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廃墟の夢
破壊された街に、化け物の姿になった男がいた。
頭髪がなくなり、首がなく、鼻がなく、唇がなく歯がむき出しで、眼球は白目ばかりになって異常なまでに筋骨が発達していたが、それでも男は人間だとわかった。
男は瓦礫の中から見つけた赤ん坊を抱いていた。
産着にくるまれ、顔の右半分を縦断する十字の刺青がされた可愛らしい女の子。
そちらは人間ではないとわかった。
女の子を抱き上げる、男の手はみるみるうちに赤く爛れて煙を噴き始めた。
溶けていた。
それでも男は女の子を離さなかった。
瞳から零れる涙が、女の子の顔に落ちていた。
やがて男は全身が溶け、黒いどろどろしたものになって死んだ。
廃墟には女の子がただ一人だけ残された。