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注目のロゼ

 ロゼは師匠たちとの特訓と学業の疲れからか、登校中は半分眠りながら歩いていた。

 油断しきった無防備な姿を晒していると、無才と言われていたロゼに破れた生徒たちが奇襲をかけてくるようになった。

 しかし、それをロゼは半分眠りながら回避して、無傷で登校してしまうようになっていた。

 魔法は相変わらず使えないが、戦闘技術は間違い無く群を抜いている。

 いまやロゼの評価は無才から異才に変わろうとしていた。


「ロゼ、おはよう」

「あ、ライラさんおはよう。今日も綺麗な髪の色だね」

「あ、ありがとう……」

「ぐぅ……」

「寝言!?」

「あ、ごめん。今朝の特訓のせいで、うとうとしていて……」


 ロゼの釈明に、ライラは顔を真っ赤に染めて恨めしそうにロゼを睨んだ。


「さっきから色々な魔法が飛んできても避けてたけど……、まさか寝たまま避けてた?」

「あぁ、うん、何となく分かるようになったから」

「何したらそうなるのよ?」

「……いつ何が飛んでくるか分からない生活してるからね。あの人たちに比べれば待ち伏せしている人の気配は探れるようになったよ。実は今も一人ずーっと後ろをつけてきている人がいるけど、無害っぽいから放っておいているし」

「え?」

「あそこの路地の影にいる」


 ロゼが振り向きながら路地を指さすが、そこには人の影は映っていない。

 ライラは騙されたと思って首を捻るが、ロゼは次の曲がり角を曲がって追っ手を待ち伏せようと言うと、興味深そうに頷いた。

 そして、ロゼの言う通り曲がり角で待っていると。


「あれ? 見失った!?」

「君、何やってるの?」


 こぢんまりした女の子が慌てて走ってきた。

 明るい茶色の髪のお下げが良く似合う子だ。


「うひゃぁっ!? ロゼさん!? 何でそこに!?」

「君を待ち伏せしたんだよ。何で朝から僕を追いかけてるの?」

「い、いつからばれてました?」

「最初から。誰かがファイアーボールを撃ってきた時くらいから」

「ごめんなさい!」

「あぁ、別に怒ってないよ。ただ、僕に闇討ちをしかけたいなら、何度かチャンスはあったと思うのに、手を出さないから不思議だと思って」

「闇討ちなんてしません! 私はただロゼさんのことが知りたいだけなんです! 私、新聞部のレポアって言います!」

「僕のことを知りたい? なんでそんなことを?」

「この前ロゼさんとライラ様の戦いを見て、ロゼさんが無才のロゼと呼ばれていたはずなのに、A級魔法使いを倒した理由を知ろうと思って……。あの、私新聞部なので……」


 レポアはそう言うと手をもじもじさせて、照れくさそうに目を背けた。

 その姿にロゼは少し悩むと、隣にいるライラに顔を向け――。


「ライラさんは……負けたことを広められると嫌だよね?」

「構わないわよ?」

「そうだよね……え? 構わないの!?」

「だって、もうみんな知ってるんだもの。今更よ。それに私もあなたの強さの秘訣は知りたいわ」


 ライラが悪戯でも思いついたかのように笑う。

 その様子からは全く嫌がっているようには感じられなかった。

「でもなぁ、師匠たちが何て言うか」

 伝説の英雄たちの名前を勝手に出してもよいものかと、ロゼが悩むと――。


「俺は構わんぞ」

「私も構わないよー」

「うむ、記事にしてもらうとよい」


 建物の屋上から三人が飛び降りてきた。


「「きゃあっ!?」」


 女性二人が声をあげて驚くが、ロゼはぐったりと疲れたようにため息をつく。


「師匠……もうちょっと普通に出てきて下さいよ」

「ちょ、ちょっと待って下さいロゼさん。この人たちって!? 最強の魔法使いじゃ!?」


 レポアがガクガクと震える手でライラにしがみついている。

 ウルスたちの登場に腰も抜かしているらしい。


「うむ、三英雄とは我らのことじゃ」

「やっぱり剣聖ウルス様に大賢者セルジュ様に聖女ミーナ様!? な、なんでこんなところにいるんですか!?」

「そこのロゼの師匠だからじゃな」

「……え?」

「ロゼの師匠じゃ」

「えええええ!? ロゼさんって三英雄の弟子なんですか!?」


 ウルスが二度同じことを言って、レポアはようやく言葉の意味を理解したらしい。

 今度はロゼにしがみついて、ロゼを前後に揺らし始めた。


「ライラ様に勝ったのも、三英雄に鍛えて貰ったおかげですか!?」

「う、うん、師匠たちに修行をつけてもらえたから勝てたんだよ。って、お願いだから揺らすのを止めてくれないかな!?」

「あ、ご、ごめんなさい。でも、そっか。あれは奇跡でもイカサマでもなかったんだ……みんなチートだって言ってたけど、やっぱり違うんだ」


 ロゼの頼みでレポアの腕が止まる。

 だが、その代わりにレポアは真っ直ぐな瞳でロゼを見つめた。


「ロゼさん、あなたは私たち弱い魔法使いの希望なんです」

「へ? 僕が希望?」

「魔法使いは魔力の強さで選別されます。D級以下の弱い魔法使いには価値が無い。いればマシ程度。それが評価です。でも、ロゼさんは魔力なんてほとんどなく、無才とまで言われていたのに、A級のライラさんに勝ったんです。ロゼさんは格上にも勝てるって証明してくれたから、私も強くなれるんじゃないかなって思えました!」

「えっと、でも、僕は本当に大したことなんてしてなくて――」

「いいえ! やっぱり私決めました! 今日からロゼさんのことを連載記事にします! 最強の師匠とチート弟子っていうタイトルです! こうしちゃいられません! ではまた!」

「え!? ちょっ!? 待って!?」


 目に炎を灯したレポアが猛スピードで走って去って行った。

 完全に置いてけぼりをくらったロゼは記事を差し止めることも出来ず、ただ呆けている。


「ふむ、最強の師匠とチート弟子か。良きハッタリじゃな。ロゼに戦いを挑む猛者がたくさん現れよう。楽しみじゃな! どうれ、今からワシらもあの娘にロゼへの決闘の受付と時刻の調整もお願いしにいくかのお! 行くぞ、セルジュ、ミーナ」

「待って!? 僕の生活をどうするつもりですかウルス師匠!?」

「肩慣らしじゃ! 来月には公開剣舞祭もあることじゃしな! 優勝せねば師弟関係を終わらせるぞ!」

「ちょっ!? 待って!? 師匠待って!? 今とんでもないこと言わなかった!?」


 ロゼの叫びも虚しく、ウルスたちはレポアを追って駆けだした。

 その速度はレポアよりさらに速く、突風が辺り一面に吹き荒れるほどの速度だった。


「ロゼ、あなたの師匠って、その……とても個性的ね?」

「無理にフォローしなくて大丈夫です……」

「ごめん……」


 ライラの優しさが痛い。この時ロゼはそう感じた。


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