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エピローグ

「すまんのぉ、ベーゼ。今回は助かったわい」

「いーのいーの。気にしないで、グランちゃん。またあれ、今度例の店でチョイとやろうよ。ね?」

「うむ、そうじゃの」

 厳格なグランと軽薄なベーゼ、実に対照的な雰囲気の二人。ガイアでパラディ事件の報告会に出席していたベーゼだが、会議を終えて引き上げる。

 神殿の外ではリコが待っていた。

「どうも、ベーゼ殿」

「やーやー、リコちゃん。元気してた? うちのクルエちゃんがお世話になったね」

「うむ……本当に世話がかかったぞ。古文書を奪われたりなどな」

「だーから、それは言ってるじゃない。古文書を守り抜けって命令したつもりが、正しく伝わってなかったのよ、これが。リコちゃんたちからも奪うような形で守ろうとしちゃって、ホントごめんちゃいね」

「ふ……どうだか。あの娘……あのような魔人をあと何人育てているのか?」

「なーんか色々邪推していない? ワシが何かよくないこと企んでいたんじゃないかって」

「さてな……」

「まー、リコちゃん。罪滅ぼしに今度、チョイと飲みに行こうよ。いい店知ってるから」

 リコは返事せず、構わず行ってしまうベーゼ。どうせここで腹の探り合いをしたところで本音を話すわけもなく、やはり油断ならない男だとリコは改めて警戒を強める。



 リコはグランに会うために神殿内へ入る。すると大広間で、例によってグランは美少女ゲームに没頭していた。

「ウホッ、レモンちゃん、意外と脱いだら凄いのう……!」

「ぐ、グラン……」

「ぬおおおおおおおお、何じゃあ、リコフォス!?」

 エロ本を隠す中学生のごとく、慌てて神殿の隠し倉庫にゲーム機を乱雑にしまい込むグラン。息を整え、何事もなかったかのようにいつもの渋い表情へ戻る。

「ぬう、何の用じゃ?」

「う、うむ……して、パラディはどうなったのかと思ってな」

「あの着陸した場所がマニフィック共和国の国境圏内でな、マニフィックと合併することで落ち着いた。ただ市内の復興はまだまだ大変そうじゃな。腐った大地は少しずつ浄化されているが、機械産業の衰退で職を失った者も多い」

「だがまあ……まるっきり希望に満ちていないわけでもなさそうだな」

 リコは改めて今回の事件を振り返る。貧富の格差の激しい街で、自然を食い物にした人間たちが招いた悲劇……。権力を持ち過ぎた人間の欲望は際限ない、それは魔人も人間も同じ……その縮図のような事件だったと。

「それにしてもレオンの奴め、全く……。また勝手な行動を取りおって、しかも一歩間違えればワシらも危なかったというに……」

「だがレオンのお蔭で、被害を最小限に食い止めることができたのも事実であろう?」

「……! むう……」

 リコは今回の事件で、ガイアの厄介者と言われるレオンの評価を改めていた。意外に頭の回転が速く、そして状況によって的確な行動が取れ、思い切ったこともできる。そして何より……。

「だあああああああああ!」

「な、何だ、突然!?」

「認めん、ワシは断じて認めんからなぁ! あんな奴、もう二度と任務に就かせんからなああああああ!」

 どうやらグランのレオン嫌いは直りそうにもなさそうだった。

「それよりリコフォスよ、しばらくあのナキという少女を見張ってはくれぬか?」

「ナキを……?」

「天然の魔人……未だその力は完全にはコントロールできず。だが力の暴走で心を支配されることもない。その不安定さ……気になるのじゃ。今からここで修業をつけても、あの特殊なケースでは不安定さは拭えまい」

