第四話 捜索される落ちこぼれ
俺は翌朝いつもより早く家を出た。学校についても人はほとんどいない。素早く屋上に向いカバンを回収する。屋上には昨日の女生徒はおらず、俺のカバンも屋上の隅の方に転がっていたので気づかれなかったのだろう。事実、なくなってるものはなかったので少しほっとする。
「うし、問題無いな。任務完了っと」
教室に戻る途中も、昨日のことを考える。
謎のフードの男、突如発現した力。
「なんの漫画の主人公だよ」
ため息が出てくる。基本、目立つのとか嫌だ。この力に関しては気になるが、誰かに見せつけたりとかする気はない。世間の評価も現在のままでいい。それなりに楽しんでるし。
「ふむ、人目につかず実験をする。これが一番か」
人目につかないところで【闘神】使ってどんなことをできるのか試してみよう。厄介そうな出来事があれば、こちらから回避すれば問題はないだろう。
結論に至ったところで教室につく。中には誰もいない。
「授業まで時間あるし、寝るか……」
早起きしたんで眠い。俺は睡眠時間を少しでも取り戻すべく眠りに落ちた。
「なぁ、聞いたか?」
「何を?」
朝でなんとか睡眠時間を取り戻し、午前の授業を寝ずに乗り切った俺に直人が少し興奮した様子で話しかけてきた。
「午前中、生徒会長が一年のSクラスに来たらしい」
「……それが何か?」
お腹も空いているのでパンをほおばりながら耳を傾ける。
「ああ、それがなんでも人を探しているらしい」
「人を探しているねぇ、誰を?」
「それがよくわからないらしい。顔もうろ覚えで、だけど一年なのは間違いないって」
「へぇ、そうなの~」
……まさか、ねぇ。嫌な予感がする。
「外見とか、情報ないの?」
「ある。白髪で、身長は170cm 位だってよ」
なるほど。俺、白髪、身長172cm、体重62kg だ。なんか一致してる。いや~な汗が首筋を伝う。
「そういえばお前、当てはまるよな」
直斗がいきなり確信めいたことを口にした。
え? やっぱりそうなのか? 俺探されてんの? いや、でも生徒会長なんかが俺を探す理由なんて……
「なぁ、直斗よ。生徒会長って、女か?」
少し声が震える。嫌な予感しかしない。
直斗はやれやれといった様子で答える。
「そんなことも知らないのか? 桐島さくら さん。二年Sクラス所属にして生徒会長。その実力は三年のSクラスの人間相手でも引けを取らないほど。さらに、容姿端麗で人望も厚い。完璧人間と言ってもいい」
……嘘ぉ。となるとまさか昨日の女生徒って、生徒会長なのか!?
これは何としても見つかるわけにはいかない。なんの理由か知らないが俺を探しているのは間違いないはず。関わらないようにしないと。
「ああ、すまん。少し気になってな。確かに条件は一致してるけど、うちの学校生徒数多いし、白髪の生徒なんて、八十人くらい居るだろ? その中で俺みたいな落ちこぼれを探しているわけないだろ」
「それもそうか。俺たちには関係ないな。あ、それはそうとさ…………」
俺たちはその後も、他愛の無い話を続けた。
~とある教室で~
「なぜ見つからないのかしら?」
あの日からもう一週間が経過している。なのにあの生徒が全く見つからない。うろ覚えだったが特徴は抑えていた。白い髪に、少し痩せ型で身長は170位だった。見た時間は確かに短かったが、それははっきり覚えている。
記憶が薄れないうちにと、翌日から一年生を早速探した。白髪の生徒は何人かいたし、さらに背格好が似ている生徒は実際に会いに行った。しかし、一年生の中にあの男をを倒せるような魔力を内包した生徒は居なかった。念のためにその人物の周囲の人間に話を聞いても、特別な力を持っている人も居なかった。
ならばと、顔は覚えているが念のため2・3年も調査の対象にしたけど、結果はNOだった。それに、生徒会に入れることが無理だとしても、会ってみたい。いまではそんな感情のほうが大きい。何故かわからないが、日を追うごとに、どんどん興味がわいてくる。
それでも、未だに手がかりは自分の記憶しかない。そう思うと、なんとも言えない感情が溢れてくる。一つ、ため息をつくとガラガラっと、ここ――生徒会室の扉が開かれた。
「おつかれ、生徒会長さん。どうしたの? ここ最近表情が優れないね?」
言葉とは裏腹に表情は笑っている。いかにも楽しそうにしている。
「その言い方はやめてくださいと言っているでしょう。乙女さん」
入ってきた女生徒は、桜木乙女さん。私とは幼馴染というやつで、私が生徒会長になった際、自分は副会長になってくれると言ったので副会長に指名させてもらった。
女性の目から見ても、彼女はすごく綺麗で、短めではあるが、その空色の髪がより一層彼女の容姿の良さを引き立たせている。普段はフラフラしているけど、ちゃんとした場ではきっちり仕事してくれる。仕事も素早く的確に済ませてくれるので大変お世話になっている。
「ごめんごめん。で、先ほどのため息は探し人が見つからないからかな?」
乙女はそのまま歩き、さくらのそばにあった席に座った。
「ええ、そうです。全学年探したのですが、見つからなくて……」
「仕事忙しいのによくやるねぇ。全員ちゃんと見たの?」
「勿論見ました。しっかり時間が空いた時は会いに行きましたもの」
「頑張るねぇ。でもさ、今更なんだけど、私にはその男子生徒がさくらの言う怪しい男を倒したとは思えないんだよねぇ」
「……どう言う意味ですか?」
「さくらの話で聞くと、私も戦闘行為は確かにあったと思う。でもさ、あなたが勝てなかった相手だよ? この学校の生徒じゃまず無理だよ」
確かに言われればそうだ。自惚れているわけではないが、自分はこの学校でも一位二位を争う実力は持っていると思う。
「でも、それならあの男はどうなったの?」
「私のカンだと、その少年は確かにその男と戦った。でも、多分負けてる。あなたとの会話の内容から察するに、戦闘狂なんでしょ? その手の人間って、大概見込みのある相手以外殺すのよね」
「で、でも、生徒が居なくなったなんて報告はないよ?」
「だよね。となると、その生徒が戦闘狂の男に認められて、助かった。と、私は推測する」
そう考えることもできるのか、確かに、納得できてしまう。乙女さんを相手にしていると自分はまだまだだと痛感させられる。それに、彼女の推測はいつもあたっていることのほうが、はるかに多い。
「で、私はさくらが男子生徒を探すのは賛成だよ。私の推測が正しければ、その子は確実に今後実力者になる。個人的にも興味あるしね。そこで、私はもう一度さくらに質問するよ? 本当に、全学年の生徒を探したの?」
「ええ、確かに。念のため、全学年のS~Bクラスまでの生徒を探しました」
私がそう答えると、乙女さんは二ヤッと笑った。
「探してないじゃん。言い方が悪かったかな? 私は全校生徒確認したのか、と聞いたんだよ。あれだけさくらが探して見つからないなんて、ありえないじゃん」
「あ……」
完全に忘れていた。あれほどの実力者と戦えたのだから、S~A、少なくともBクラスの人間だとずっと思っていたのだ。よくよく考えれば、その下のクラスの人を探していなかった。
「ありがとう、乙女さん。私、早速探してくるッ!!」
そう言って、さくらは生徒会室から飛び出していった。