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03 起承転結の転は、空回りという意味だろう。

ただただノリでGO!


「ふっふっふっ。ついに……ついに来たわ、ラストダンジョン!」



 ベアトリス様は拳を握り締めて、魔王城を睨みつけます。

 まぁ、気持ちは分からなくないですね。あれから手に入った黒歴史ノートは十冊になりました。

 ボスクラスが毎回ノートを装備するんですが、その度にこちらの衣装や必殺技が変わるんです。

 戦闘後、ベアトリス様がノートを確認したところ(私は見てません)ボス戦にはそのノートがルールとして追加されるみたいだとわかりました。



*****


「月に代わってお仕置きよ!」

「エリア、格好いいわよ!」

「え、何で私が主役……って勇者達が!」


「「……」」


 思わぬ衝撃に二人で無言になってしまいました。


「水星が水の勇者で、火星が火の勇者」

「金星が土の勇者で、木星が風の勇者……まぁありかしら」

「そして、ベアトリス様がタキ○ード仮面」

「よかったわ、レオタードじゃなくて」

「そしてイケメンだったはずなのに、なぜかガチムキのおっさんセー○ー戦士に」

「見ちゃダメね」

「敵に攻撃される前に味方からダメージを受けます」


*****


「テク○クマヤコン×2 竜騎士になーれ♪(*^ ・^)ノ⌒☆」

「スッチーとかじゃないんですね。竜騎士て」

「ちょっと憧れた。後悔はしてない」

「あ、勇者たちが竜になってます。二人は槍に変身ですね」

「武器変身ってロマンよね!」

「はいはい」


*******


とまーらーないー、○らいをー、めざしてー


「テーマ曲きました」

「ザ魔法少女ね」

「おっと、風の勇者様がメガネになりました。でも女体化ではないんですね。女体化なしであの服は破壊力抜群です」

「残りの勇者はロボット変身ね」

「勇者様が数合わせにしか見えなくなってきました」

「そうねー」


*******


「……えーっと、今回なんでしたっけコレ」

「おジャ魔○どれみ」

「携帯の候補で出てきてびっくりです」

「マクロ情報はいいから! えーっと、みんな変身姿ね」

「普通に魔法使いのローブ姿ならいいんですけどねー」

「金髪だからすね毛も金色ね」

「セー○ー戦士でも見ましたけど、すね毛が微妙にチラリズムでやっぱり破壊力抜群です。そしてまたガチムキ。イケメンどこいった」

「モロ出しより、チラリズムの方が効果抜群」

「色々削られてます」


*******


「ネタがつきません。今回はー……カードのキャプター、エリアですね」

「ヒーローに変身かと思いきや、クマの着ぐるみ装着キタコレ」

「か、可愛いですよベアトリス様!」

「フォローはいいわよ」

「えーと、勇者様は……今回は放置ですか」

「物足りなくなってきてない?」

「そんなことは……」


******


マ○リークマ○ーリタヤンバラ○ンヤン♪


「またテーマ曲ですね」

「うわぁぁぁ! このステッキ持ってた!」

「あれ? アラフォーって……?」