「……わかった」

 リコもひょっとしたらという予感はあった。ナキはまだ……どちらにも転ぶ可能性があるのではないかと。だからこそ、願ってもない任務だった。



 旧世代のオンボロバイクを乗り回し、荒野を疾走するナキ。だがその運転は酷く不安定で、今にもバランスを崩してひっくり返りそうだった。

「わっ、わっ、わっ!」

 しかし止まるわけにはいかない。何故なら後ろからエアカーに乗った二人の野盗が追いかけてきているから。

「けっへっへっへ、そんな運転じゃ逃げられねえぜ」

「ひゃあ!?」

 野盗たちが手を出すまでもなく、ついにバイクは大きな地面のでっぱりに引っかかってバランスを崩し、ナキの体は投げ出されてしまう。

「い、痛たたた……」

「けっへっへ、金目のもん置いていけば、命は助けてやるよ」

「くっ……えーい!」

 ナキは渾身のパンチを野盗の腹に叩き込むが、野盗は痛がるそぶりを全く見せなかった。

「あ? 何だ、蚊でも止まったか?」

「う、ううう……」

「言うこと聞かねえなら……しょうがねえな。身ぐるみ剥いじまうぞ、コラァ!」

「きゃあああああああ!」

 野盗たちがナキの衣服に手をかけようとした瞬間だった。上空から降りてきた何かが野盗たちを吹っ飛ばす。

「ぐげっ!?」

「ぽぎゃ!? だ、誰だぁ!?」

 倒れた野盗たちが起き上がり、顔を上げると目の前には、大きな翼の生えたライオン……レオーネが目の前に立っていた。

「「……!」」

 レオーネは雄たけびをあげ、野盗たちを驚かす。

「「ぎゃあああああああああ!」」

 一目散に走って逃げだす野盗たち。そしてレオーネのそばに立って笑うレオン。

「はっはっは、なっさけねえの」

「レオンさん!?」

「よう、ナキ」

「ど、どうしてここに? と、とにかくありがとうございます。またまた助けられちゃいましたね……」

「気にすんなって。女の服を剥ごうなんて破廉恥な連中は男として黙っておけないからな」

「私、レオンさんに服脱がされたことありますけど……」

「っていうか、何でオフロードバイク? 確かに舗装されていない道路用だけど、今の時代、地面にタイヤがつかないエアバイクもあるのに」

「あれは高いから……。それに私、まだ免許取り立てで乗れる自信が……エアバイクは難しいですし」

「こっちのもあんま上手じゃなかったけどな。また運び屋やってんのか?」

「はい。やっぱり私、父の仕事を継ぎたいなって。世界中旅するのも好きですし」

「トライはどうしたんだよ? あいつ、釈放されたはずだろ?」

「面目なくて、もう運び屋はできないって……。あとお母さんの看病もしたいから、町で働くって」

 色々あったが、何だかんだでナキの方はトライのことを許しているようだった。だがトライの方はというと、そう簡単に割り切れるものではなく、ナキともう会わないことをせめてもの罪滅ぼしと考えているようだった。

だがそれでも……一時は絶望で死のうとしていたところから、ちゃんと生きる希望を持って這い上がったことを聞き、レオンは安堵していた。

「なあ、ナキ。じゃあ俺を雇わないか? 占い師の仕事も廃業しちまったから、食い扶ちがないんだ。いいだろ? お前一人じゃ危険だし」

「えっ、レオンさんを? い、いいですけど……」

「おっしゃ、決まり! 任せろ、俺はもうちょっと運転マシだから」

 そう言ってバイクを起こし、またがるレオン。

「ほら、乗れよ。どこ行くか知らないけど。レオーネ、お前は後ろについてこい」

「は、はい。じゃあ……よろしくお願いします!」

 ナキはレオンの後ろに乗り、しっかりしがみつく。

「じゃあ行き先は氷の都・イスベルグで」

「げっ、あんな寒いところ? あいよ、わかりました、お客さん」

 タクシーの運転手のごとく返事し、レオンはバイクを走らせる。レオーネがその後ろを飛んでついてくる。

 その更に遥か後方で、リコがレオンとナキの様子を見ていた。

「あやつ……」

 リコは思った。レオンは、自分と同じことを感じたのだろうと。ナキをしばらく見守る必要がある。だから職探しのフリをして、ああしてナキに近づいたのではないかと。

リコはしばらく、レオンに任せてみようと思った。特殊な力を持つ人間、〝魔人〟の住むこの世界。それは強大な力を持つが故に不安定さに満ちていた。ナキこそその象徴かもしれない……。ナキがどう転ぶかによって、この世界のバランス自体が全く変わってくるような気もするのだった。

そんなリコの不安をよそに、レオンとナキは意気揚々と氷の都・イスベルグを目指す。次の町では一体、何が二人を待ち受けているのか?

「あ、そうだ、ナキ。今度はこんなの買ってきた」

 レオンはバイクを運転しながら、片手でスクール水着を取り出す。

「万が一の時のために常時、こいつを服の下に着ておくんだ」

「万が一って、前みたいなあれですか……?」

「そうだ、敵の動きを止める、画期的作戦だ。絶対必要になる時が来る」

「わ、わかりました。レオンさんがそう言うなら間違いないですから」

「……」

 やっぱり何かが違う、レオンはそう思うのだった。

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