだけがロゼの強さを認めてくれている。

 明るく笑う彼女の顔をロゼは真っ直ぐ見ることが出来ず、真っ赤な顔をそらした。


「だから、負けないでよ? 私だってちゃんとあなたともう一度戦いたいんだから。負け放しは嫌いだからね」

「うん、約束する。頑張って勝ち残るよ。ライラもがんばって」

「あ、今、とても良い顔になったわ。ねえ、もし約束が守れたら、また賭けをしましょうよ」

「賭け?」

「ええ、また勝った方の言うことを一つだけ何でも聞くなんてどう?」

「うん、分かった」


 ロゼの快諾にライラは小指を立てると、ロゼもそれに応えて小指を絡ませた。

 そして、その約束から数日後、公開剣舞祭の予選が始まる。



 校庭の中央でロゼはラムダと向かい合うようにして立った。

 ルール無用の勝負に審判はいない。

 ありとあらゆる手を使って、相手を戦闘不能にすることでどちらが強いかを示す。

 ルールはそれだけのシンプルな競技。


「ロゼ。前回は油断したが、今回は最初から本気で行く。お前を必ず殺す」


 復讐に燃えるラムダの大剣から吹き荒れる炎で、校庭が火の海と化している。

 そして、ラムダの大きな体躯で大剣を担ぐ姿は炎の魔神のようにも見えた。


「……あの時とは本当に違う。魔力量が桁違いだ」


 初めて戦って圧倒出来た時は本当に油断して手を抜いていたのだろう。

 けれど、今回のラムダは最下位であるロゼに本気の牙を剥いてきた。ただの脅しではなく本気で殺しにくるつもりで剣を振るうだろう。

 それほどの殺気を感じることが出来た。


「あはは、うん、よろしくラムダ先輩」

「何がおかしい? どうしてへらへらしてやがる?」

「だって、僕みたいな最下位にも全力を出してくれるんですよね? 何かこう強くなったって思えて嬉しくて」

「殺す!」


 ラムダの剣が炎を爆発させ、ラムダの巨体が宙を飛んだ勢いで剣を振り下ろす。

 ロゼがその剣を避けると、校庭に亀裂が入り火山の噴火のように炎が地面から噴き出した。

 相手の身体に炎を叩き込んで内側から焼き尽くすという一撃必殺の魔法剣。

 だが、当たらなければどうということはない。


「そんな大振りなら避けられる」

「あぁ、だろうな! でも、これならどうよ!」

「えっ!?」


 何と、ラムダはロゼの服の裾を掴んでいた。

 派手な炎の爆発はただの囮だったのだ。本命は――魔法による攻撃ではなく、ただ服を掴むだけ。


「捕まってたら、ちょこまか動けないだろうが!」


 虚を突かれたロゼは服を完全に掴まれ逃げることが出来なかった。

 というのも、ラムダの力はとても強く、単純な力の差で振りほどくことが出来ないほどだったからだ。

 おかげでロゼは、そのまま振り下ろされるラムダの剣を避ける術もなく叩き潰され、続けて横なぎの剣撃でロゼは激しく吹き飛び、その身体が炎に包まれた。

 一撃一撃が致命傷の連続攻撃が全て命中したら、誰もがロゼの敗北だと思うだろう。


「ハッハー! ぶっ殺した! 俺がてめえみたいなF級に負ける訳がねえんだよおお!」


 勝利を確信したラムダが高笑いしながら剣を掲げる。

 だが、試合終了の宣言はなされなかった。

 何故なら、そこには無傷のロゼが平然とした様子で立っていたのだから。


「ふぅ、危ない危ない。ウルス師匠の虚とセルジュ師匠の流を教わってなかったら負けていたかも。やっぱり10位相手だし簡単にはいかないよね」

「なっ!? バカな!? 何で生きてやがる! 直撃させたはずだ!」

「さっきの攻撃なら全部受け流したんですよ。ラムダ先輩の炎が防御術式を突き破って入って来ないように」

「なん……だと……? 受け流した?」

「でも、結構痛かったのでもう同じ手は食いません。触れられる前に決めます」


 ロゼは透明な剣を構えると、僅かに光る切っ先をラムダの方へと向けた。

 腰を落とし、今にも飛び出すかのような姿勢を取る。


「その首、る」

「っ!?」


 ロゼが低い声で呟き、鋭い目付きでラムダの首を睨み付けながら飛び出す。

 その瞬間、ラムダは反射的に首をガードするために大剣を持ち上げた。


 殺気による虚、背筋を凍らせるだけでなく、睨まれた所に鋭い痛みと血の熱さを感じさせるような幻覚がラムダを襲ったのだ。

 しかし、それはあくまで幻覚でありフェイント。そのままガードされた首は狙わない。


 ロゼの狙いはガードが上がったことで生じたラムダの腹の隙。


った!」


 透明な刃の描く三日月の一閃が、ラムダの腹を通り抜ける。

 その瞬間、青い光がラムダの腹から飛び散り、ラムダは白目を剥いてその場に倒れた。


「ロゼ選手がラムダ選手を瞬殺! たったの一刀で斬って捨てました!」


 二人の試合を観戦していた校舎から校庭に聞こえるくらい大きなどよめきが広がる。

 ロゼによる虚と実の連撃は、傍から見ればラムダの自滅にしか見えなかったのだ。

ただ一人を除いて。


「ロゼ、やっぱり私の眼に狂いは無かったわね。絶対にもう一度あなたと戦って見せるんだから」


 ライラはそう小さく呟くと、自分の試合の敵を瞬殺した。

 こうして、残りの試合もロゼとライラは順調に勝利して、二人とも決勝戦への出場資格を手に入れた。



 ロゼの快進撃は大いに学院を沸かせた。

 無才でも教育と訓練次第で強くなれる。

 そう言い切り、自分で証明しようとするロゼを元から才能があったと妬む者、うらやむ者がいれば、純粋にロゼに憧れを抱く者もいた。

 他にも師匠が三英雄だから、ロゼ自体は強くないと言う者もいる。

 だが、誰もが暗に認めていたのだ。

 今のロゼは無才ではなく、異質イレギュラーだと。

 その波は確実に学院上層分にまで流れていた。


「無才と言われたロゼが勝ち進んだようだな。ラムダを当てて勝つとは思わなかったのだが……やはりあいつは異質なのか?」

「ありえぬ。きっとウルス卿たちが何か仕込んでいるに違いない」

「ドーピング検査では何も検出されていませんよ?」

「百歩譲って努力で強くなったとしよう。だが、Fランク魔法使いが勝ち進んでしまったら学院の面子に関わる」


 職員の会議は紛糾していた。

 ロゼの勝利はあってはならないものなのだ。

 何故なら――。


「諸君、そんなことは問題では無い。大事なのは確実にロゼを敗退させることだ。それがウィンダール家の依頼だ」


 ロゼの父親、グラーフ=ウィンダールが圧力をかけてきている。

 その要求に応えなければ、この会議に参加している者達の地位が失われかねないのだ。


「学年一位をぶつけましょう。幸い組み合わせはこちらで決められます。そして、もう一つ、組み合わせは直前で発表しましょう」

「ふむ、今までやったことのないことだな。理由を聞かせて貰おう」

「三英雄による介入を防ぐためです。戦う相手が分からなければ、対策は立てられない。今までの奇跡を起こす仕掛けは仕込めないはずです」

「なるほど。よし、それでいこう」


 密室で取り決められた試合組み合わせはこうして前例のない発表方法になってしまった。

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