「大きくなっていたけど、これだけは買ってもらったのよ。可愛いし」

「気持ちはわかります。で、問題の勇者様は」

「サリーちゃんのお友達と弟たちか」

「よしこちゃん」

「聞こえないわ!」


*****


 あ、思い出すだけで何か嫌な汗が出てきました。

 十冊全部は思い出していませんが、このあたりでいいでしょう。もう、ね。はい。

 小さな頃なら大喜びでしょうけど、大人の今は苦行でしかありませんでした。

 まぁ、いいんですよ。エリアもベアトリスも顔は美人ですし、見かけは15歳。

 問題は羞恥心だけ。なのは実は私だけで。

 ベアトリス様はノートを入手する度、中身を確認しているようで。

「く、黒歴史過ぎる!」とか呻きながら読んでいらっしゃいます。

 読まなきゃいいのに。


 まぁ、そんなわけでベアトリス様の精神はガリガリ削られていて、目が血走っているわけです。

 攻略者、もとい勇者様方からは真剣な眼差しって見えているようです。

 知らないって素敵だなぁ。



 え? 敵役ですか? 適当なゲームのラスボスが順番に出てきました。倒し方も普通なのでツッコミません。


****


 ラストダンジョンも勇者様方の活躍でサクサク進みます。


「この先が魔王の玉座の間か……」


 大きな扉の前でみんなは立ち止まりました。

 様式美として、魔王は玉座に座っているのでしょう。


「扉を開けるぞ……」


 ギギギギギィィィ……


 目の前に広がるのは誰もいない玉座の間。

 黒くて豪勢な玉座が鎮座しているだけです。


「な!? 誰もいない?」

「魔王はどこだ!?」

「一体何が起こっているんだ!? く、もしや我々は罠にはめられたのか!」

「そうか、魔王は我々がいないうちに王国に魔の手を……」

「待って! まだ奥に部屋があるようよ!」


 ベアトリス様が指差す先は、玉座の横にある壁でした。

 隠し扉でしょうか。


『ご用の方はインターホンを押してお知らせください』


 ……隠していませんでした。


「ベアトリス様」

「……押すわ」


 ベアトリス様が、張り紙横にあった普通のインターホンを決死の覚悟で押します。


 ピンポーン


「はーい」


 インターホンから男の人らしい声が聞こえてきます。


「何かしら、この気の抜けるやり取り」

「間違っても玉座の横でやるやりとりじゃないですね」


 バタバタとインターホンの後ろで音がした後、壁に突如扉が現れました。


「はいはーい、今あけまーす」


 ガチャ


 出てきたのは、真っ黒黒の格好をした、顔に青い刺青のある男性でした。

 魔族ってどうやらみんな青い刺青があるみたいなんですよね。

 ということで、この人も魔族ですし。

 明らかに今までよりも格が違うのも感じます。


 見詰め合うことしばし。


「……押し売りお断りでーす」

「コラマテ魔王」

「やめてくれ! 俺は今から大規模レイドを指揮しないといけないんだ! みんなが俺を待っている!」

「絶対嘘でしょ! そんな言い訳するのうちの旦那だけだと思ったのにテンプレなの!?」

「旦那!?」


 え!? 今、何か聞き捨てならないこと口走りませんでしたかベアトリス様!?


