無機質で、かさかさした世界の住人
それから、もう一年になる。
真樹ちゃんは、バイトやらピアノやらで忙しいのに、日に何度もメールをくれる。週に三回くらいは一緒に遊んでくれる。
ちょっとかみ合わない時もあるけど、それでも、あたしは真樹ちゃんが遊んでくれるのを楽しみにしていた。
あたしは女の子にしてはちょっと背が高くて、髪もあまりかまわないので中途半端な長さだ。服もほとんど制服しか持ってないし、化粧もしない。
顔はまあ、悪くはないんじゃないかなとは思うけど、自分ではよくわからない。
ちっちゃくて可愛い真樹ちゃんと一緒にいると、あたしがエスコートしてるみたいに見えるはずだ。
実際には真樹ちゃんが、あたしに知らないことを教えてくれる。
あたしには気後れするような店で買い物したり、真樹ちゃんが教えてくれる、名前も知らない、得体が知れないコーヒーのような物を飲んだりするのは、なんだか自虐的な快感がある。
真樹ちゃんは天然だから、あたしが喜んでいると思っている。
それがうれしい。
いつだったか、二人で映画を見ていると、すごく楽しみにしていたのに、真樹ちゃんは居眠りをしていた。
たぶん、バイトで疲れていたのだ。
疲れていても、あたしとの時間を作ってくれているのだと思うと、なんだか、寝息をたてている真樹ちゃんが女神みたいに見えた。
もし、あたしが男だったら、もうえらいことになっている。
でも真樹ちゃんは、原則で言うと、あたしとは違う世界に住んでいる。姉が死んでから、あたしは普通の人とは違う種類の人間になった。
あたしは、もっと、薄暗くて、無機質で、かさかさした世界の住人だ。その世界には、悪意とか、憎悪とか、失敗とか、油断とかいった言葉がしっくりくる。
あたしはまだ、油断していない。
真樹ちゃんといると、時々、油断しそうになる時はあるけれど。
だから、時々、一緒にごはんを食べてくれるだけで、あたしには十分なのだ。