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必殺技の種

 ロゼはウルスの屋敷で頭を抱えていた。

 無敗で公開剣舞祭の決勝進出が決まり、流れに乗って優勝したい。

 そう思っていた矢先、対戦相手の情報が全く手に入れることが出来なくなった。


「ミーナ師匠どうしましょう……相手が分からないと対策が立てられません」

「大丈夫だよー。戦場に出ればどんな敵と戦うかなんて分からないわ。むしろ、事前に分かっている方が珍しいくらいよ? しかも有名になったら、相手はこっちの対策立ててるのに、こっちは相手を初めて知ったーみたいなこといっぱいあるよ?」

「そういう時はどうすれば?」

「一瞬で相手の癖、力量、弱点を見抜いてねじ伏せれば、全然問題ないよー☆」

「口で言うのは簡単ですけど……難しくないですか?」

「あら? そのために今まで技術を教え込まれていたはずなのだけど、気付いてなかった?」


 そう言われて、ロゼはハッとした。

 攻撃に転用出来る技術ではあるが、その実教えられた技は防御と回避のためのものだ。

 事実、ロゼはそのおかげで三英雄の攻撃にも耐えられるようになっていたのだから。

 最初は遊びで相手をしても殺しかねないと言われていたのが、いまや遊びの相手くらいなら悪くないカカシにまで格上げされている。


「おかげで壊れないカカシ言われてますけど……」

「あはは、セルジュの言いそうなことだねぇ。大丈夫よ。あいつ照れ屋だから素直に褒められないのよ」

「そ、そうだと良いんですけど」


 数々の魔法の的にされてきたが、あれは照れ隠しなんかではない。本気で魔法を試すことしか考えていない顔だった。


「ま、カカシっていうのは今のままなら同意だけどね」

「うぐ……、ミーナ師匠も僕は弱いって思いますか?」

「えぇ、だって、今のロゼ君は滅多に死なないだけの魔法使いだもの。相手を殺せないならいつまでたっても勝てないよ?」


 その言葉にロゼの息が一瞬止まった。

 ふるゆわな女の子に見えても、ミーナは戦場を駆け抜ける戦士だ。

 魔法使いを殺す資格を持った魔法使い。

 ウルスの言葉を思い出し、ロゼは改めて尋ねた。


「ミーナ師匠、次の修行は?」

「感、集、瞬、流、虚、この五つ全てを使う、かさねと呼ばれる技術だよ」

「重ですか」

「セルジュの徹甲魔法の基礎にあたるかな。魔法使い同士の戦いでも魔法を有効化させる技術。いわば必殺技の種ね」

「必殺技の種! 何かカッコイイですね!」

「でしょう? これさえあれば、初級魔法だろうと関係無く相手を貫くわ」

「おぉ! あれ? でも、今度の訓練は魔法なんですよね? 何でセルジュさんじゃなくてミーナ師匠が?」


 どちらかというとミーナは体術と身体能力強化が得意な魔法使いだ。

 魔法は回復魔法ぐらいしか使わないため、どうにも違和感があった。


「セルジュのは応用技。あいつが教えると重の基礎が抜けるからね。逆に私が教えるって訳だよー。まぁ、後あいつの本気の徹甲魔法食らったら、今のロゼ君じゃ死んじゃうからねーハハハ」