「……お母ちゃ……よっちゃん?」

「え゛……本当にお父さん?」


 え!? さらにこの展開よくわかんないんですけど。


「なーんだ、お母ちゃんかぁ。ビックリしたなぁ。あ、啓太と幸子には会った? 二人とも城で働いてるんだよ」

「はぁっ!? え、何それ何それ!」


 ベアトリス様が慌てていらっしゃいますが、魔王らしき人は扉を開けてニコニコしてます。


「お母ちゃんなら入りなよ。あ、お連れさんは荷物邪魔なんでそこら辺に置いて入ってもらえます? 城の人たちここのやつは触らないんで」

「いやいやいやいや」

「いやー、啓太と幸子もこっち来てるからお母ちゃんもいるだろうなぁって思ってたけど、美人さんになったねえ。あ、日本式なんで靴脱いでくださいね」


 装備品を手放すのもちょっと、とは思いましたが、まあ今までの戦闘で肝心なところは剣は使わないので玉座の近くに剣や盾を置いて扉をくぐりました。

 通されたのは、普通の日本の家でした。玄関あがって居間に通されて……というところでベアトリス様が泣き出しました。


「ベアトリス様……」

「ちょ……お父さん……何で」

「一応魔王だからさー。イマジネーション魔法って言うのかなぁ。やっぱり家が落ち着くからこの家作っちゃった。空間魔法だね☆」

「うざ」

「美少女からの攻撃、魔王は心臓に氷の刃が刺さり瀕死だ!」


 どうも、この家はベアトリス様の前世の家のようです。

 懐かしさに感動しているんでしょう。


「じゃあお父さんが買ってくれたコップも?」

「あるある。朧気な記憶だからちょっと違うかもだけど、ちゃんとあるよ」

「そんな……」


 郷愁の思いに浸っているのか、ベアトリス様が黙ってしまいました。

 魔王に促されるままちゃぶ台の周りに座ります。勇者たちも鎧を着たまま私の後ろに座って黙っています。黙りすぎて気持ち悪いんですけど。


「……あれ、魔王は色々魔法で作れちゃうんですよね」

「作れるねぇ」


 私が代わりに話しかけても、魔王は警戒すらしないようです。うんうん頷いています。

 この顔だけ見てると、普通にいいお兄さんって感じなんですけどね。


「じゃあベアトリス様、いや奥さんの黒歴史ノートって魔王が作ったんですか?」

「いや、あれは違う。召還魔法なんだよ。お母ちゃんが死ぬ時に捨てる箱ってあったんだけど、一家でトンネル事故死亡だったからさぁ。誰も処分出来ないし、ってことで魔法が使えるようになってから召還でこっちに呼んだの。全部召還すると疲れるから覚えてるものはイマジネーション魔法で作ったんだ」

「何でもありですね」

「まぁ、魔王だし」


 なるほど、あんな黒歴史ノートをイマジネーションで作るとか酷いなと思ったらそういう理由でしたか。

 ハッと気を取り戻して、ベアトリス様が魔王を睨みます。


「じゃあ、何で毎回ボスキャラがノート装備してんのよ!」

「俺じゃないよー。魔王ルート発動したら、俺は名乗りあげなきゃいけなくなるしさー、段ボールからノート飛び出していくしさー。取り戻そうとしても『そのアイテムは現在使用出来ません』ってテロップ出るし」

「くぅぅぅ! システムが憎い!」

「とりあえずノートはキーアイテムでしたよね。使う場所はここでしょうか?」

「段ボールあるある。はい」

「何もないとこから出てきたわよ」

「ものぐさには最強魔法、召還魔法だね! 一メートル先のコップも引き寄せるよ!」

「またメタボ検診引っかかりたいの!?」

「やだなぁ。魔法の力で体型維持ですよ。だって魔王だもん☆」

「うざ」

「美少女からの攻撃、魔王は心臓に氷の斧が深く刺さり瀕死だ!」

「とりあえずノートを……」



『ベアトリスは''よしこのも☆う☆そ☆うノート vol17''を闇の宝石箱に入れた!

 ベアトリスは''よしちんの素敵ノート vol23''を闇の宝石箱に入れた!

 ベアトリスは''よしこ様の禁断ノート vol26''を闇の宝石箱に入れた!

 以下略』



「ダメ、SAN値が削られる……」

「ベアトリス様! 最後の一冊です!」

「お母ちゃんファイト〜。しかし段ボールが闇の宝石箱かぁ……」

「言わないでー!」

「あ、段ボールのうちっかわによしこの宝石箱って書いてあるね。なるほどー」

「殺す!」

「大丈夫、俺はお母ちゃん大好きだから〜」

「ぐぅっ……とにかく最後の一冊よ!」


『ベアトリスは''よしこりんのイケメンはみーんな俺の嫁ノート vol39''を闇の宝石箱に入れた!


闇の宝石箱からどす黒い光が溢れ出し、暗闇に包まれる!』



「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 気がつけば魔王の玉座の間に移動していました。

 魔王は玉座に座り、アンニュイに肘掛けに肘をつき頬杖をついています。

 先ほどまでの人の良さそうな男性ではなく、冷たい眼差しでこちらを見ています。


「な、いつの間に!?」

「魔王、貴様謀ったな!」

「ふっ! 騙される貴様等が愚かなのだ」


 魔王は立ち上がり、漆黒のマントをバサリと翻します。

 私たちの格好を見ると、おっといつの間にやら戦闘モードになってました。

 この服は一番最初に魔王の声が空から聞こえてきた時の服ですね。

 勇者様方も剣と盾を装備しています。ほんと、いつの間に?


