表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JohnーDough  作者: 0
2/8

Chapter1

勢いで書いたChapter1です。

横書きとは思えない堅い文章になっていますが、あしからず。

 Ⅰ



「パパは、いつ会いに来てくれるの」


 拡張現実のテレビ電話で表示される娘の訴えに胸が締めつけられる様な罪悪感を感じた。

「いつも会ってるじゃないか」

 この返事が娘の望む返事で無いことは分かっている。

「違うの。こんなテレビ電話なんかじゃなくって、ちゃんと会ってお話がしたいの」

「ごめんよ、サラ。でもパパはとっても大事な仕事をしているんだ。分かるかい」

 私は涙を堪え、できるだけ優しい声で語り掛ける。

 会えるのならばどんな事があろうと今すぐに駆けつけたい。しかしそういうわけにはいかない。

「巨大PMC、タナトスに潜入し、脅威、規模を査定せよ。

 捜査目的:現在、世界中に軍事力を供給しているPMCの中でトップクラスの実績を挙げ、最も大規模なPMCであるタナトスだが、様々な面において不透明な部分が多い。

 その一つとして兵士管理システムが挙げられる。タナトスの兵士は不自然なまでに統率のとれた行動と、90%以上の発砲率で他のPMCを圧倒し、現在PMCのシェア75%以上をタナトスが占めている。これは通常の軍隊ではありえない事だ。恐らく何らかのシステムを使い、士気を上げていると思われる。そこで調査してもらいたいのがこの謎のシステムの仕組みを調査すること、それとタナトスの実態調査だ。

 捜査内容:君にはタナトスに一社員として潜入してもらいたい。偽の経歴は用意してある。というのも、タナトスは外部からのコンタクトは一切受け付けない。そこで君にはタナトスの実態を掴めるまでタナトスに潜入してもらいたい。我々WE、つまり「Watch Eyes」は君の活躍を評価している。

 注意点:もしもの事もある。このことについては友人は勿論家族にも他言無用だ。もし情報漏えいが確認された場合、封じ込めを行う。如何なる状況下においてもこのことは絶対である。

 以上、最悪の状況にならないことを祈る。    WE」

 この通知が届いてからもう七年だ。案の定、タナトスはただのPMCでは無かった。タナトスの本来の姿は巨大なマフィアだったのだ。PMCはただの副業にすぎないらしい。それが発覚されてから、私の任務はタナトスの実態調査からタナトスの壊滅、そしてタナトスの首領ゲイツ・バトラーの確保になった。というのも、いまだに全貌はつかめておらず、ゲイツを殺したとして、組織が停止するわけでは無い。

 つまりこれはチェスのようにキングを取るだけでは終わらない。個々の細胞を殺しても意味はない。すべての細胞の根源を断つしかないのだ。

 ゲイツを殺してもシステムは消えない。ゲイツを殺してもまた別の誰かがシステムを利用するだろう。つまり、システムを完全に停止させることがこの任務の本質なのだ。


「パパ、会いたいよ」

 この会話の最後の一言が私一人の部屋に暗く、部屋の隅々まで響いた。

 と、拡張現実のモニターにCALLの文字。差出人はジェイミー、私の妻だ。

「ねえ、あなた。あの子に会いにくることはできないの」

「すまない。私も努力しているんだが…」

「娘が原因不明の病気で死にかけているのよ。娘の命よりも大事な仕事があるっていうの」

 目に涙を浮かべたジェイミーは声を荒げた。

 そう、原因不明の病だ。「人形病」と名付けられたその病はいまだにワクチンが見つかっていないウイルスだ。徐々に筋肉は弱っていき、体が動かなくなる。サラが一人目の感染者なので何とも言えないが、恐らくそのうち植物状態になると予想される。

「ごめんなさい。感情的になっちゃて」

「いいんだ。君も苦労しているんだろう。本当に感謝している」

 するとジェイミーは涙を流し始めた。

「今日、お医者様から言われたの。今までの症状の進行具合から見て…もって一か月…」

「なんだって」

 サラの余命が一か月。覚悟はしていたがいざこうやって現実として突きつけられると堪える。見ると、ジェイミーは唇を噛んでいた。まるで、それが自分の罪だとでもいうように。

 それでは駄目なんだ、ジェイミー。君が悪いわけでは無いのに罪悪感を感じては。本来罰せられるのは私であるべきなんだ。

「ねえ、何故戻って来れないの。お願い、早く戻ってきて。こんなことは言いたく無いけど、サラの生命の炎が消える前に」

「善処するよ。本当にすまない、ジェイミー。愛してる」

「ええ、ジョナサン。わたしもよ」

 通話が切れた。

 今すぐにでも帰りたい。せめて、どんな事情で帰れないか伝えたい。しかし、それは叶わない。情報の漏えい、それは死を意味する。私のせいでジェイミーを危険に晒すわけにはいかない。どのような理由で私が戻って来ないかもわからないまま、それでも私を愛し、待ってくれている彼女を。

 私は泣いた。いや、泣きたかった。七年もマフィアにいたせいか。このような状況でも泣けない自分が恨めしい。七年の歳月は涙も枯らしてしまった。

 涙は枯れ、燃え尽きた。だが、サラの生命の炎はまだ燃えている。すべてを炎が燃え尽きる前に終わらせる。


 一か月。それが私のタイムリミットだ。一か月ですべて終わらせる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