はれのひ
あれからしばらくたって僕は、風がそよぎ、光が木の間から柔らかに降り注ぐ暖かな森の中の師匠のログハウスに僕は住んでいた。
木製のドアに3度ノックし、静かにドアを開け静かに入る。
「師匠、おはようございます」
一言声をかけ2度、3度肩を揺らしたが、返事は静かで可愛い寝息で帰ってきた。
「今日もダメか……」
少しため息をはいてしょうがないなと思い、もう一度言う。
「師匠、ご飯ができましたよ」
布団を凄まじい勢いで跳ね除け、すぐさま部屋を飛び出てダイニングまで行って椅子に座りトーストを頬張った。
ベッドの上の乱れたシーツを回収し、僕も師後を追う。
「……おはよう」
いつもの静かな調子で、頬に食べ物をためて喋る様子はまるで小さな動物のようだった。僕が作ったご飯を普段は滅多に見せることのない笑顔で頬張る可愛らしい師匠の様子を眺めているととても幸せな気分になるし、なんだか自分しか知らない師匠を知ってる気がして少し優越感もある。しかし、自分の仕事をこなすために口を挟む。
「ありがとうございます!でも、ちゃんと噛んでたべてくださいね。あと、僕はシーツを洗濯場に置いてくるので食べ終えたら水につけておいてくださいね」
首を少しだけ縦にふる返事が帰ってきたのでその場を後にする
師匠は必ず僕に朝を起こさせる。と言っても、かなり朝が弱い師匠を起こすのは一筋縄ではいかない。
四年前から師匠の弟子になったけど弟子になって一番大変だったのは、師匠を朝起こすことだった。師匠はあまり文句を言わない人で口数少ない。でも、すぐに表情にでる。他の人にはわからないらしいが僕や師匠の古くからの知り合いには一目瞭然だ。悲しかったり、怒ったりと様々な一面を四年間見てきたが、朝起きれずに朝食を食べれず、かなり不機嫌なまま研究に取り掛かる様は見てとても残念だった。一度研究を中断してご飯をとったらどうかと聞いたら時間が勿体無いと言い絶対に食べようとしなかった。そのくせ、無理矢理起こすと研究中に舟を漕いでいたり、朝食中に突然眠りに入ってしまったりとこっちが心配になるほどの惨状だった。
そこで、僕がとった手段は、朝食の匂いで自然と起こすことだった。食べることが至福の時の師匠には効果覿面だと思ったからだ。最初は、僕の料理をお気に召さなかった様でほとんど残していたが、今ではちゃんと食べてくれるようになった。師匠に
「...魔法使いやめて料理人になれば?」
と言われるほど上達した。
さて、洗濯場にも着いたので洗濯をしなければ。
すると後ろから今では聞きなれた精霊言語が後ろから聞こえてきた。
「(おはようございます。アレン)」
「(おはようございます。リュー様)」
後ろに立っていたのは、師匠の召喚精霊のリュー様だった。リュー様は、水系統の精霊の最高位で、本当は僕や師匠の様な人間はなんの代償もなしに呼び出すことも出来ないのだけど師匠は、研究の成果の一つである効率的な魔法陣の作成の仕方を応用して召喚したらしい。
とにかく、リュー様はすごいのだ。だから、僕も失礼のないように普段から気をつけている。
「(いつも通り流暢な精霊言語ですね。これからも精進してくださいね)」
「(ありがとうございます!これからも頑張ります!)」
やった!心の中でそう叫び、粗相をしないように気をつける。リュー様は滅多に人を褒めない。基本、師匠の事以外で褒めたことを見たことがない。
もちろん、褒められてるときはかなりすごいことをやっているのだが。それこそ、人に例えると勲章授与ものの功績でもないと例えない。それでも褒めないこともある。精霊にとっては人の範疇でのことなんて価値がないらしいのだ。それなのに褒められるということは僕ってかなりすごい?
「(ですが、浮かれていることは少し減点ですね。だいたい、あなたはいつも詰めが甘いのです。そう、この前の研究の時も...)」
しまった。浮かれていたことがバレてしまった。こうなるとリュー様は長い。こちらに弁解させずに矢継ぎ早にまくし立てる。この状態が2時間、3時間と続くので受けるこちら側としては溜まったもんじゃない。
「(聞いているのですか!全く、あなたはいつもそうですね。人が話しているとき何か別のことを考える。それは相手に対する最大の侮辱ですよ。)」
「(はい...すみません...許してください)」
「(いいえ!今日こそは許しません)」
その時だった。
「おーい、リューちょっと来て」
やった!師匠がリュー様を呼んでいる。
「(後で覚えておきなさい。)」
静かにそう伝えられた僕は身を震えさせることしかできなくなった。