「闇の宝石箱の力は戻った。闇の巫女が自ら取り戻してくれたおかげでな!」

「な、どういうことだ!?」

「冥途の土産に教えてやろう。闇の巫女の祈りがこめられなければ、闇の宝石箱はただのガラクタだ」

「祈り……ああ、読みながら悶えてたのが祈り換算ですか」


 あれ? ということはさきほどのベアトリス様の旦那さんという話もまるっきり嘘なんでしょうか?

 結構何でもありだから、この後の展開が読めません。


「くっ! そんな! やはりベアトリスではなく俺が持っていれば!」

「はっ! 貴様ごときが持てば闇にとらわれていただろう。闇堕ちした勇者か、笑えるな!」

「闇の宝石箱の力があったとしても、我々はお前に決して負けはしない」

「ふん。だから愚かなのだ」


 魔王の手には黒く輝く美しい宝石箱があります。


「え? あれが? 段ボールはどこへいったんです?」

「闇の宝石箱の真の姿がこれよ」

「じゃあ、ノートじゃなくて指輪とか宝石の方が格好になっていたんじゃないんでしょうか」

「それでは闇の巫女の祈りがこめられんからな。さぁ、力の前に平伏せ!」


 私達はとっさに身構えます!


「エター○ル・フォース・ブリザード!!」


「ベアトリス様!」

「ごめん、ほんとごめん!」


 平謝りしているベアトリス様にも容赦なく魔王の手から吹雪が降り注ぎます。

 が、炎の勇者が剣で吹雪を斬りました。勇者パネぇっす。


「これはシナリオですか?」

「違うわ。ノートのどこかに面白かった厨ニスレの必殺技を書き留めた記憶があるの」

「書き留めないでくださいよ! 読んで終わりでしょ!」

「だって、まとめサイトも消えちゃうことあるし、パソコンは共有だったし、やっぱりノートが一番落ち着くんだもん!」

「歴代の魔法少女もそれぞれ書きとめてましたもんね」

「うぅぅ……」


 私とベアトリス様が漫才している間にも、魔王と勇者の戦いは続いているようです。


「まだまだこのぐらいは序の口だ!」


 魔王は闇の宝石箱を掲げています。


「今まではノートにある技をこちらが使ってましたけど」

「今回からは魔王もそれが使えるということね!」

「でもさっきの魔法って全ては凍りつくんじゃ?」

「まぁ連発式だし、一回一回の威力は大したことないのかも」


 闇の宝石箱が黒い光を放ちます!


「ファイナル・ディクショナリー・アタック!」


 宙に馬鹿でかい辞書らしき本が出現し、それが猛烈な勢いで落ちてきました。

 全員が散開してそれを避けます。


「辞書の角攻撃!?」

「あの質量だと、下手な斧とかよりも危険じゃないですか!?」

「とにかくこちらも攻撃を……」


 一応魔法少女の格好しているわけですし……と、思ったらベアトリス様が私を庇うように前に立ちました。


「一か八か……」

「ベアトリス様?」


 ベアトリス様が決意に満ちた眼差しで魔王を見ています。

 何か策があるのでしょうか!?









「お父さん! ピーマンちゃんと食べなきゃダメでしょ!」

「へ?」

「ぐっ!!」


 魔王が腹部を押さえて苦しそうな表情をしています。



「お父さん、幸子がお父さんのこと臭いって言ってたわよ。ちゃんと歯を磨いてる?」

「ぐぐぅ!」


「加齢臭用の石鹸買ってきたからそれ使ってね。それから、ちゃんと運動しないとメタボになるから!」

「そ、そこまで臭くないよ。ないよね? よっちゃん」


 魔王がすがるように腕を伸ばします。

 ベアトリス様は魔王に近づいてその手を払いのけました。




「お父さん、前に隠れてデパートのプリン食べたでしょ」

「ごめんなさい!」


 魔王はスライディングDOGEZA☆をしました。 



『魔王は敗れた。』




「なんじゃそりゃ」


魔法少女ネタ、他にもあるかと思いますが

もう息切れしているのでこれぐらいで勘弁してください。

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