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05

 ディニッサは、夢の世界で陽菜を見つけることができました。

 入れ替え魔法の影響か、陽菜は夢の世界でも眠っています。


 ディニッサは心配になりました。自分のせいで陽菜が死んでしまうかと思ったのです。

 基本的には、ディニッサは優しい女の子なのでした。


 けれど陽菜は、すぐに目を覚ましてくれました。

 ホッとしたディニッサは、陽菜に声をかけます。


「ようやく目を覚ましたか。安心したのじゃ。わらわが誰か、わかるかの?」

「……ディニッサ?」


 陽菜の様子に変わったところはありません。

 ディニッサのことも、ちゃんとわかっているようです。


「うむ。記憶はたしかなようじゃな。では現状の説明をしようか」

「はは、現状ってなにそれ。ホント変な夢」


 陽菜は笑ってディニッサの言うことを聞いてくれません。

 どうやら夢を見ていると思われたようです。この世界で会ったのが失敗でした。灰色の空間でフワフワ浮かんでいる状態なのですから、夢だと思うのも自然でしょう。


 * * * * *


 いくらディニッサが説明しても、陽菜は納得してくれませんでした。

 ディニッサは仕方なく、海への連絡を優先することにしました。陽菜の兄は、何も悪くないのに巻き込まれてしまったのですから、そのまま放置するわけにはいきません。


 夢の世界が消えて、まばゆい光がまわりに溢れました。

 壁も天井も金色に輝く、とても豪華な部屋がまわりに広がります。


 それは、ディニッサのお城のお風呂なのでした。

 お風呂には、銀色の髪の女の子と金色の髪の女の人がいます。中身が海のディニッサと、侍女のユルテです。


 本物のディニッサと陽菜が突然あらわれたわけですが、二人とも気付く様子がありませんでした。ディニッサたちは、透明人間のようになっているのです。あちらの景色は見えるのですが触ることはできません。また、むこうに声は届きません。


 これはディニッサにも意外なことでした。

 せっかく海にアドバイスを送ろうとしたのに、意思の疎通ができないのです。


「もう時間切れじゃ」


 結局、なにもできないまま魔法が解けてしまいました。


 * * * * *


「お兄ちゃん、起きてよ。重いよ」


 ディニッサは陽菜に揺り起こされます。

 魔法から先に復帰したのは陽菜の方でした。


「今度は、そなたの方が先に目覚めたようじゃな」

「お、お兄ちゃん、変なこと言わないでよ」


 * * * * *


 最初は疑っていた陽菜ですが、そのうちディニッサと兄が入れ替わったことを信じてくれました。自分の兄が、夢の中のできごとを知っているのですから、さすがの陽菜も信じざるを得なかったのです。


「なあ、そろそろ食堂にいかぬか? わらわはお腹がへってしまったのじゃ」


 陽菜が現状を把握したところで、ディニッサは要望を告げました。

 さっきからお腹がペコペコなのです。


 陽菜たちはこんな立派なお城に住んでいるのだから、さぞや素晴らしい夕食が出て来ることでしょう。ディニッサは期待でワクワクしました。


「食堂? やだよ。もう暗いし、外に出たくない」


 しかし陽菜の反応はつれないものでした。

 けれどそれも仕方ありません。二人の認識が噛み合っていないのです。


「外? どうして外にいかなければならぬのじゃ。ここは3階あたりじゃろ?」

「5階だけど。それがどう関係あるの?」


「5階もある城の保有者が、食堂ひとつ持っていないなどありえんじゃろ?」

「城? あー、ディニッサの常識だと、そうなるんだ……」


 城主なのですから、城の内部にいくつかの食堂があるのが当然です。じっさいにディニッサのお城には、身分や人数により違った食堂が用意されています。けれどここは陽菜の城などではなく、ただのワンルームマンションです。もちろん食堂などありません。


 ディニッサの勘違いに陽菜がため息をつきます。

 ただの賃貸マンションなのに、お城などと思われても困ります。


「ここはワンルームマンションといって、たくさんの人たちがそれぞれ暮らすおうちです。私たちの自宅は、奥の鉄の扉から内側だけです。はい、わかった?」


 ディニッサは驚愕しました。


「はあ!? 狭すぎじゃろ、家畜ですらもっとマシな家をもっていよう」


 ディニッサのお城では天馬が飼われているのですが、もっと立派で広々とした厩舎が与えられています。とは言え、それはディニッサが特別だっただけです。あちらの世界でも、普通の人はそれほど良い暮らしはしていません。


「お兄ちゃんが頑張って働いたお金で借りている家に、文句言わないで」


 ディニッサの言いように、陽菜は気を悪くしたようでした。

 ディニッサは反省しました。貧乏で人間以下の惨めな暮らしをしているとしても、それを責めるのは良くないことです。


「む……。それは、悪かった。そなたらは、最下等の貧民なのじゃな。こういう暮らしをしている者も、いるとは聞いた事がある」


「そこまで貧しくないよ……」


 ディニッサは、陽菜たちが悲惨な境遇にいるのだと理解しました。

 そして、多少助けてやっても良いな、などと偉そうに考えたのでした。

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