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EX級魔法使い誕生

 ロゼが屋敷のベッドで目を覚ますと、いきなり杖が突きつけられていた。

 咄嗟に身体をくねらせ、杖の先から逃げて飛び上がる。


「回復しきったみたいだな」

「セルジュ師匠でしたか。脅かさないでくださいよ……」


 杖を構えていた相手の正体がセルジュだったことに気がつき、ロゼはホッと胸をなでおろした。

 ただ、相手は魔王ともいえる男セルジュだ。

 杖を突きつけられた瞬間に目を覚まして、反撃するくらいの気概を見せねばバカにされる。

 そう思ってロゼがビクビクしていると――。


「良く勝ったな。お前にしては頑張った」

「え、あ、ありがとうございます」


 何と普通に褒められた。

 おかげでロゼはきょとんとした顔でセルジュを見た。

 もしかしたら初めて褒められたのかも知れない。

 その驚きに今までの記憶を全てひっくり返して、セルジュの言葉を思い出してみる。


「ミーナ師匠は変装の魔法も使えるんですか?」

「そうか。俺の徹甲魔法をそんなに食らいたいか?」

「本物のセルジュ師匠だ!?」

「ったく、こんなんだったら褒めるんじゃなかった」


 深いため息をつくセルジュにロゼは目を白黒させた。

 何か悪いものでも食べたのか、はたまた本気なのか、どうにも判断がつかない。

 というか、この人は日頃の行いをもう少し考えるべきだと思ってしまうくらいだ。


「まぁ、重を覚えて自分の必殺技を編み出したんだ。ようやく芽が出たな」

「あ、ありがとうございます!」


 信じられないことにどうやら本気で褒めてくれているらしい。

 初めてセルジュに褒められてロゼは両手でガッツポーズを取るくらい喜んだ。


「おかげでお前の評価はF級からEX級に変わったようだぜ?」

「EX級? どういうことですか?」

「あまりにも特殊ってことさ。学院一位を倒したのがF級だと面目丸つぶれになるからな。魔力量が低くとも魔力の質が異質ゆえに強い特殊な魔法使い。強さを測る物差しの範囲外、つまりEXエキストラという訳だ」

「全く実感なかったんですけど、僕ってそんなに強くなれていたんですね! EX級かぁ。これで僕も弱いからっていじめられることはなくなりますよね!」

「おいおい、調子に乗るなよ? 芽が出たとは言ったが、一瞬で摘み取れるし、踏みつぶされたらお終いだ」

「うぐ……。でも、僕学院1位にも勝ちましたよ? ちょっとは強くなったはずですよね!?」

「殺し合いを知らない魔法使いならA級が相手でも勝てるだろうな」

「そんなに強くなったんですか!? 確かにナルカ先輩に勝てましたけど」

「当たり前だろう? そもそも学院の生徒は人間や魔物を倒すための力を教わっている中、お前だけは魔法使いを殺す方法を教わっているんだからな。勝てなくてどうする?」


 本来、魔力を持たない人間相手や魔物相手ならロゼの学んだ技術は必要無い。

 そして、一度も殺し合いをしたことのない学院の生徒や教師は、どうやって自分より強い魔法使いを殺すかを真剣に考えたことも無い。

 ただ魔力量を言い訳にして、自分より格下の相手に確実に勝つ方法のみを覚えるのだ。


「逆に言えば、魔法使いを殺す技術を持った相手と、お前はまだ立ち会ったことが無い。さっきの雷使いの嬢ちゃんは、良い線までいっていたがあくまで学園の優等生らしい戦いでしかなかった」

「うぐ、確かに僕が倒した人たちは僕の教わった技術を一つも持っていませんでした」


 となれば、今までは素手の敵相手に自分は剣と盾と鎧を装備して挑んだようなもの。

 同じように敵も剣と盾と鎧を装備していたら、どうなっていただろうか?


「まぁ、俺やミーナ、ウルスさんみたいなのを相手にしなきゃ、瞬殺されることは無いだろうさ」

「あはは……。でも、そんな達人は滅多にいないですよね?」

「いただろう? お前が追い出された家の中に」


 幾多の戦場を駆け、魔法使いを殺してきた男をロゼは確かに知っていた。

 一騎当千であれという家訓を体現するかのような圧倒的な強さを誇る人物――その相手は。


「グラーフ=ウィンダール。僕の父上ですね」

「ウルスさんが剣聖なら、お前の親父さんは剣鬼と恐れられた人物だ。あいつの言う一騎当千は雑兵に対して一騎当千じゃない。お前みたいに魔法使いを殺す技術を持った連中が千人束になっても勝てないって意味だ」

「そんなに強かったんだ……」

「そんな剣鬼に鍛えられた奴らが、殺すための技術を学ばされていないと思うか?」


 ロゼは首を横に振った。

 思い出して理解してしまったのだ。

 父が兄たちにしていた訓練の内容を。


「ずっと不思議だったんです。どうして兄上たち門下生は父上の攻撃に耐えられるのかって。単純に魔力が強いからだと思っていたんですが、今なら分かります。兄上たちは僕の学んだ技術を全て修めています」

「そういうことだ。そこまで分かってるならどうすれば良いか分かるだろう?」

「え?」


 セルジュがニヤリと笑ったのを見て、ロゼは背筋が凍り付くような寒気に襲われた。


「お前の親父さんに宣戦布告しといたぞ。自分の才能を見出すことも出来なかった節穴の下から出て行けて良かった。兄よりもあんたよりも僕は強くなって、あなたを倒す。そうロゼがよろしく言っていたと伝えておいたぜ」

「酷いねつ造だ!? 何してくれてるんですか!?」

「安心しろ。お前の親父さんだろう? こんな安い挑発に乗るわけ無いだろう。鼻で笑われたさ」

「ほっ……良かった」

「その後、ひねり潰して二度と戦うなんて気を起こさせなくしてやるって言っていたぞ」

「何も良くなかったあああああ!」


 いじめっ子や不良から目をつけられるどころじゃない。

 殺し屋に目をつけられたようなものだ。

 それなのにセルジュは嬉しそうに目を細める。


「命を狙われてようやく一人前みたいなところあるからな。お前も立派になったもんだ」

「全然嬉しくないですよ!?」、


 強くなって見返したいと思っていたけれど、こんなことになるなんて聞いていない。

 こうして、ロゼは否応なしにより激しい戦いへ身を投じることとなってしまった。

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