プロローグ
えぇー、まずは小説初心者です。さらに遅筆不定期更新です。執筆を趣味で始めたので、批判、意見等はかまわないですが、反映されるかは約束できません。よろしくお願いします。
二週間前からは全く想像もしていなかった。自分のすぐ周りに存在する世界。
音、鉄がぶつかり合う、肉が裂ける、悲鳴と怒号と爆音が飛び交う。匂い、血、鉄、獣、汗、土。
光、オークやゴブリンなどの魔物、傭兵や騎士などの人間、火球や雷撃などの魔法、長剣や短槍などの武器。
戦場の光景、ジンが17年の人生でまったく縁がない遠い世界だった。
そしてもっと想像できなかったのがそこで活躍する自分。だが今のジンは戦場に君臨する修羅のよう。
騎士の振り下ろしの剣擊が見える、受け流し返す太刀は首を刈る。横からの歩兵の槍をかわして間合いをつめる、同時に放った剛力の橫薙ぎは相手を吹き飛ばす。
空いた間を利用して打つ必殺剣。蒼火炎十字斬とシロウが名づけた技は、蒼い炎を伴い光る十字の斬撃が前方の二十m程を切り裂き、焼き払い、殲滅する。
そうして周りの敵意と恐怖を集まるのを待って、大声で叫ぶ。
「僕達を速やかに通せ!これ以上無駄に屍を増やす気か!」
『ジン』の要求は戦場の端まで届いたようだ。三十人程の兵士たちは我先にと道を空ける。指揮官らしい若い騎士が静止するが、皆その命令をスルーする。当然だよな、この短い間に二十人近くがあっさり倒されたら、馬鹿でもジン達にはかなわないとわかる。逆に馬鹿な指揮官がわめいているが、対峙したジンに睨まれると
「くそ、撤退だ、撤退するぞ!」 すぐに臆病風に吹かれて逃げ出した。兵士たちも一緒に逃げる。
ふぅー、あの手のテンプレ的指揮官は頭の廻りが悪いくせに、自分の危機には敏感だ。
ジンが振り返ると、後ろに離れていた彼女もこちらを見て笑う。年はジンと同じか少し若い感じ。金の髪に朱の瞳、卵型で少し下がり目なのが美貌を穏やかで暖かく感じさせる。微笑みは春を連想させる。小柄で細身なのが可愛らしくも頼りない。本当に守ってあげたい美少女だ。
・・・いや、ほんと近くに転がっている兵士達の死体と、本人が返り血を処々浴びてなければね。シュールな光景を、見慣れてしまっている自分が悲しいよ。
「ねえジン、シロウ。兵隊さんたちもやっつけたし、埋めてあげましょう。」
そう言って魔法を使う。念動力タイプで一箇所に集め、土を豪快に持ち上げてかぶせる。ジンは騎士達の懐を漁ってる。騎士は分けて埋葬するついでだ。死体のグロイ光景も含めもう日々のローテーションとして見慣れた作業。
作業中、死体達から湧き上がる光の小さい球、色は様々だが蛍のように飛び交い、漂い、俺達に吸収されていく。いわゆる経験値、ここでは魂の欠片と言われている。その少し幻想的なものも含めて毎日のように見続けてるよ。
・・・ここまで見ると俺達が盗賊みたいだが、断じて違うと主張する。だって罪のない?