「HAHAHA……なるほど。それなら納得です……」


 こうして笑えない冗談から重の特訓は始まった。

 二人は向かい合って拳を構えると、軽いスパーリングを始める。


「まずは重を使わず、集だけで強化したゴッドブローをぶつけるわね」

「は、はい!」

「ゴッドブロー!」


 黄金に輝くミーナの拳がロゼ目がけて放たれる。

 ゴウッと低い音が鳴り、突風が辺りに吹き荒れる。

 その突風と一緒に吹き飛ぶかのように、ロゼの腕が勢いよく弾かれた。

 音も衝撃の強さも当たれば骨が粉微塵になりそうな拳だったが――。


「痛っ!?」

「うん、流はバッチリ」


 その拳をロゼは左手で受け流していた。

 骨を粉々にする威力は、少し腕が赤くなる程度にまで軽減されたのだ。


「次は同じ魔力量で、重をかけて叩くけど、良い? 絶対に流を使った腕で防御してね? 急所に当たったら流を使っても死ぬかもしれないから」

「え? ちょっと待って下さい! どういうことですか!?」

「コオオオオオ!」


 ロゼの質問にミーナは耳を貸さず息を吐く。

 その拳から放たれる光は、先ほどより弱い。けれど、遙かに強い殺気が込められていた。

 そして、解き放たれた拳はただの突風ではなく、真っ直ぐ向かってくる竜巻のような渦を巻いた。


「ゴッドブロー!」


 ロゼは慌てて放たれた拳を受け止める。

 そして、受け流そうとした瞬間だった。

 ピシッという何かにヒビが入る音が鳴った。


「ぎゃああああ!?」


 腕がちぎれたのではないかと思うほどの衝撃がロゼを襲った。


「よく耐えたね。はい、ヒール」

「腕が肩からちぎれたかと思いました……」

「自分の身体に何が起きたかは分かった?」

「はい。防御術式の一点に穴を開けられた後、別の力が内側に流れ込んでくるような感覚でした」

「そう。その感覚が重。攻撃を二重にする技ね。防御術式という殻を破るための魔法と、肉体を破壊する魔法を同時に一点へ放つ技よ」


 そういうとミーナは水をバケツにいれて、表面を魔法で氷らせた。


「この氷が防護術式、水が身体だと思ってね?」

「はい」

「ロゼ君が今覚えている集は、一点に力を込めてこの氷に穴を開ける方法なんだ」


 ミーナはそういうと、人差し指を氷に突き刺して穴を開けた。

 普通に真っ直ぐ穴が空いただけで、特にそれ以外は何も起きない。

 それが今のロゼだと言われる。


「んで、魔力の強い魔法使いっていうのはこんなハンマーみたいなのでこの氷を割って、中の水に衝撃を与えるんだよね」


 ミーナがハンマーで氷を叩くと勢いよく氷と水が飛び散った。


「それで最後に重を使うとこうなるの。まずは一点に力を集中させる。その一点で流を発動させて渦を作る」


 ミーナの言葉が途切れると、ミーナの指が触れていた氷が何かに削られるように抉られた。


「その渦の中心にもう一つ力を集めると、弾け飛ぶのよ」


 そして、その削られた穴から水が勢いよく噴き出した。

 よくよく見れば、削られた場所を中心に氷は大きく割れている。

 ただ、単純に穴がくり抜かれた一回目とも、力尽くでたたき割った二回目ともまるで違っていた。


「普通なら防御術式ってさっき私が水を凍らせたみたいに、魔力がぶつからないと瞬間的に治るのよ。でも、魔力に流の技で渦を作るとね。相手の防御術式が魔力の渦に邪魔されて穴を防げなくなるの。つまりそこが弱点になって、弱い力でも勢いよく相手の肉体にダメージを与えられるんだよね。でも、重はその状態でさらに全力を込めるから、相手を一撃で粉砕出来る力を秘めているの」

「なるほど、でも、これなら集を使った一撃はいらないんじゃないですか?」

「いつでも重を使える訳じゃないわ。さっき私が重を使う時、少しタメがあったでしょう?」


「そういえば、ありましたね。あ、なるほど、二つの力を一点に集中させるってことは、通常よりも多くの魔力を注がないといけないし、二つの魔力の塊を制御しないといけなくて、攻撃出来るまで時間がかかるってことですね。咄嗟に使える集とはそこが違うんだ」

「さすがロゼ君、察しが良くて助かるわ。百点満点の解答よ。だから言ったでしょう? 必殺技の種って」


 必殺技というのはその威力の信頼性から、重宝されると思われがちだが、当たらなければ意味が無いし、自分が消耗したら後に響く。

 強い力ほど自分に対するリスクがある。

 だから、必ず殺せる状況を生み出しから放つ技、それが必殺技なのだと、ミーナは語った。


「必殺技か。僕にもできるようになるかな」

「ふふ、面白い技を期待しているわね」

「はい!」


 重という新たな力を手に入れられる。

 そう思ったらいつの間にかロゼの心から不安が消え去り、随分と身体が軽くなった。

 そして、ふと気がついた。


「あの、そういえば、重を使ったゴッドブローを受けた時、流を使ったのにどうして僕は吹き飛ばされたんでしょう? ……骨折れてましたよね?」

「力量とか技術の差もあるけど、基本的に重の方が流より優先されるからだね。とはいえ、流を使えなかったら多分吹き飛ぶだけじゃなくて、腕そのものが骨と一緒に粉々になってたよ」

「……そんな危ない物をよく弟子に撃ち込めましたね……」


 防御していても尚残る貫通力と衝撃力。それが重。


「あら? そんな危ない物を撃ち込んでも、ロゼ君なら大丈夫っていう信頼の証なんだけどな? ツンデレおじさんの二人は言わないけど、ロゼ君、ちゃんと強くなってるよ? お姉さんが保証してあげる。だから、誰が相手でも勝ってきなさい」

「はいっ!」


 笑顔で親指を立てるミーナにロゼは元気良く返事をした。

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