残酷な気分
体格のいい男が、二人、真樹ちゃんを挟むようにして立った。予想通り、チンピラというより学生だ。暴力馬鹿っぽいのは同じだけれど。ブランドもののジャージ姿で、野球帽を深く被っていた。サングラスとか、それっぽくてありえない。
真樹ちゃんはちっちゃいので、この男達とくらべたら、まるで、大人と子供だ。
本気でなにかされたら、真樹ちゃんは、きっと壊れてしまう。
言い争っている声が聞こえた。真樹ちゃんはあたしに聞かれないように小声で話していたが、わたしは耳がいいのだ。
「店には来ないでって言ったでしょ。帰って! 行くわけないでしょ。今から仕事なのよ?」
真樹ちゃんは顔を赤くしていた。たぶん、すごく怒っているのだ。
「……するなら、やれば。わたしは被害者なんだから、べつにやましいことなんてない。なんなら、いまから、一緒に警察に行ってもいいです」
真樹ちゃんがそう言うと、男達は、肩をすくめて引き上げた。
怪しい箱バンは、走り去っていった。タイヤの沈み方で思った。あの中、まだ何人か乗っていた。
真樹ちゃんは、血の気のない顔で、あたしの所に戻ってきた。
かまをかけるつもりで聞いてみた。真樹ちゃんがあたしに隠したいのなら仕方ないけれど、協力してくれた方が、話はずっと簡単なのだ。
「ともだち?」
「違う違う、バイトの取引先の人だよ。ちょっと手違いがあって」
そんなわけない。あんなごつい男達、お店で見たことない。
あの男達は馬鹿だ。このあたしに素顔をさらした。
学生で、顔が分かれば、もう身元は判明したも同然だ。鞄に仕込んだ隠しカメラで、しっかり動画をとらせてもらった。
あたしは、ひどい顔をしていたかもしれない。残酷な気分だった。あいつらが他の女の子や、真樹ちゃんにした事を、そのまま同じように体験させてやれると思ったら、にっ、と口の端が持ち上がるのがわかった。
どこにも、居場所がないようにしてやる。みんなが目を背けるようにしてやるよ。思い知ればいい。
陰惨という言葉があるけれど、あたしはたぶん、その言葉をそのまま絵にしたような顔をしていたと思う。
「千夏ちゃん?」
あたしを見上げている真樹ちゃんの顔は、怯えていた。