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宝石の目と海の翅 ~ムシの国の物語~  作者: 福山陽士
最終章 戦火の孤島編
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24.エピローグ

 遙か向こうに広がる海の果てから、真珠のように輝く太陽が昇った。

 崖から海を望むように立つ木々が、一斉に光に染められる。その内の一本、大木の根元で、ラディムは眩しく光る大海原をぼんやりと眺めていた。

 今まで、幾度となく見てきたこの海。その遥か向こうに存在している国のことを考えるようになったのは、数ヶ月前まではまったくなかったことだ。だが今は、あの海の向こうにあるであろう大陸に、自然と思いを馳せることができる。

 見たこともないし、行ったこともない。だから、想像することしかできない。それでも今、自分と同じように、別の場所からあの太陽を見ている人たちがいがいることを考えると、ラディムはとても不思議な気分になる。


 アルージェ国の侵略で受けた『傷』は、見える範囲の部分は、ようやく修復できてきたところだ。朝から晩まで動き回るフライアに付いていたラディムも、ここしばらくの間はくたくたに疲れていた。混蟲(メクス)の魔法を頼りにされる機会が増えたからだ。

 そんなわけで『朝の一人の時間』は少しの間中断していたのだが、忙しさも緩和したところで、早速ラディムはこの場所に(おもむ)いていたのだった。

 アルージェ国に抉られてしまった崖も、地下の混蟲たちの活躍により、今はほぼ元通りになっている。以前と変わらない景色に安堵するかたわら、複雑な気分も抱いていた。

 ヴェリスの『墓』がすぐ近くにあるからだ。

 だが、今さら掘り起こして場所を変えるわけにもいかない。

 

「お城の窓から見える海も綺麗だけど、ここから見る海もいいね」

「うぉっ!?」


 突如横から聞こえてきた声に、ラディムは思わず声を上げてしまっていた。

 振り返ると、フライアが木の横ではにかみながら立っていた。


「えへへ。フェンさんに聞いてやって来ちゃった。ラディムは前から早朝にどこかに行ってるみたいだったから、気になっちゃって」


 この場所をハッキリと告げたことはフェンにもない。というのに、ほとんどバレてしまっていたのか。


(まあ確かに、前は毎日来ていたもんな……。さすがにバレるか)


 しかし、自分だけの秘密の場所が他人に知られてしまうと、なんとなく居心地が悪い。そろそろ場所を移動しようかと、ラディムは密かに決心した。


「この場所がバレた理由はわかったけど……。ええと、そもそも何でここに?」


 ラディムが動揺を隠せぬまま聞いた瞬間。

 フライアは眉をキュッと内に寄せ、頬を赤く染めた。


(これは、どういう意味の反応なのだ……)


 突然の謎の反応に、ラディムは困惑するばかりだった。

 ラディムが額から一筋の汗を流し、たっぷりと悩んだ後――ようやくフライアはぽしょり、と蚊の鳴くような声で告げる。


「返事、まだ聞かせてもらってない……」


 瞬間、ラディムの全身から、嫌な汗が滲み出てきた。

 フライアが言っているのは、あの日、ペルヴォと対峙した『屋上』でのことだとすぐにわかった。

 忘れていたわけではない。忘れることなどできるはずがない。

 でも、いくら何でも状況が状況だったし。正直なところ、あのままうやむやにできるかと密かに思っていたのだが――。

 でもさすがに、それは虫が良すぎるかなぁ……とも思ってはいたけれど。混蟲だけに虫が良い話も許されるわけでもなく。

 ――と、ラディムは数秒にも満たない間に色々と考えた。

 頭の後ろを掻きながら「あー」とか「うー」とか意味のない言葉をひとしきり洩らしたあと。

 突然、ラディムはフライアの両肩をがしりと掴んだ。


「ふえっ!?」


 そして――。

 ラディムの顔が、フライアの顔に重なる。

 フライアは驚愕のあまり、目を見開いたまま固まるばかり。

 数秒にも満たない短い重なりを終えると、ラディムはフライアの肩から手をおろし、頬を掻いた。


「『唇』にすると、まぁその……そういう(・・・・)意味なんだろ?」


 顔を赤くしたままそっぽを向いた彼の首元に、フライアは花のような笑顔を浮かべ、抱きついたのだった。




     ~ Fin ~

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