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04

「大変なことになったのじゃ。よもや関係ない者に魔法がかかるとは……」


 ディニッサは、異世界の女の子と入れ替わろうとしていました。

 けれど失敗しました。陽菜の兄と入れ替わってしまったのです。


「……まあ、よいか。人生そういうこともあるじゃろう」


 しかしディニッサは、すぐに気分を切り替えました。

 良く言えば、過去にこだわらない性格の女の子なのです。


「なんだか体がゴツゴツしておるな……。それになんじゃ、股間のこの物体は?」


 ディニッサは、しげしげと自分の体を眺めます。

 元の体より背は高くなり、柔らかかった体も筋肉で硬くなっています。なによりディニッサが当惑したのは、男性器でした。


 もちろんそれまでのディニッサにはついていませんでしたし、彼女の生活では男性に出会うことがほとんどありません。


「よくわからんが、尻尾のようなものか? とすると、服の下に隠しておくのは良くないじゃろう。露出しておくべきではないかの」


 元の世界では、頭が犬の人間や長い尻尾を持った人間など、さまざまな種族がいました。ディニッサ本人だって、コウモリのような黒い羽が生えていたのです。ですから股間にある物体も、種族的な特徴だと思い込んだわけです。


 そしてディニッサのドレスは特注品で、服の外に羽が出せるようになっていました。羽や尻尾などを服の下にしまっておくのは、機能上好ましくないと考えられているのです。


「この服、どうやったら脱げるのじゃろう……?」


 ディニッサは、着ているスーツをいじりました。

 しかしどうすればよいかわからず、すぐに投げ出してしまいました。


 ズボンのチャックを開けられなかったわけですが、ディニッサのためにも陽菜のためにも幸いだったと言えるでしょう。


 もしも成功していたら、眠っている妹の横で一物を露出する兄、というおそろしい光景が広がったところでした。陽菜が目を覚ましたら、さぞびっくりしたに違いありません。どこからどうみても変態ですから。


「変な物がいっぱい置いてあるのじゃ。あの平べったい黒い板はなんじゃろう……?」


 ディニッサの目についたのは、薄型テレビです。しかしディニッサの世界には、そんな物はなかったのです。好奇心を刺激されたディニッサは、キョロキョロと部屋を見回します。

 しかし立ち上がろうとはしません。

 ディニッサとしては、陽菜が起きてから案内してもらおうと思っていたのです。


 これは、人様の家を勝手に探ったら失礼だ、というような殊勝な考えではありません。

 ディニッサは、陽菜に「抱っこしてもらって」部屋を眺めようとしていたのです。


 ふだんから自分の足で歩いていないので、お姫様抱っこで移動するのが当然だとしか思えないのです。ちなみに、陽菜は中学生で、兄の「海」は十歳年長の社会人です。体格的にとても抱っこなどはできません。


 そんなことはディニッサだって見ればわかるだろう、とお思いかもしれません。しかしながらディニッサの世界には魔法があるのです。ディニッサだって、侍女たちだって、自動車くらいなら指先一本で軽々と持ち上げられます。


「陽菜~、わらわは退屈じゃ。早く目覚めよ」


 ディニッサは、遠慮なく陽菜の体を揺さぶりました。

 けれど陽菜は目を覚ましません。


 ──ディニッサは少し心配になりました。

 もしかしたら、魔法の影響でなんらかの問題が起こったのでしょうか。


 ……まあじつのところ、陽菜が周囲の刺激では目を覚ましにくいタイプだっただけなのですが。兄の海も諦めているほどの、目覚めの悪さです。


 ディニッサは、魔法で無理やり目覚めさせようかと悩みました。

 けれど、よけいに問題が大きくなる可能性もあります。


 ──結局、陽菜が自然に目を覚ますまで放置することに決めました。

 かわりにディニッサは外を眺めます。もちろん立ち上がったりはしません。

 魔法を使って、壁やカーテンを透過して外の景色を見たのです。


「おお、高いではないか! 部屋が狭いから貧乏なのかと思ったが、これだけの広さの城を持っておるとはの」


 陽菜と海が住んでいるのは、5階建てのワンルームマンションです。

 ディニッサは、このマンションすべてが陽菜たちのものだと勘違いしたのでした。


 ディニッサの常識からすると、建物の上層で暮らしているなら支配者階層なのです。

 ……まあたしかに日本でも、上階のほうが微妙に家賃が高かったりするわけですが。


 しかしもちろん、このマンションが陽菜たちの所有物のわけがありません。それどころかこの部屋自体も、借りているだけです。まあ社会人とはいえ、海は大学を出ていくらもたっていません。マイホームを買うには若すぎます。


「ダメじゃな」


 いつまでも目覚めない陽菜に、ディニッサはしびれを切らしました。

 そしてやっぱり魔法を使うことにしたのです。


「それに兄の方も心配じゃしの」


 すぐに意見を変えてしまったことに、そうやって言い訳をします。

 しかしたしかに、アクシデントで入れ替わってしまった海は困惑しているはずです。ディニッサは、陽菜を起こしながら、ついでに海に助言を送ることに決めました。


「む~。なんか魔力が弱くなっておるの」


 体を入れ替えた影響か、ディニッサの魔法の力はとても弱くなっていました。

 けれどまだ魔法が使える分、運が良かったと言えるでしょう。


 ディニッサはまったく予想していませんでしたが、魔力が無くなってしまうこともありえたのです。そうなったら、もう元の世界に戻ることなどできなくなっていたでしょう。


 ……まあ、その場合でもディニッサは、そういうこともある、と言うかもしれませんが。

「さて、もう一度夢の世界を展開するかの」

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