剣舞祭に向けて
公開剣舞祭、それは学院の魔法使いたちが己の力量を測り、対外関係者にアピールする場である。
その中身は誰が一番学院で強いかを決定するトーナメント戦。
年齢も魔力ランクも関係無い。勝った者が強い。
それを示すための大会だ。
その大会で優勝を目指すロゼは、ウルスと剣を抜いて対峙していた。
「ウルス師匠、今の僕なら……父上たちを見返せるでしょうか?」
「無理じゃな」
「そんなあっさり!? 僕これでも強くなったと思うんですけど!? 最近、ヒールをかけてもらうこともかなり減ったんですよ!?」
「うむ、確かにお主は強くなった。じゃが、足りぬのだ。お主が習得した四つの技術。アル一定の領域まで辿り着いた者からすると、持ってて当然のものじゃ。いわば、入場許可証じゃな」
「何の許可証なんですか?」
「魔法使いを殺せる魔法使いだと名乗るためのな」
ウルスはこの時、いつもの温和な様子からは考えられないほど、冷たく低い声を出した。
「ワシらもお主の父親もそういう所で生きてきた。その技術のほんの一端を手に入れたのだ。学院で強くはなれよう。じゃが、そこから先に進めば、今のままなら力無き魔法使いでしかない」
「……僕には何が足りないんですか?」
「色々あるが、今日からは虚を学んで貰おう」
「それは一体どういう? っ!?」
ロゼが何なのかと尋ねた瞬間、ロゼは自分の首を手で押さえた。
息が止まり、手が震える。
その震えた手で首をなでると――。
「それが虚じゃ」
「ぶはっ!? ……首が切られたと思いました」
ウルスがロゼの首に刃を振るった幻影を、ロゼは見た。
本当に切られたと錯覚するほどの鮮烈な殺気。
自分が生きているのか、死んでいるのか不明瞭になる幻だった。
「殺気で敵の心を斬るのじゃ」
「で、でも、これほどの殺気をぶつけると、防御したり避けようとしたりされませんか?」
事実、ロゼはその殺気を逆手にとって他の生徒からの攻撃を避け、ライラの凍結魔法から逃れた。
明確な殺気は動きを読まれるため、出来る限り出さない方が良いのが基本、ロゼはそう考えていた。
「よきかなよきかな。しっかり身についておるようじゃ。そう、ただの殺気では手の内を明かすだけ。じゃが、虚には常に実がついてまわる」
「実?」
「虚に真実を隠し、真実で虚を覆う。身を以て味わえ」
「っ!?」
ウルスの殺気に反応したロゼが顔を守ろうと腕をクロスさせる。
だが、次の瞬間、ウルスの手はロゼの腹に触れていた。
「殺気という虚を以て、胴打ちを実にした」
「そうか……これは予備動作のないフェイント」
「その通り。虚と実、これを使い分ければ、あらゆる敵を翻弄し、己のペースで戦うことが出来る。さぁ、構えよロゼ。お主の殺気、存分に高めよ!」
こうしてロゼは虚を学ぶために幾千、幾万の虚と実を織り交ぜた剣をウルスに向けて放つのであった。