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見えない進歩

 ロゼは両手両足を縛られた状態で、目隠しをされていた。


「……セルジュ師匠。元々Sっ気があるとは思っていましたが、そういう趣味なのでしょうか? S成分はミーナ師匠で十分なんですが」

「何を言っているんだ? むしろ、ロゼが泣いて喜んでも良い状況だと思うのだが」

「僕を何だと思っているんですか!?」


 ロゼとライラの激闘が終わると、セルジュがロゼを迎えに来たのが、屋敷についた途端に、両手両足縛り、目隠しをした上で床に投げ出したのだ。

 とても弟子にすることではないと、ロゼは抗議するも――。


「そんなもん決まっているだろう? 実験台――失敬、俺の一番弟子だな」

「今実験台って言ったでしょう!?」

「知らんな。さて、そろそろ集中せんと死ぬぞ? これは新しい修行なのだから」

「修行もなにもこんなんじゃ動けないじゃないですか!? 何も見えないですし!」


 ロゼが必死に抗議するもセルジュは首を捻って不思議なことを聞いたような表情を浮かべた。


「手足が自由に動いたら修行にならんだろう? 今からお前の防御能力を鍛えるために、魔法を撃ち込むのだから」

「だったらこの状況はダメでしょう!? 何も見えないし、手足も動かせないんですよ!? どうやって防御術式で弾けば良いんですか!?」

「見るんじゃ無い。感じるんだ。そうなると目から入る資格情報は邪魔だし、避けられたら修行にならないだろ」

「んな無茶な!?」

「問答無用」


 セルジュが動けないロゼに向かって炎を放つ。

 その炎は簡単にロゼの防御術式を突き破り、ロゼの腕を焼く。


「ふむ、やはり感は習得しているな。あれはまぐれではなかったようだ」

「あっつ!? 一点に集中させた防御術式ではじき返したはずなのに!?」

「そりゃ、俺の徹甲魔法を撃ち込んだからな。そう易々と防がれたら大賢者の名前が泣くだろう? A級魔法使いの防御魔法だろうと撃ち貫く魔法なのだからな。勝利に浮かれているバカ弟子の頭を冷やすにはちょうどいいだろ?」

「大人げねぇ……」


 ロゼの腕から炎の熱さが消え、うんざりしたように吐き捨てた。


「ふむ」


 そうやって苦しむロゼの姿を見て、セルジュは少し悩む素振りを見せる。

 それがロゼにとっては少し不思議だった。


「あれ? てっきり僕をボロボロに出来たから、笑い出すのかと思ったんですが……」

「お前こそ俺の方を何だと思っているんだ?」

「魔王か地獄の使者か死神みたいなもんだと思ってます」

「ほぉ? なら、次は徹甲魔法を手加減無しで打ち込むか」

「わーわー!? ごめんなさい! つい本音が――、じゃなくて! セルジュ師匠の魔法がそれだけすごいって意味です!」

「そういうことにしておこう。それで、本題だが、今から教えるのはある意味俺の弱点を晒すようなものだからな。どうしたもんかと思ったが、まぁ、弟子だし教えないといけないな」

「セルジュ師匠の弱点?」


 この血も涙も無いセルジュ師匠にも弱点がある。

 それがロゼにはとても信じられなかった。


「俺は大賢者なんて呼ばれているが、実は杖剣の扱いがとても苦手でな。魔法で戦うしかなかった。だからこそ、どんな防御術式だろうと撃ち抜く徹甲魔法なんてものを編み出さないといけなかった訳だ」

