死者はとても寂しがり屋で
あたしの家は、こじんまりとしたマンションで、価格を抑えたコンパクト設計だ。父の収入では、このくらいが限界なのだと思う。だから天井も少し低いし、柱が室内に出っ張ってきている分、床面積もすくない。
合理的な設計で、通路もない。玄関を入るとすぐにリビングダイニングで、お風呂もトイレもリビングとつながっている。
お母さんは、もう暗くなっているのに、ダイニングのテーブルに一人で座っていた。
灯りをつけると、夕食の準備はちゃんと出来ていた。けんちん汁、焼き魚、ホウレンソウの巣籠り、あたしには十分なボリュームだ。冷えてしまっているけれど。
お姉ちゃんが死んでから、お母さんは人に合わせて時間配分をすることが出来なくなった。もともと、家の事がちゃんと出来る人ではなかったけれど、なにか、心の糸が切れてしまったのだ。
「おかえりなさい千夏。いま、温め直すわ」
お姉ちゃんが死んでから、お母さんは、ずっとこんな感じだ。
お母さんは、自分のせいだと思っているのだ。教育を誤ったとか、気づいてやれなかったとか、もうどうにもならない事で、繰り返し自分を責めている。
死者はとても寂しがり屋で、いつでもまだ生きている人間を呼び寄せようとする。
でも、そんなわけにはいかない。