たった一人の、あたしの友達
けれど、あたしは優しいので、この程度の犯罪には、最後のチャンスをくれてやる事にしていた。
「ねぇ、やめたほうがいい。その子、嫌がってるよ。分からないの?」
驚いたのは、男ではなくて女の子の方だった。高校生だ。年はあたしくらい。
高校一年生か、二年生、隣の学校の制服だった。びっくりしてあたしを見た。綺麗な子だった。
軽くカールした髪や、ほんわかとした雰囲気が、アニメのヒロインみたい。
「今なら、間に合うよ。ごめんなさいを言って、もう終わりにしよ」
男はなにも言わずに、顔をそらして場所を変えた。
馬鹿だから、この男は最後のチャンスを棒に振った。
後の話だが、あたしは、その男のこれまでの痴漢歴、被害者にモザイクをかけた痴漢行為を記録する画像、動画を、その男が務める製菓会社の上司、同僚と、男の妻、男の義理の母にメールで送りつけた。
二度と地下鉄で見かける事はなかったので、結果はだいたいわかった。
あたしには、特別な才能があるのだ。
あたしは、隠した犯罪者の顔を、丸裸にする事ができる。
列車を下りると、その子は駅が違う筈なのに、あたしについて来た。たぶん、その日は遅刻したと思う。
その子は、人が流れるホームで立ち止まり、あたしの手を取って言った。
「ありがとう。すごい、勇気あるんだね」
勇気は、あまり関係ない。あたしは被害者でも、加害者でもない。
「メール教えて、お礼したいの」
「え、それはちょっと……」
ともかく、それが真樹ちゃんとの出会いだった。
痴漢につきまとわれていた女の子、俵藤真樹。
たった一人の、あたしの友達。