「そういえば、セルジュ師匠が抜剣しているところは見たことないですね」

「そんな俺を攻略しようと思えば、接近戦に持ち込むのが一番だからな。逆に言えば俺は接近戦に持ち込まれても、魔法を撃てれば良い。さて、どうすれば良いと思う?」

「えっと……避けたり、防御術式で防いだり?」

「それは格下相手にしか通じない。敵が格上だと敵の攻撃は避けきれないし、防げないことが必ず生じる。しかも、当たれば敵の攻撃は一撃必殺だ」

「……分かりません」

「答えは簡単だ。当たっても致命傷を負わなければ良い。ミーナのゴッドブローを喰らってもピンピンしていたことを覚えているか?」


 セルジュの言葉でロゼは初めて出会った時のことを思い出した。

 確かにセルジュはとんでもない勢いで吹っ飛んだのに、まるでダメージが無かったかのようにケロッとしていたのだ。


「あっ!? あれも技術って言ってましたね?」

「そうだ。魔力を集める集、力を一瞬に込める瞬、殺気を感知する感の次の段階、流と呼ぶ」

「流……それは一体どういう技術なんですか?」

「敵の攻撃を受け止めるのでもなく、弾くのでもなく、受け流す技術だ」

「受け流す?」

「実際に体験してみる方が早いな」


 セルジュはそう言うとロゼの目隠しと縄を解いた。

 そして、おもむろにロゼに杖を投げると――。


「抜剣して俺に斬りかかれ」

「……そう言って俺の剣を叩き落とすパターンですか?」

「安心しろ。俺は抜剣しない」

「抜剣せずに俺に徹甲魔法を打ち込むとか……」

「お前はなんでそんなに人間不信になってるんだ?」

「どう考えても師匠たちのせいですよ!?」

「ふむ、なら杖を地面に置いておこう。これならお前に反撃できないだろう?」


 セルジュの言葉に半信半疑になりながらも、ロゼは杖剣を顕現させる。

 半透明だった刀はさらに色を失い、刃の縁がわずかに光に照らされて光るだけでしか認識出来なくなっている。

 その光は極薄の刃に圧縮された高密度の魔力だ。


「へぇ、あの戦いを通じて、さらに良い剣になったな。その切れ味なら俺の防御術式を切り裂ける」


 初めてセルジュに褒められ、ロゼは目を白黒させた。

 斬りかかれと指示されたことを忘れるぐらいに、嬉しかったのだ。

 伝説の一人に認められた気がして、全てを忘れて叫びそうになるほど嬉しかった。


「ま、寝ていて防御術式を張ってない時くらいだがな」

「僕の感動を返して下さい」

「十分な進歩さ。天地がひっくり返ったって俺を殺せなかった男が、俺の寝首はかけるようになったのだからな。ま、今回はそれぐらいに防御術式を薄めてやるよ」


 そう言ってセルジュは手を横にあげた。

 まるでここを切れと言うかのように。

 その動きに応じてロゼが剣を振るうと――。

 キィンという音とともにセルジュが腕ごと大きく吹き飛んだ。


「え?」


 呆けた声をロゼが発する。

 セルジュが吹き飛んだことがあまりにも意外過ぎたのだ。

 防御術式を破った感覚はあった。けれど、吹き飛ばすような力のかけかたはしていない。

 むしろ、吹き飛ばしたにしては手応えが弱すぎる。


「僕の力が流された?」

「今のは分かりやすく派手にやったが、これが流だ。攻撃を受けた瞬間、力にそって身体を動かし、敵の力を流す。敵の攻撃を感知し、攻撃を受けた部分に力を集め、集めた力を元に素早く身体を敵の力から逃す瞬発力、お前が身につけた感、集、瞬の三つを組み合わせた特殊防御、流だ。これを身につければ、どれだけの強打を受けようがダメージはほとんど無くなってしまう。俺が大賢者と呼ばれるのはこの流で、敵の攻撃に耐え、どんな状況でも徹甲魔法を撃ち込めるようになったからだ。俺の本質は防御力の高さ。決して攻撃力だけで名声を得た訳では無いのさ」

「セルジュ師匠が初めて師匠っぽく見えました……」


 ただ単にロゼを虐めるのが好きな人だと思っていたせいで、ちゃんと指導するセルジュが眩しく見えた。

 その感想にセルジュはニッコリと微笑むと――。


「そうだろう? それじゃあ、また目隠しして、手足を縛って、俺の新作徹甲魔法を受けて貰おうか! なぁに安心しろ! 死にかけてもミーナがいる!」

「やっぱ魔王だああああ!?」


 こうしてロゼは様々な魔法をぶつけられ、何度も死にかけた。

 しかし、訓練も終わりの時間になると――。


「フリーズランサー!」

「冷たっ!?」


 手足を縛られたまま、元気に跳ね回るロゼがいた。

 その様子は丘に打ち上げられた魚が跳ね回るような不格好な動きで、とても滑稽に見えたのだが――。


「良いよロゼ君その調子ー! 次はもうちょっと吹き飛ばずに流を使うんだよー。大丈夫死んでも治してあげるから、ボロボロになってもいいよー」

「うむ、良いぞロゼ! 流を取得出来れば、これからもっと厳しい修行にも耐えられる!」

「やっぱりこんな修行はいやあああああ!」


 他の師匠はロゼの姿に手を叩いて喜んでいる。

 こうして、流を掴んでしまったロゼは、感覚を忘れないようにとその日は何百発もの魔法を撃ち込まれ続けたのであった。

 結果、回復が必要になったのは最初の数回と、修行が終わってからのみで済んだ。


「……僕はやっぱりここにいると死ぬかも知れない……」


 そう言ってベッドに倒れ込むが、この時ロゼは気付いていなかった。

 何万もの敵を退けた相手に、一日生き延びるだけの防御技術を手に入れてしまったことを。



「ロゼのやつ、強くなってますよ。まさか一日で流を覚えるとは思いませんでした」

「うむ、よきかなよきかな。ワシの目に狂いはなかったのお」

「白の才能、半信半疑でしたが、面白い才能です」

「そうじゃろ。あの才能は開花させるのにちょっと刺激が必要なんじゃよ。死に瀕するほどのな」


 そんな師匠たちの言葉をロゼは知らなかった。

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