こちらに襲いかかってきたのは奴らだよ。大体魔族だとか魔物とかで差別するのはヨクナイ!元日本人の感覚として、差別意識などもっていないし、見るといつも引いてしまったが。当事者になってみると想像を遥かに超えている辛さ、怖さ、悲しさ。
ただこの世界における最上級の迫害、敵意、差別を受ける側になったので、そこは諦めて受け入れるしかないよね。リンみたいに。彼女がただほんわかしてるだけでない、芯の強い、現実もちゃんと見ている人なのは素晴らしい。これだけの目にあっても他人への優しさを忘れない。それでいて敵になれば戦士として相手をためらわずに倒す。
ジンは今でも彼女を守るべき対象、自分が強くなれば彼女を戦わせなくても済むと考えている。・・・甘いよ。その気持ちは男としてものすごくわかる。でも自分より遥かに強い、そして自分の力の源を与えた存在なのをしっかり受け止めよう。最低でも俺達が100レベルは上げないと、対抗もできないのは知ってるだろうに。
ちなみに今回の兵士や騎士達とは比べ物にもならない。俺達を100レベルくらいとすると、彼らは20レベルくらいと本当に桁が違うのだ。レベルが10違うと、戦力的に2.5倍の差が出る。単純に戦闘力を計算すると、累積の乗算は約1500倍程度。しかしその兵士と俺達より、リンと俺達の差はなお大きい。彼女はおよそ200レベルに相当する。
このレベル計算はこの世界に普及する強さのランクとは違うものの為、俺独自の計算でしかないのだが。実際に戦闘をした場合は、あるレベル以上を超えるとここまで戦力差は広がらなくなる。多分俺達レベル100人いたら、リンレベルも対抗できるはず。
しかし俺達とリンが敵対することは100%無いと言い切れる為、ただの思考遊びでしかない。『魔王』と『魔剣騎士』との関係であり、一応それ以上の関係でもある。
いいなあ、ジン、爆発すればいいのに。リア充死ねと言いたい。もっとも俺自身にも帰る言葉だが。
「ジン、シロウ、もう先に進みましょう。」
リンが清浄化の魔法をかけてくれる。これは体や服の汚れを落とし、清潔さを保つ便利な魔法だ。ただし気軽に使えるのはリンくらい。俺達も使えるが、この場面でも使えないくらいの負担がある。日本人感覚で説明すると、使うごとに一回1万円かかると言えばいいかな。莫大な魔力量を誇るリンならではである。普通は水浴びとかだ。可愛く微笑みながら手を伸ばして魔法をかけるリンはマジ天使。魔王だけど天使以外の何者でもない。気がつけば作業は全て終わっている。また旅にもどるだけだ。
『昨日は下級の魔物達、今日は人間の兵士達、毎日の様に襲いかかるのは止めてほしいよ。』
『俺』がぼやいたのを聞いて二人が返す。
「ごめんなさい。私に付き合って、一緒にいてくれるから、迷惑ばかりかけて・・・」
「シロウの言葉なんて気にしないで。僕はリンが一緒ならどんな事でも平気だから。」
二人のいちゃつきなんて聞いていられねえ。嫌でも聞こえてしまうが・・・
『ここのバカップル。さっさと行くぞ。今日中に平原を抜けるんだろう。』
見つめ合っている二人の邪魔をする俺をKYと言ってはいけない。むしろ勇者だと思って欲しい。ぼっち歴が長い俺には人の心の機微などわかりはしないのだ。わははは。・・・言って虚しくはあるが。ちなみに独り言や思考遊びも多いのがぼっちの特徴の一部だ。
「ごめんなさい、急ぐのに。忘れて恥ずかしいです。」
顔を赤らめているリンはとても可愛い。
「むう、シロウ。リンとすごす貴重な時間を返してよ。」
口を尖らせるジンはとてもウザイ。
『はいはい、いいから今後の事を話し合うぞ。』
このパーティーでは俺が仕切っている。一応リーダーはリンなのだが、彼女のマイペースに付き合うのは暇じゃない時は無理だ。それに俺が最年長?なのだろう。保護者として責任を感じている。墓に軽く黙祷を捧げた後、旅を開始する。急ぎの旅でも、死者に対して礼儀を忘れないのは、リンの美徳なのに。なぜ人々はこんな面も見てくれないのだろうか。
そんなにも『魔王』が、『忌み子』が怖いのだろうか。
平原の片隅に山と盛られた土の墓。軽く『二人』の旅人が黙祷を捧げて、後にする。一人は金髪の小柄でまだ若い美少女。一人は青髪で中位の背、年は少女より少し上の青年。ただ話し声は三人分聞こえる。よく聞くと青年は、声の質が異なる口調で二人いるように話すからだ。しかし少女は気にもしないで、普通に受け答えしている。
少女はリンディアル・ブラッド・グリエイダ。『血の魔王』、『朱の忌み子』、とも呼ばれ恐れられている。
青年はジン。数週間前はマリーク村のガイルの息子のジン。今は『炎の魔剣騎士』、『蒼炎の剣』とも呼ばれ始めた。
そして二人以外に知る人はいない、三人目。彼は前世が日本人らしく、今はジンに憑依?している。非常識な二人にも不思議がられている。彼の名は、シロウ・セイラン。
青藍志郎という。
多分十話から二十話以内に終わります。