プロローグ
蝋燭の炎が揺れるたび、壁に映る大きな人の影が躍る。
小さな部屋だ。蝋燭が一つ、テーブルの上に置いてある。その明かりだけでは、部屋全体を照らすことはできない。
静まり返った室内にいるのは四人。
大きなテーブルを囲むように座っている。
彼らは一様に、難しい顔でうつむき、それぞれに何かを考えている様子だった。
扉が軋んだ音を立て、部屋に一人の女性が入ってきた。彼女は、四人を見渡せる中央の席についた。
蝋燭の明かりに浮かんだ姿に驚いたのか、いくつか息を飲む音が部屋に響いた。
女性の首から下は、まともだった。
だが、その顔は……。
女性はゆっくりと客たちの顔を見回した。
「わたくしが申し上げましたのは、全て変えられる未来ですわ。そんな不安げな顔をなさらないで」
おっとりとした女性の声に、四人は顔を上げた。その中の一人の男が口を開く。
「だが、ショコラ嬢。心臓麻痺で死んでしまうなど、どうやって回避すればいいのです。どんなに注意したところで、私には今更どうすることもできないではないか」
ショコラの表情が動いた気がして、男は息を飲んだ。
慌てて視線を落とす。
彼女の顔を見ると、二晩は寝込むことになる。
彼女と目を合わせると、呪いがうつる。
根も葉もないと思っていた噂が男の頭をかすめた。実際に彼女に会ってしまったら、噂の全てが真実のような気がしてならない。
彼女の表情が動くはずはないのに。
なぜなら、彼女は今……。
「ムース伯爵。大丈夫ですわ。わたくしの噂はご存知でしょう。魔性に憑かれた娘……。ええ、その通りです。ですから、わたくしは、皆様の悪い未来を変えることができるのです。わたくしの力を宿したペンダントさえあれば、あなた方は救われます」
彼女は片腕を持ち上げた。彼女の手には、金色の鎖のついたペンダントがあった。
「それさえあれば、夫は戻ってくるのですか」
思わずといったように、ムース伯爵の正面に座る妙齢の女性が声を発した。やつれた顔には、焦燥の色が濃く表れている。
「ええ、もちろんですわ。マカロン婦人」
暖かな声音。
蝋燭の炎が揺れる。
ショコラの緑色の肌に映る陰影が変わり、どこか、笑ったように見えた。