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01

 とあるところに、とても大きなお城がありました。

 外壁は純白で、場内は金色に輝く豪奢なお城です。


 そのお城には、ディニッサと言う名のかわいらしいお姫様が住んでいました。

 ディニッサの他には、侍女が3人と料理人が1人。何百人も住めそうなお城なのに、たった5人だけで暮らしているのでした。


 * * * * *


 お城にはもちろんディニッサの部屋があります。

 天蓋付きのベッドをはじめ、よく吟味された家具が揃っている素敵なお部屋です。


 その日、ディニッサはまだベッドの上にいました。

 もうそろそろ正午だというのに、気持ちよさそうに眠っています。


 部屋にはディニッサの他にもう一人、フィアという名の女の子がいました。

 外見は中学生くらい。白い髪の、綺麗な女の子です。まだ幼さの残る彼女ですが、ディニッサの侍女として立派に働いているのでした。


 普通の人ならもう働いている時間なのですが、フィアがディニッサを起こす気配はありません。ただじっと、ディニッサの寝顔を見つめているだけです。


 ──その時、ディニッサが寝返りを打ちました。

 そして薄っすらと目を開きます。


「姫様、おはよう」

「……ん~」


 フィアに挨拶されても、ディニッサはボンヤリとしたままでした。

 しかしフィアはまるで気にしません。ディニッサを抱え上げると、顔を洗ってやり、服も着替えさせてやりました。


 青色のドレスに着替えるころには、さすがのディニッサもはっきりと目を覚ましていました。そして窓の外を見て、歓声を上げます。


「フィア、フィア、まだ太陽が真上に来ておらぬぞ! わらわはずいぶんと早起きしてしまったようじゃな」


「うん。姫様、がんばった。偉い」

「そうじゃろう、そうじゃろう!」


 驚くことに午前11時過ぎは、ディニッサにとっては寝坊ではなく、「早起き」に入る偉業なのでした。それを褒めるフィアにも、揶揄するような態度は一切なく、心から思っていることを言っているだけという有り様です。


 ……端的に言って、このお城の住人はかなり「ダメ」な人たちなのでした。


 * * * * *


 着替えが終わると、ディニッサたちは朝ごはんを食べました。

 その後、自由時間になります。


「姫様、今日は何して、遊ぶ?」


 横抱きにした状態で、フィアがディニッサに質問します。

 ディニッサは小学生くらいの小柄な体ですが、それにしてもフィアは軽々とディニッサを抱えています。


「そうじゃな。今日は早起きしてしまったから、塔でお昼寝でもするかの」

「わかった」


 フィアは、ディニッサをお姫様抱っこした状態で歩き始めました。

 ……じつはディニッサは、自分の足で歩くという習慣がありません。城内の移動はすべて、侍女たちの抱っこでおこなわれているのです。


 着替えはもちろん、食事だって自分ではしません。ディニッサはただ口を広げて、侍女が食べ物を持ってくるのを待っているだけなのです。


 すべての労働は侍女たちがおこなっているわけですが、なにも強制しているわけではありません。フィアたちは、望んでディニッサの世話をやっているのです。


 * * * * *


 ディニッサたちは中庭に出て、高い塔に向かいました。

 はるか昔は見張り用に使われていたこともあったようですが、今ではディニッサがお昼寝をするだけがその塔の存在意義となっているのでした。


 塔にたどり着いたフィアは、外壁に足をかけました。

 そして何も足がかかりのない外壁を、垂直の姿勢で歩いていきます。


 ──じつはフィアは、普通の人間ではありません。

 魔族と呼ばれる種族なのです。


 フィアは、魔法を使って外壁を登っていきます。

 靴と壁の接触面を凍らせ、体を固定しながら歩いているのです。


 べつに塔内にだって階段はあります。それを登っても良いのですが、ディニッサの雰囲気から、この方が好まれると判断したのです。


 そしてそれは正解でした。

 ディニッサは、良い天気なので風にあたりながら塔を登りたいと考えていたのです。


 とは言え、もしもフィアが内部の階段を使っても、ディニッサは文句は言わなかったでしょう。ディニッサが侍女に命令をしたり、文句を言ったりすることはめったにないのです。


 なにしろ侍女たちは、ディニッサが何も言わなくても精一杯の奉仕をしてくれるのですから。


 * * * * *


 塔の屋上には、ハンモックのようなものが用意されています。

 もともとそんな物はなかったのですが、ディニッサのお昼寝用に作られたのです。


「雲ひとつない良い天気じゃなあ」

「うん。ちょっと、暑い」


 二人はハンモックの上で語り合います。

 フィアが暑くなっているのは、ディニッサとくっついていることも影響しているのでしょうが、離れるわけにはいきません。


 ディニッサは1人で寝たことがないのです。侍女が添い寝してあげないと、気分よくお昼寝もできないのでした。


「そろそろ、戦争じゃなあ」

「……うん」


 ディニッサの口から物騒な言葉が漏れました。


 ──じつは、この平和なお城には危機が迫っていました。

 二ヶ月もすれば、戦争になり、敵が襲ってくるはずなのです。

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