第八話 強制入会
生徒会長、その名前は、この学校において絶対的権力を持つもの。その力は教師のそれを上回るとか…………と、そんな設定はなく、生徒たちの頂点に立つ、ぐらいです。
ただ、今季の生徒会長が異常なのだ。桐島さくら、《桐島グループ》の一人娘。桐島グループは世界で五本の指には入るであろう大企業。一族経営をしており、代々長男がそのあとを継ぐそうだ。
そして、経済的に恵まれた彼女であるが、その才能はまさしく本物であった。何をするにしても、上達スピードが異常に速く、彼女は周囲から神童と呼ばれたそうだ。
って、直斗に聞いた話なんですけどね。非常に気が重い。ここは東棟最上階、一番端の部屋の前。俺の目の前には、《生徒会室》のプレートが掲げられた教室。
開きたくない。ここまで来て往生際が悪いかもしれない。しかし、誰が進んで厄災がある場所へ行きたがるだろうか? 否、誰もいまい。
「僕、異世界に行きた~い」とか言ってる奴に限って実際にその機会を与えられたら、「え、い、いや、その、僕はいいです」とか言って断るんだ。自分の日常が恋しいからね。
そう、この扉は厄災が待つ世界への門。誰が通りたいと思うのか?
俺が躊躇していると、隣で俺の手をずっと握っている都子が俺に言った。
「なにグズグズしてるの? 行こうよ」
「いやいや、都子さん。ここには災いが……」
そこまで言いかけた時、門が開かれてしまった。
「お、君が緋坂燈也クンか。で、そちらの方は?」
出てきたのはモンスター、等ではなく、ボーイッシュ女性であった。彼女のことを知っているのか、都子は少し緊張気味で自己紹介した。
「は、はじめまして。私、燈也の幼馴染で瀬能都子っていいます。今日は燈也がどうしても付いてきてほしいと言うのでついてきました」
……おい、誰もついてきて欲しいなんて言ってない。
「へぇ、そうなんだ。ま、いいや。さぁ、中に入って。さくらが待ってるよ」
俺は渋々、渋々ながら部屋の中に入った。
その部屋の内装は俺が中学時代、国家権力(教師命令)で強制的に生徒会に入った時に使っていた教室とほとんど変わりはなかった。パイプ椅子に白板、長机と、結構素朴? 感じだ。ただ、一人が立っている場所を除いて。
「お待ちしておりました。緋坂燈也さん」
その人は上座に座ってこちらに天使の微笑みを浮かべていた。
「どうもっす」
「ええ。それで、えっと……そちらの方は?」
呼んでいない人物に疑問を思ったのだろう。首をかしげている。が、先ほどのボーイッシュな人が説明をしてくれた。
「この子は瀬能都子ちゃんだってさ、彼の幼馴染で、付いてきてほしいって頼まれたらしく、ついてきたらしいよ」
だから頼んでねぇよ!
「そうだったのですか。別に問題はありませんし、いいでしょう」
「ありがとうございます。桐島先輩」
「さくら、でいいですよ。皆さんそう呼ばれてますし。こちらも都子さんと呼ばせていただくので」
「は、はい。さくら先輩」
……都子。お前さっきまでさくら先輩って呼んでたよな? なに呼び方変えてんだよ。意味わからん。
「えっと、本題入ってもらっていいっすか?」
「すみません。それでは早速本題に入りますね。緋坂燈也さん、あなたに生徒会に入っていただきたいのです」
「お断りします」
返事まで0.3秒。俺以外の三人は唖然としている。
「あ、あのう。一応理由を聞かせていただいても?」
生徒会長はすぐに思考を取り戻したのか理由を聞かれる。そんなの簡単だ。
「面倒ごとは、のーさんきゅーです。それに呼ばれる意味がわからん」
俺が答えると、「プッ」と笑いが漏れた。
「ねぇ、さくら。いいじゃんこの子。面白いしさぁ。気に入ったよ」
先ほどのボーイッシュが笑っている。何がおかしい。
「燈也さん。あなたは少し仕事を手伝ってくれるだけでいいのです。それに、呼ばれた理由はあなた自身が分かっているはずです」
「はぁ、そうですね。でも、俺にメリットがないじゃん。それなのに、ねぇ」
これみよがしに何かよこせアピール。これって意外と効果がある。昔、これを使って友達を一人なくしたからね。
「そうですね。……では、この部屋と、屋上をあなたに特別に開放しましょう」
「いらん。それに屋上は今までも行ってるし……」
「屋上は原則立ち入り禁止ですよ? ちなみに破ったものには指導対象です」
……初耳だ。え、じゃぁ俺、もう屋上いけないの? 少し気持ちが揺らいでしまう。
「ぐ、それでも俺はNOだ」
「そうですか……これは使いたくなかったのですが、仕方ありませんね」
と、生徒会長。懐から何か取り出す。
「では、生徒会長の権限を使い、命令させていただきます。緋坂燈也さん。あなたを今より、生徒会に入会させます」
「…………はぁ?」
コノ人何言ってんの? 権限?
「私は人を無理やりというのは好きではなかったのですが……」
「あ、一年生二人は知らないでしょうね。私が説明してあげる。生徒会長にはいくつか権限が与えられていて、その中に役員が二名以下の時に限り、新たな役員を強制的に入れることができるのさ」
「は? いや、待てよ意味わからんし!」
「そうです。それに燈也はEランクですよ? 戦力にしたいならもっと適任がいると思います」
おお、都子が頼もしく見える。……俺のガラスのハートはいつまでもつかな?
「私も最初は不思議でした。高校生になればランクはほぼ確定しています。でも、彼のは伸びしろがまだまだあると私は思うのです。即戦力は必要ないのです。この一年を通して、結果優秀な方を私は選びます」
「その優秀な方が、燈也ですか?」
「ええ、それに個人的にも彼のことを気に入りましたので」
「なッ、だ、ダメです。燈也は渡しません」
「いえ、あの、もう教員の方には話を通してしまったのですが……」
おい、俺の意思はどうした。それなら何故最初に確認とかとるんだよ。
「だ、ダメなものはダメ。とう君は、とう君は……」
「あーー、都子。どうどう」
なぜかわからんが半泣きになってしまった都子んお背中を叩き、慰める。むぅ、会長さんとは相性が悪かったのか? 昔から自分がどうしても譲りたくない時に限って泣き虫だったからな。
「え、え、え?」
ほら会長さん戸惑ってるし……仕方ないか。
「えっと、もういろいろ裏で手を回されてるみたいなんで諦めます。まぁ、先ほどの条件は当然として……」
俺は都子ののほうを向く。
「なぁ、都子。俺、逃げられないみたいだからさぁ。俺と一緒にはいらないか? 生徒会に」
俺が問うと、一瞬目を丸くしたが、コクリと頷いた。
「と、これが条件ですが、いいですか?」
「もちろんです。では、緋坂燈也さんよろしくお願いします」
「燈也、でいいですよ」
「はい。では、燈也さん。改めてよろしくお願いします」
と、俺は自分の平凡と言う名の日常が崩れていく音を聞きつつ、流される形で生徒会の役員になった。
む、無理矢理感がハンパない(-_-;)